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愛する人は運命の番と出会ってしまったけど私は諦めきれないので足掻いてみようと思います。  作者: 紫水晶猫


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ヒューベルトくんの話


 ヒューベルトくんの可愛い顔が王族のそれになる。

 

 まだ五歳なのにな……。


 ふと、銀色の美しい髪を持つ男の子の姿が思い浮かんだ。


 ……アスラン様も幼い頃から利発で信じられないくらいしっかりしていたっけ。

 私がもの心ついた時にはもうアスラン様は言葉も振る舞いも怜悧なキラキラ輝く王子様だった。うん、ヒューベルトくんよりも王族らしい……子どもに見えない子ども。

 ……胸がキュンとして切なくなる。

 子どもの時から私を見つめるアスラン様の瞳は優しく蕩けた紫色で……。

 アスラン様の紫色の瞳……見たいなあ。

 ……って、いけない!

 ヒューベルトくんを見ていたらうっかりアスラン様を思い出して感傷に浸ってしまいそうだった。そんなことをしている場合ではないのに。


 ぶんぶんとそんな思考を追いやるように私は頭を振った。

 


「……どこから話せば」


 ヒューベルトくんは躊躇うように口を開いた。


「僕とお兄様は母親が違います。有り体に言えば、お兄様は正妃の子、僕は側妃の子です。僕とお兄様はだいぶ歳が離れています。そのせいもあって異母兄弟でもお兄様は僕のことを可愛がってくれました。僕は、お兄様が大好きでした。だから……」


 ヒューベルトくんは苦しそうに顔を歪めた。


「……だから、僕がお兄様を害する事など万が一にもないのに。お兄様と王位を争うことなんて天地がひっくり返ったとしてもあり得ないのに」


 唇をかんで目を伏せたヒューベルトくんに胸が締め付けられる。それほどまでに悲しみを帯びた表情をしていた。

 思わず、ヒューベルトくんに手を伸ばしそうになる。


 ああ、ヒューベルトくんの苦しみを、悲しみを、全ての憂いを私が払ってあげたい。ヒューベルトくんでなくても、子どもがこんな顔をするのは駄目だ。


 すると突然、私の腰に回されているディーン様の腕に力が入った。

  

 うぐっ!


 注意を引き戻されてディーン様を見ると、彼は綺麗な笑みを浮かべていた。

 笑みなのに、何故かゾクリと背筋が凍る。


 ヒューベルトくんを抱き締めるのは駄目らしい。


「あれは、神殿での公務の帰りでした。途中の森で僕の乗った馬車は何者かに襲われたのです。勿論、僕の護衛に騎士たちもついていました。ですが、多勢に無勢でした。しかも、襲ってきた者たちはかなりの手練れで、騎士たちが次々と殺られていくなか……僕の専属護衛騎士が……かなり酷い傷を負いながらも……ぼ、僕を」


 ヒューベルトくんの顔は青ざめ、膝の上に置いた彼の手は固く握りしめられてブルブルと震えていた。


「……僕を命がけで逃がしてくれたのです。その時に、僕は見てしまったんだ! 襲ってきた者の中に……お兄様の側近の一人がいたのを! だから、僕を殺そうとしているのはお兄様なんだ!」


 吐き出すようにそう言ってヒューベルトくんは息をついた。

 本当にヒューベルトくんは命を落としていたかもしれなかったんだ。私もこの国に来た時に襲われたけれど、その比じゃない。

 ……どうしてヒューベルトくんが命を狙われないといけないの? まだ五歳だよ? 何の脅威になるというの? 


 ヒューベルトくんのお兄様レオンハルト様を思い浮かべる。最近少し彼に慣れてきたところで、まだ彼の本質はわからないけれど……そんな非道なことをするような人には見えなかったんだけどな。


「あなたの兄君の側近は何人いるのですか?」


 静かに聞いていたホワイトナイト様が問う。


「五人います。お兄様と常に一緒にいるのは二人です」

 

「あなたが襲われた時にご覧になったのは?」


「お兄様と常に一緒にいる二人のうちの一人でした。だから、お兄様が僕を殺そうとしていると確信したのです」


 待って! それって、いつもレオンハルト様と一緒にいるフローレンス・ベルンとガイアス・シモンズのどちらかってこと? 二人はいつも影のようにレオンハルト様のそばにいたように思う。目立たないから、レオンハルト様の側近と気にもとめていなかった。


「僕は、逃げている間に気が付いたら獣化していて、さっきまで人型をとれなくなっていました。何故、ティアおねえさまからお兄様の匂いがしたのですか? 今までも、微かに匂うことはありましたが、こんなに強い匂いは初めてです。多分、それに驚いたせいで僕は獣化を解くことができたのだと思います」 


 うっ。


 ホワイトナイト様が言った通りだったんだ。

 ヒューベルトくんは、私に付いた獅子の匂い……レオンハルト様の匂いに怯えてあんな風になったんだ。ヒューベルトくんが人型に戻れたのは良かったけれど、ヒューベルトくん、ごめんね。


「今までは、ヒューベルトくん……あなたが怖がらないようティアがレオンハルト様と接触した際にはお風呂とディーンで匂いを消していたのですよ。反対も然り。あなたがティアに接触して匂いを移してしまった時も同じようにしていました。レオンハルト様にあなたのことを隠す為に」


 ホワイトナイト様のその言葉にヒューベルトくんは驚いた顔をした。


 ホワイトナイト様は一体いつからこれらのことを予測して行動していたのだろう。猫ちゃんを魔獣から助けた時からから? よくよく考えると、最初から猫ちゃんを雄扱いしていたし、一度も『猫ちゃん』と呼んだことがなかった。さすが黒翼騎士団特務隊隊長? それとも、さすが白? と言うべき?


「それでは、ほぼ分かっていたのですね? なるほど、それで答え合わせですか。メイヴェ王国の情報収集力はすごいですね」


 思い出すのも辛かっただろうに、ヒューベルトくんは微笑んで見せた。




 健気だ……。

 さすが私の推し?




 読んでくださりありがとうございます(*´▽`)


 いいね、ブックマーク、評価をありがとうございます。とても励みになります。


 執筆が遅めではありますが皆さまが楽しんでくださるよう頑張ります。

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