ヒューベルトくんは可愛いくても王族
更新が遅くてごめんなさい。
ヒューベルトくんは目を見開いて全ての動きを止めた。呼吸さえも……止めているように見えた。
誰も言葉を発しない沈黙の時が流れる。
ヒューベルトくんの目は何を映しているのか……。光の消えたエメラルドグリーンの瞳は虚ろで、見ているだけで悲しくなった。
そして……。
「僕に何が起こったのか知りたいのですか? 」
息を吹き返したかのようにヒューベルトくんの唇から言葉が零れた。
「メイヴェ王国の方々は物好きなのですね。」
ヒューベルトくんはこの場に不釣り合いな笑顔を浮かべた。私のベッドの上でシーツにくるまってブルブルと震えて怯えていたとは思えない平然とした態度に驚く。
ヒューベルトくんは幼くても王族なのだと思う。
『ティアおねえさま、ティアおねえさま。』と、子どもらしく甘えてきたかと思えば、次の瞬間には、王族としての振る舞いをする。
けれど、きっとヒューベルトくんの心の中は心細い気持ちでいっぱいなんじゃないかな。
「ええ、そうなのです。それに、猫ちゃんは、ティアの保護している子猫ですからね。こちらで手厚く面倒をみるのは当然でしょう? 」
ホワイトナイト様は、優しく微笑んだ。まるで子どもに言って聞かせるように。
「猫ちゃんね。あなたからは、あれ、それ、これとしか呼ばれていませんけれどね。」
ムッとしたような表情をヒューベルトくんはした。
「ティアのネーミングセンスは壊滅的ですからね。あなたは豹の獣人の子どもであって子猫ではないでしょう? 私なりの配慮です。」
ふへっ?
なんかディスられてる? 私のネーミングセンスって……そんな?
「僕の人型の姿を見て、あなたもティアおねえさまもすぐにヒューベルトくんと呼びましたね? 僕はこれまで一度も二人と会ったことはなかったと思うのですが? 」
あ……。
あああああっ!
前世でヒューベルトくんって呼んでいたから、今まで何も考えずにヒューベルトくんって呼んじゃってた!
……だよね。ヒューベルトくんからしたら変だと思うよね。しかもヒューベルトくんはエンデ王国第二王子なのに……名前でくん呼び。普通ならあり得ない。不敬もいいとこ。まさか……会う前からヒューベルトくんと呼んでいました……なんて言えるはずがない。どう説明すれば良いのだろう?
「メイヴェ王国とエンデ王国での国交はありませんが、情報は入ってきます。勿論王族のことも。ティアは以前からお可愛らしい豹の獣人ヒューベルト・ヴィクト・エンデストリア殿下の大ファン……信奉者ですので、私とティアの間ではあなたのことをヒューベルトくんと呼んでいたのです。ご不快であれば、エンデストリア第二王子殿下とお呼びしますが? 」
は?
うええ。ホワイトナイト様……まさかのそのまま言っちゃったよ!
噓でしょ?
大ファン? 信奉者? 恥ずかしい!
「ティア、そうなの? 妬けるね。」
ひゃあ。
耳許でディーン様が話したせいで息が耳にかかって……ドキッとする。慌ててディーン様の膝の上から降りようとしたけれど、私の腰に回したディーン様の腕から逃れられない。ドキドキしすぎて心臓が壊れちゃう。
「ディーン様……降ろしてください。」
ちょっとだけ涙目になってディーン様を見上げると、ディーン様は一瞬固まって吐息した。
「駄目だよ、ティア。」
「おい! お前! いつもティアおねえさまにくっつきすぎだ! 龍臭いくせに離れろ! 」
ヒューベルトくんがディーン様を睨んだ。
「エンデストリア第二王子殿下、お断りします。」
ディーン様はヒューベルトくんを挑発するように更に私を引き寄せ腕に力を込めた。
ひょええ!
何でこうなるの? ……っていうか、ディーン様、大人げない。
そして、ディーン様って……龍臭いの?
前にホワイトナイト様がディーン様には獣人の血が流れていると言っていたけれど……。
まさか……龍なの?
だとしたら、ディーン様は王家に連なる者ということになる。
ハッ! としてディーン様の顔をまじまじと見つめると、それに気づいたディーン様が苦笑した。
「詳しくは言えないが、私は王家の傍系なんだ。」
だから、お父様はディーン様を敬っていたのか……と、腑に落ちた。それに、王家の血が流れているから……アスラン様と声と香りが似ているのかも。
「それにしても、龍臭いとは酷いですね。エンデストリア第二王子殿下。」
ディーン様の言葉に、ヒューベルトくんは面倒くさそうな嫌そうな顔をした。
「それ、わざとだろう? ヒューベルトくんで構わない。今更だ。」
そして、伏目がちにヒューベルトくんは私の顔を見てにっこり笑った。
ドキュン!
私の胸はそのあまりの可愛さに撃ち抜かれてしまう。
「僕は、ティアおねえさまのお好きなように呼んで欲しいです。」
ヤバいよ? ヒューベルトくん、可愛すぎるでしょう?
ああ、ギュッと抱き締めたい!
私の推しは前世でも今生でも尊い!
「コホン! 」
ホワイトナイト様が咳払いをした。
「では、話を元に戻しましょう。ヒューベルトくん、話してくださいますね? 」
その瞬間、ヒューベルトくんはスッと表情を改めた。
「わかりました。……僕はこちらで保護されている子猫らしいので。」
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