これからのこと
「では、お兄様はティアおねえさまの近くにいるのですね。」
これほど小まめに匂いを消していたら、近くにいるって思うよね。
ユリウス陛下のパーティーで出会ってから……いや、獅子もカウントしたら公爵家の庭で遭遇してからの知り合いで、最近では同じ学園に通っているばかりか魔法実技のクラスメートだ。つまるところヒューベルトくんのお兄様のレオンハルト様は、ほぼ毎日会う可能性のあるところにいる。そもそも、何故か私に寄って来るし。もの問いたげな雰囲気で……あれ? 初めて獅子の姿のレオンハルト様と遭遇した時『お前から私が探している者の匂いがする』って、言っていたよね? それって、レオンハルト様が探しているのって、ヒューベルトくんなんじゃ? レオンハルト様は、ずっとヒューベルトくんを探していて……私に聞きたい事というのもヒューベルトくんのことだったり?
「あなたの兄君はティアが通っている学園にいらっしゃいますよ」
「そうですか」
ヒューベルトくんは口許に手をあて何やら思案し始めた。自分命を狙っているレオンハルト様が近くいると聞いてこれからどうするか考えているのかな? でもね、子どものヒューベルトくんが考える必要はないんだよ? ここに大人がいるのだから。
「今後のことですが」
ホワイトナイト様がじっとヒューベルトくんの顔を見つめる。
その言葉に、少し俯き加減だったヒューベルトくんが顔を上げた。
「メイヴェ王国はヒューベルト・ヴィクト・エンデストリア殿下を保護します」
んえ?
ヴァルシード公爵家ではなく? メイヴェ王国が保護?
「氷の鬼総長から全て陛下に報告済みですよ。報連相大事でしょう? 懇切丁寧にティアがヒューベルトくんの信奉者だということを織り込んで報告しましたし、今のところメイヴェ王国とは国交がありませんからね。なんとでもなるのですよ」
は?
何でお父様にヒューベルトくんが私の信奉者(推し)だと言っちゃうの? お父様……絶対不審に思ったはず。メイヴェ王国にいた私にヒューベルトくんとの接点なんてないよ。
不満げな私の様子に気がついたのかホワイトナイト様がやれやれと肩を竦めた。
「大丈夫ですよ。あのお方は親ばかですから。むしろ、そのおかげで手続きも最速でした」
むううう。
親ばかだと……あの時までは一度も思ったことはなかった。悲しみに打ちのめされたあの日まで。
お父様は、騎士団総括室長官という重職のせいでとても忙しく、さほど私はお父様から構われることはなかった。高位貴族の家としてはまあ、それが普通だと思う。けれど、それがアスラン様から婚約破棄されたあの時から劇的に変わった。……私からみても最近のお父様は親ばかだ。何しろ国を出て自ら私を助けに来てくれるほどだ。だから、ホワイトナイト様の言葉で嬉々として国王様にゴリ押しして手続きをしている姿が容易に想像できてしまった。
「ですから、ヒューベルトくんは安心して私たちから守られてください」
柔らかく微笑んだホワイトナイト様にヒューベルトくんはポカーンとした顔をした。
ホワイトナイト様は言葉を続ける。
「エンデ王国の情報を集めていますから、もうしばらくしたらあなたが命を狙われた背景がわかるでしょう。そうそう、近い将来ティアにはエンデ王国に行かねばならない案件がありますので、そのくらいの時期にあなたの案件も片付けましょう」
私の案件……ユランさんとの約束。
そっか。近い将来なんだ。
確かにそうだよね。急がないといけない。ユランさんの村で眠り続けている女性たちが、私のお母様のように弱って死んでしまうかもしれない。そうなる前に、癒しの魔法を一刻も早く取得して……あ、ホワイトナイト様が近い将来というのだから可能なのだろう。ものすごくシゴかれそうな予感しかないけど。
「待ってください! 保護してもらえるのは有難いのですが、ティアおねえさまがエンデ王国へ行かなければならないとはどういう事ですか?」
ヒューベルトくんはとても驚いた表情をしていた。それはそうだよね。普通に考えたら、ただの公爵令嬢が自国と国交のないエンデ王国に行くなんて理解できないよね?
「ティアはこちらが困ってしまうほど強運ですので……色々と引き寄せるのですよ。その一環です。ヒューベルトくんもその一つですので、ご自覚いただきたいですね」
ホワイトナイト様の言葉にヒューベルトくんは顔をしかめた。
強運と言いながら言葉のニュアンスがおかしくない? 色々と引き寄せるって何? なんとなく失礼な事を言われているような気がする。
私がジト目で見ると、ホワイトナイト様は少し困ったような顔をして優しく目を細めた。
思ってもいなかった表情に私は、ドキッとした。
どうしてそんな表情をするのかわからない。おおかた揶揄われるかと思ったのに……。
「……私もまた、貴女に引き寄せられた一つですので」
幾分小さめなホワイトナイト様の声が聞こえた。
ええ?
ますますわからない。
困惑して私がキョトンとしていると……。
ふえっ!
私の腰に回されている腕に力が入り、背後からギュッと抱き締められる。そして、
「……ティアが気にする事ではないからね。今は私から抱っこされていることを思い出して欲しいな」
ディーン様が私の耳許で囁いた。
耳にディーン様の唇の感触がして、一気に顔に熱が集まる。
うええ。こういうのやめてえ!
心臓がドキドキする! 本当に心臓壊れちゃうから!
ジタバタしながら私は、ディーン様の腕から逃れようと力いっぱい身をよじらせた。
「仕方がないね。話も終わったみたいだから許してあげる」
声と共にするりと私はディーン様から解放された。
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