クリスタルの龍
こんにちは。
読んでくださりありがとうございます。
余談でーす。
王族出てきすぎじゃないの? と思いつつ……ガブリエル様が前々回? くらいから登場しています。ルシアン王国は北の国です。極寒の時期かあるせいで無属性魔法の結界は大変重宝されているそうです。無属性魔法は珍しいと言われていますが、ルシアン王国では高位貴族に無属性魔法の使い手が他国より多くいるようです。
うええ。
精神的に疲れた。王族の名前呼びの強要……エグい。
メイヴェ王国ではそんなことなかったんだけどな。もしかすると、メイヴェ王国では名前呼びは恋人や婚約者みたいに親密な者や親族などの近しい者しか呼ぶことを許されない特別な物だという概念だけれど、他の国では違うのかもしれない。私が神経質すぎるのかも。
魔法技術の教室からの移動途中に、ソルジュから『何だか疲れていない? 』と、労られて……その事を話したら、ソルジュから心底呆れたような顔をされた。かなりショックだ。
『ティアーナさ、鏡で自分の顔を見たことある? ヴァルシード公爵家が他国にも影響を与えるほどの家格だということを理解している? ティアーナが婚約解消された後、恐らく物凄い量の釣書が公爵家に届いたと思うよ?ヴィオニーヴェ国王陛下の唯一の婚約者候補だけど、まだ正式な婚約者ではないよね? 本当にヴァルシード公爵家はどうなっているの? どうしたらティアーナみたいな無防備な人ができるんだろう? 』
と、ソルジュに言われて困惑する。
鏡くらい普通に見るし。うちは公爵家だから家格は国では王家に次ぐけれど、それだけだと思う。他国に影響って何のこと? それに……。
『ソルジュ、私はソルジュの言うとおり婚約破棄されて瑕疵つきなんだよ? そんな私に釣書なんて届くはずがないよ? 家の者からも聞いたこともないし。無防備……は、大丈夫! 私、これから魔法を一生懸命学んで実戦できるようになって強くなるの! 身体も鍛えるし! 』
私がそう言うと、何故かソルジュは遠くを見るような目になった。心ここにあらずといった様子で心配になる。
『え? ソルジュどうしたの? ほら? 帰っておいで! 』
『ティアーナはどこへ向かっているんだろうね。いや、わかったよ。うん。理解した。』
ソルジュはブツブツ呟いていた。
……つまり、結局どういうことなの? 名前呼びは他国では普通なの? 気にしなくても良いの?
私は、訳がわからず首を捻った。
「……ということがあったの。ホワイトナイト様は意味がわかります? 」
学園からの帰りの馬車の中でホワイトナイト様に聞くと……。
「特に問題ありませんよ。ティアに群がる虫は駆除しますし、さほど名前を呼ぶ行為に意味など持たせませんし。ティアは全く気にしなくて良いです。ああ、こう言ったほうが良いですね。他国はメイヴェ王国と違ってその辺りは緩いのでしょう。大丈夫ですよ。」
ホワイトナイト様の言葉の前半は良く分からなかったけれど、名前呼びが他国では大したことでは無いらしいことは分かった。
ちょっと安心したし、大袈裟に反応していた自分が少し恥ずかしくなった。
少し顔を赤くした私を見てホワイトナイト様は、優しく私に微笑んだ。
「ティアの傍には私がいます。大丈夫ですよ。 早く魔法を身につけて強くなりましょうね。」
うん。そうだった! 私は無防備に見えるらしいから、頑張らないとだ!魔法を使えるように早くなりたい。うん。頑張ろう。
そう思ったら、俄然やる気がでてきた。
表情がパッと明るくなった私に、ホワイトナイト様は頷いた。
「では、これを。」
んと……。これは?
ホワイトナイト様が私に差し出した手のひらにクリスタルでできた小さな龍が載っていた。
「これは……まぁ、ティアの魔法訓練用擬似被守護対象です。このクリスタルの龍は本来、穢れなき聖なるもののはずなのですが、ある理由から少し穢れてしまっているのです。普段は結界で守護されていますから、結界の中にある限りこれ以上穢れることはありません。しかし、このように、私が外に出してしまいましたので、時間が経つにつれてこの世界の穢れに汚染されていきます。穢れは何処にでも多少はありますから。
そこで、無属性魔法の訓練です。ティアは守護の為にこの龍の周りに結界を張ってそれを維持してください。この龍は小さいでしょう? これを囲める小さい結界でいいのです。どうです? 簡単そうでしょう? 」
ホワイトナイト様はニッコリ笑った。
だけど、ちょっと待って? 私、結界なんて張ったこともないし、張りかたも分からないんだけど?
ホワイトナイト様の笑顔とは裏腹に私は顔を引きつらせてしまった。
「これを。」
ホワイトナイト様は空いているほうの手で私の手を取り、クリスタルの龍を握らせた。
「要はイメージです。ティアの場合は感覚でやったほうが上手くいくでしょう。」
コテンと私は首を傾げた。
イメージ? 感覚?
むううう。
眉を寄せて多分変顔になっている私に気がついているはずなのに、ホワイトナイト様は素知らぬ様子で話を続ける。
「ティア、これはね。メイヴェ王国王家に伝わる守護龍のクリスタルです。代々大事に王家が守ってきたものなのですが……。それをね、ティアの魔法の訓練のために借りてきたのですよ。」
へ?
えええ! 嘘でしょう? それは駄目でしょう!
何てことを? ホワイトナイト様!
そんな大事なものを借りてきちゃ駄目だよ!
……って、よく国王様、貸し出したよね?
「小さいですが……アスラン殿下の化身のようでしょう? 龍ですし。 」
……………。
何て?
……今、何て?
ホワイトナイト様……どうして? アスラン殿の化身だなんて……。
銀色に輝く長い髪とアメジスト色の瞳が脳裏に浮かぶ。その瞬間、胸がキュンと苦しくなった。『ティア。』と呼ぶアスラン様の声が聞こえたような気がして、ドクドクと心臓の鼓動がはやくなる。
「ティア、これは、アスラン殿下の守護龍のクリスタルです。少しだけ気配がするでしょう? 」
ホワイトナイト様はその美しい顔から表情を消してまるで私の心を推し量るように見つめた。
ゾクリとした。
私は、ホワイトナイト様から何を試されているの?
「このクリスタルの龍が黒く染まるのを見たいですか? ティア? 」
駄目よ!
アスラン様の守護龍のクリスタルなのでしょう?
なら……。
「 絶対に私が守る! 」
自分でも驚くほど強い声がでた。
「良くできました。」
フワリと私の頭の上にホワイトナイト様の手が載った。
「イメージはそれで、心の中で思い描いてその龍を囲ってみてください。」
擬似被守護対象……。
クリスタルの龍。
これはアスラン様。
……私はアスラン様をいかなるものからも守りたい。
アスラン様を守る檻をつくろう。
私は、ハッ!とした。
知らなかった。私はアスラン様を檻に閉じ込めてしまいたかったらしい。
ふふふ。
檻をイメージしてしまうなんて。
アスラン様の愛を失ってしまったあの時から、身体の真ん中にポッカリ空いてしまっている穴を、アスラン様を幸せにしたいという想いで塞いでいる私は……もしかしたら歪なのかもしれない。
でも……いいや。
もうずっと前に決めてしまった。
だから、もう檻でいいよね。誰にも知られることのない私だけのイメージで守ろう。
指先から暖かい何かが溢れてきて、クリスタルの龍を囲んでいく。
美しくも不浄のモノには無慈悲な檻で幾重にも囲っていく。
そして……。
擬似アスラン様を聖域に閉じ込める檻を完成させた。
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執筆が遅めではありますが皆さまが楽しんでくださるよう頑張ります。




