鬼教官白の特訓
更新が遅くなってしまいごめんなさい。
「もう、無理! 無理ぃ!」
私は精も根も尽き果てて、もはやへろへろ状態。
だって、あり得ない。 ……私、忘れていたの。『あ!』って、思い出しちゃったときには絶叫してしまった。神域って……時間の流れが止まっているんだった! 集中力が途切れて我に返ったときには体感時間がヤバいことになっていた。私……相当長い時間ここにいる?
しかも、なんなの? ずっと結界を自分に纏わす練習……いや、訓練を続けさせられていて結構キツいのにお腹も空かなければ、生理現象もないんだよ。もはや、私は人をやめるべき?
「ティア、気が散っていますよ!」
白が上から首を下ろしてきて、長くて先が二股になっている赤い舌で私の頭を小突いた。
「っ、痛いよ」
痛みに呻いたはずみに頑張って纏っていた結界が解けてしまう。
ひぇぇ。
「……酷いよ。白」
涙目で見れば、白から更に小突かれた。
「何を言っているんですか? 防御無しで、ただ神聖力と貴女の匂いを封じ込めるだけのチョロい結界ですよ? さほど魔力も要らないでしょうに」
そうなのだ。
今、訓練しているこの結界は皮膚の上からもう一枚皮膚で覆うような感じの結界なの。だから、私に触れられるし、今みたいに小突かれればちゃんと痛い。
確かに魔力使用量は少ない。少ないけれど、絶えず張り続けるのは大変なのだ。結界を意識していないと解けてしまう。不意打ちをくらえば身体が反応した瞬間に解ける。
学園から帰る馬車の中でクリスタルの龍に結界を張ることができたので、自分に張ること自体は簡単だった。だから、『え? 私、天才かも。私、やればできる子だ!』……って、ちょっと思った。訓練を開始した間際だけだったけれど。
……そこから地獄の訓練の始まりだった。
『無意識に結界を纏い続けるようになりましょう』という白の言葉に従って頭からすっぽり覆う結界を纏い続ける。『無意識で』というのは思ったより難しくて、集中していないと結界が解けてしまう。それでも、そうやって結界を纏い続けていれば、そのうちできるようになるだろうと頑張っているのに……私が集中している側から白は、隙を突くように尾を伸ばしてはバシャリと水をかけてきて私の精神力を削いでくるのだ。そして、鬼教官と化した白は……『このくらいで結界が解けていてはだめでしょう?』と、鬼畜にも神気をぶつけて追い討ちをかけてくる。
……本当にたまったものではない。結界が解ける解ける。
「白ぉぉ、さすがにもう無理……」
自分のためだし、必要な事だから頑張った。できるようになりたいから、もっと頑張りたい。だけど……。
「ホワイトナイト様、そろそろ休憩を希望します」
『はーい!』と手を挙げて私は、白とは呼ばずに敢えてホワイトナイト様と呼んでお願いした。
白は、神域にいても……神様の眷属だから、うつし世から切り離されて時間の流れがなくても……通常。というより、ここは白の住処のようなものだ。
前世の華であれば……幼少の時から神域を行き来していて、この場所には慣れていたから長い時間いても平気だったと思う。
でも、私は……ティアは違う。違和感が半端ない。神域にある魂と離れてうつし世にある身体が引き寄せられるような違和感。訓練で疲れているせいか……余計にそれを感じる。それに華は魂だけではなくて身体ごとここへ来られていたし。何もかも違うから華と同じように思われたら困る。
そもそも、白と違って私はヒトなんだよ? ホワイトナイト様、忘れていませんか?
問うように目をやると、白は不思議そうに私をじっと見つめて首を傾げた。
えっとぉ……言葉にしたほうが良いのかな? 以心伝心どうした? 白。 そんなんじゃ、立派なストーカーになれないよ? 心の中で白にダメ出しして口許がちょっと緩んでしまう。
白は、蛇の目を器用に瞬かせると、スッと表情を改めた。
「それは、申し訳ありませんでした」
ひゃあ!
言葉と共に白の身体から眩い光が溢れだしキラキラと輝く粒子になって溶けるように白の形が曖昧になっていく。
乗っていはずの白の背が消えて……
私は、ポシャン!と水の中へ落ちた。
「……ははっ」
すぐ後ろからホワイトナイト様の笑い声がしたと思ったら、腰を掴まれて私は水中から抱き上げられた。首を反らして後ろを見るとホワイトナイト様がとても愉しそうな良い顔をしていてムッとする。
「元の姿に戻るときには教えてください。背中に乗っていたんですから!」
急に足元に何もなくなるとか……本当に心臓に悪い。吃驚したし、落ちるし。
どうして、私が白とは違ってヒトだってことを思い出すように言っただけでこうなるのかな? 私はただ、そろそろ神域からでたいことと休憩したいということを伝えたかっただけなのに。不可解すぎる。
「うっかり、華にしていたような対応をしておりました。そうでしたね。ティアがこれほど長い時間こちらにいらしたのは初めてでしたね」
ホワイトナイト様は悪びれる様子もなく腹が立つほど綺麗な顔で微笑んだ。
「しかし、ほら? 今度は結界が解けませんでしたね。訓練の成果がでていますよ」
え? ……あ!
……解けてないっ! すごい! 私……できるようになっちゃった?
「ティア、お疲れさまでした」
ふえっ?
感動する間もなく、視界が暗転した。
そして、私はベッドの上で目蓋を開いたのだった。
なんか、ホワイトナイト様……酷くないですか?
ボンヤリ天井を見ながら愚痴った。
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執筆が遅めではありますが皆さまが楽しんでくださるよう頑張ります。




