オルフェス・ヴァルシード 3
久しぶりに出てきた登場人物
フェルナンド・ケインズ(メィヴェ王国騎士団総括室副長官)おっとりした人柄(カイルの父)
アルフレッド・メルヴェーゼ(王弟)
ギデオン・セルジュ・メイヴェリア陛下(メイヴェ王国国王)
略称 黒翼特務(黒翼騎士団特務隊)
ここ数日、私はイライラしている。
前線で暴れたいな!
ギリッと奥歯を噛み締めた。
攫われたティアを救出して帰国してからまだ数日だぞ。なんなんだ! これは!
毎日、隣国ヴィオラス王国からそれこそ引っ切り無しに報告が上がってくるのだ。しかも、全て私の娘ティアに関するものばかりだ。
「ああ、もう、その眉間に皺を寄せるのやめてくださいよ。うわ、総長、駄目です! 苦虫を噛み潰したような顔をするのもやめてください! 皆が怖がって仕事になりません!」
横から副長官が私の顔にケチをつけてくる。
フェルナンドめ、忌々しい奴だ。
副長官のフェルナンドは私に向かってズバズバと物を言う数少ない友人の一人でもある。
「なあ、フェルナンド。少し留守にしていいか?」
私の言葉にフェルナンドはサーッと青ざめる。
「何言っているんですか! 駄目に決まっているでしょう! 」
チッ!
舌打ちをした私をフェルナンドは恨めしげな目で見てくる。
「つい数日前に戻ったばかりでしょうが! だいたい、あちらには物凄い量の護衛がついているでしょうに!」
護衛ねえ……。
結局、王家の影も我が家の影も残ったんだよな。黒翼特務も何人か置いてきたし、そういえば……ヴィオラス王家の影も付いてたな。
どうやら、ティアはユリウス・ソルティオ・ヴィオニーヴェ国王陛下からだいぶ気に入られてしまったらしい。我が娘ながら人たらしが過ぎるというものだ。
ヴィオニーヴェ国王陛下の婚約者候補に決まったとアレクから報告されたときには度肝を抜かれた。それを知ったギデオンが、激怒のあまり彼の国に宣戦布告しようとしたのを止めたのはまだ記憶に新しい。あれは、この国の国王の癖にティアのこととなると私より私情に走るからな。
そして、それ以上に頭が痛かったのは、アルフレッド・メルヴェーゼ王弟殿下だ。
自分の方が婚約を申し込むのが早かったと抗議の書簡が山のように送られて来た。都度断っていたのだがな。
それはさておき、
攫われたティアを救出した後、私は直ぐさまその背景の洗い出しにかかった。
しかし、ティアが囚われていた神殿はもぬけの殻で、何一つ痕跡が残っていなかった。
あの時に相対したティアが言うところのオネエ司教の正体も掴めず仕舞いだ。ティアを聖女と盲信し、オニキスなる神を崇める教団の存在すら確認できなかった。非常に腹立たしい限りだ。
捜査は困難を極めていた。その要因として、ティアを救出した場所が聖王国だったということが挙られるだろう。
聖王国は我が国とは友好国だが、何がどう絡んでいるか分からなかった為ティア救出の際は秘密裏に入国した。
あの国は女神セレネ信仰の総本山であるが故に、国の有り様が特殊だ。女神セレネ絶対主義とでもいおうか。神殿が王家に匹敵する程のかなり強い権力を持っている。そのせいで、国が一枚岩ではないのだ。そしてこの国は、大聖女がいるために秘匿性が高い。大聖女は癒しの力が使える稀有な存在であるため外部の者から狙われたことが数多くあり厳重に守られている。
そういうことから友好国とはいえ、元来聖王国は排他的なのだ。
聖王国側からの協力はまず望めないだろう。
捜査はしにくいが……まあ、いい。
それよりも、ティアが聖女と盲信されて攫われたことを奴らに知られるわけにはいかない。ティアを聖王国が囲い込みにくる可能性があるからだ。あの国の神殿は異常だ。なにせ、聖女と思われる少女たちを片っ端から集めているからな。ティアのことを知れば、確かめようとするだろう。それは阻止したい。
ティアが聖女であろうとなかろうと神殿なぞにやる気は毛頭ないからな。
黒翼特務を密偵として聖王国へ派遣しているからそのうち何かしら情報がもたらされるだろう。
まあ、ここまでは想定の範囲内だった。
『総長、ヴィオラス王国から報告です。ティアーナ様が通われている王立ミカエリス学園にユノルト男爵令嬢を発見いたしました』
『総長、ヴィオラス王国から報告が来ています。何でも今週末、ヴィオニーヴェ国王陛下の庇護のもとティアーナ様はエンデ王国第一王子と会われるそうです』
『総長、聖王国第一王子が、ティアーナ様に興味を持たれた様子と報告が来ています』
『総長、ティアーナ様の保護していらっしゃった猫ですが……エンデ王国第二王子だったと報告が!』
次々と挙がってくる報告に頭が痛くなったのは言うまでもない。
アレクはちゃんと仕事をしているんだろうな?
最後のエンデ王国第二王子の詳しい報告早くよこせ! 何やってんだ! あいつは!
くっそ! イライラする!
「すこし、イライラしすぎではないですか? 氷の鬼総長」
魔方陣の輝きと共に茶化すような人の悪い笑みを浮かべた黒い騎士服にまんとを纏った男が現れた。
長い黒髪を緩く結び美しい顔は見るものを惹き付けるが、私からすればイライラが増すだけだ。
しかも、愉しそうな顔をしている。
「ほら、私のティアは引きが良いでしょう? エンデ王国の探し物を引き当てたのですよ。」
お前のティアではないぞ! 何んでお前が得意気な顔をしているんだ!
「それでなのですが、彼、ティアの推し……ティアは彼の信奉者なのです。ティアは保護すると必ず言うはずですので、何とかしてくださいね。」
はあああ?
どこから突っ込んでいいのか分からないが。
「ちょっと待て! 何でエンデ王国の第二王子をティアが信奉しているんだ? これまで会ったことはなかったはずだぞ!」
「ティアは可愛いものとモフモフが大好きですからね。一目で信奉者ですよ。猫ちゃんの時も可愛がっていたでしょう?」
確かに。エンデ王国第二王子はまだ五歳と聞く。人型化してもティアは可愛がるだろうな。
そうか、よし、ここは私が何とかしてやろう!
ティアの望むようにしてやりたい。ティアが保護したいというのなら、強力な保護にしないとな。ギデオンもティアが喜ぶと言えばイチコロだろう。何しろティアのために宣戦布告も辞さないくらいだからな。国の保護くらいそれに比べたら大したことではないだろう。
「わかった。メイヴェ王国で保護しよう」
「あーあ、また陛下の許可なく勝手に決めて……」
何やらフェルナンドの情けない声が聞こえたが無視した。
私から言質をもぎ取った男……アレクは満足そうに急いでいるのかあっという間に魔方陣と共に消えた。
「フェルナンド、やはり暫く不在にしていいか?」
現地で様子を確認したほうがいいだろうと問えば、フェルナンドが珍しく表情を消してキッパリと言った。
「駄目です!」
読んでくださりありがとうございます(*´▽`)
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執筆が遅めではありますが皆さまが楽しんでくださるよう頑張ります。




