白い光の属性
私は、帰りの馬車の中でホワイトナイト様に詰め寄った。
「ホワイトナイト様! 三属性だったんですけど? 白って……白ってなんですか? 」
ホワイトナイト様はクスリと笑うと澄まして言った。
「白は私のもう一つの名前ですよ? お忘れですか? 」
「……は? 」
ポカーンと呆けた私を見てホワイトナイト様はクスクスと笑った。
「むぅぅぅ。何を言っているのですか! 」
怒った顔で上目遣いに睨んでみせると、どうしてなの? ホワイトナイト様の顔が蕩けた。
「私のティアは可愛いですね。」
「ホワイトナイト様、真面目に答えてください。」
更に怒ったように言ったのに、ホワイトナイト様は嬉しそうな表情をする。全くもって謎だ。
「思いの外、貴女から離れているのは辛かったので。構ってくださらないのなら、あのユノルト男爵令嬢とキャロライン・レンブラント公爵令嬢……ついでにレオンハルト・フォーティス・エンデストリア殿下に報復に行ってきますよ? 」
「はい? ……どんな脅し? 」
構ってってホワイトナイト様は何歳ですか?
それに……。
報復って何なの? 報復って……駄目でしょう?
あれよね? 朝の面倒臭かったやつ。
「まぁ、しませんけれどね。厳重抗議くらいですかね。」
いやいや、厳重抗議も駄目だよ? 学園では生徒の身分は関係ないんだから、せいぜいあれは生徒間の揉め事だよ?
「ふふっ。」とホワイトナイト様が笑った。
そこで、何で笑うのかな? 私は真剣に心配しているのに。
不本意なホワイトナイト様の態度に目で抗議する。
だって、ふざけているだけだと思うけど……ホワイトナイト様って本当にやりかねないんだもの。
「顔色が赤くなったり青くなったりしているティアは最高に愛らしいです。」
こっちはハラハラしているのに、何故かホワイトナイト様を喜ばせてしまった。
中身……白だよね? 神様の眷属だったのに、転生するとこんなに残念になるの?
思わず私は遠い目になってしまった。
「私はまだ神様の眷属ですよ。それはさておき、三属性出てしまったのですね。想定外ですが……白ですし、大丈夫でしょう。」
ホワイトナイト様がやっと真面目に返答してくれた。
「白って何?」
「私です。」
ぐっ……。またそこに戻るの? はやく先が聞きたいのに!
しかもぜんぜん面白くないから! だんだん私も疲れてきた。
「もういいもん。お父様かディーン様に聞くから。」
拗ねたようにいうとホワイトナイト様の瞳が不穏な感じに揺らめいた。
「そのようなつれないことを仰るのですね? ティア。」
ホワイトナイト様の低い声に、馬車の中の気温が一気に下がった。
怖いから。あああ。本当に今日はどうしちゃったの
? いつもよりうざ絡みされている気がする。
そんなに、遠くからの護衛はストレスだったのかな?
「他の人には聞きません。聞きませんから教えてください。」
口早にそういうと、ホワイトナイト様はそれはもう美しい顔でニッコリ笑った。
絶対ホワイトナイト様に私、遊ばれているよね。
ホワイトナイト様の手のひらの上で転がされている感が半端ない。
ジト目で見ていると、ホワイトナイト様は『……私はティアに甘いですからね。』と意味不明なことをぶつぶつと呟いてため息をついた。
「白の属性ですが、無属性です。」
「無属性? 」
無属性って何? 私、聞いたこともない……ん?あるか? 華が読んでいたラノベに出てきたような?
「前世のティアは、神聖力を使って全てを行っていましたが、こちらでは魔力を使ってということになります。貴女の持つ癒しや浄化は光属性。結界や貴女独自の適当なオリジナル魔法は無属性ということになるのでしょう。」
ん? 今、何か不可解な言葉が入っていたよね?
「……私独自の適当なオリジナル魔法? 」
なんじゃそりゃ?
頭の中で、思わず公爵令嬢とは思えない言葉が出る。
私の心を見通したかのように心底呆れた顔をホワイトナイト様はした。
「華はまあ、私の指導を聞かない聞かない。神聖力を使った正しいやり方はほぼ無視。その代わりに適当に……私が虚しくなるくらい大雑把な使い方をしていたでしょう? 」
そうだっけ?
知らない。ぜんぜん覚えていない。
私ってそんなだった?
「そうですか。覚えていらっしゃらないのですね。困った人ですね。」
ホワイトナイト様はやれやれと肩を竦めた。
そうか。白は無属性なんだ。
何はともあれ知りたかったことを教えて貰えて、やっとスッキリした。
明日からの魔法実技の授業頑張ろう。
ユランさんとの約束をはやく果たせるようになりたいし。
「ねえ、クラスに次期大司教候補がいたんだけど、すごい光属性だったよ。彼ならユランさんの村の奇病を癒せない? 」
今日の魔力属性判定の時にチラッと頭を掠めたのだけれど。
「無理でしょうね。傷を治すのと病を治すのでは難易度が天と地ほど違うのです。それこそ、神聖力でなければ不可能です。実際のところ、この世界のなんちゃって大聖女では無理だということです。」
「なんちゃって大聖女とは? 」
さっきから変な言葉ばかり飛び出すホワイトナイト様を不思議そうに見つめた。
「異世界より召喚されて神聖力を持ってこの世界へ来た聖女では無い者のことです。」
ますます変な言葉が出てきたんだけれど。
異世界より召喚って……それこそラノベ。
「ティア、この世界はそういう世界なのですよ。歴代の稀にいた本物の大聖女は召喚されて来た異世界の者のことでしょう。ティアもわかっているはずです。ここはかなり変貌を遂げた『華のお気に入りだったメイツガの世界』なのでしょう? 」
私は、ハッ!とした。
これまでに、ホワイトナイト様にそれを告げたことがあった?
アスラン様から婚約解消されて以来、色々なことが起こりすぎて、前世を思いだしたと思ったら、ホワイトナイト様が白だったという驚愕の事実。学園に入ったら入ったで、ヒロインらしきピンク頭が二人居て……いつも頭の隅で『メイツガ』の世界らしいと思いながらも、ストーリーが違うし、攻略対象者も何か違うしで困惑していた。ここは『メイツガ』の世界だろうけれど……ホワイトナイト様が言うとおり正しくかなり変貌を遂げた世界だ。そう言われるとしっくりきた。
ホワイトナイト様は、どうしてそれを知っているの?
「貴女のことなら何でも知っていますよ。お忘れですか? 貴女の中には私の分身がいるのです。華の時など貴女が生まれ落ちた時からです。ですから、ええ、一緒に乙女ゲームもやりましたとも。」
ぶほっ!
何も飲んでいないのに蒸せそうになる。
「貴女の中にいるということで、魂の結び付きも強固ですので、貴女の考えていることも大方以心伝心ですね。今となってはストーカー冥利に尽きるというものです。」
いや、最後の方は絶対間違っているから。ホワイトナイト様が護衛を通り越してストーカーっていうのは何となく感じていたけれど言葉にされると酷くヤバい男に見えるんだけど? 大丈夫かな?
呆れたように見やればホワイトナイト様は嬉しそうに笑顔を浮かべていた。
「これで、私と貴女の密な繋がりについて相互理解が完了したということで良いですね? 」
「私にプライバシーは? 」
「大丈夫です。私は神様の眷属ですから空気と同じですよ。」
そうか。ないのか。
項垂れてしまった。
でも、まぁ、確かに慣れって怖いもので例えそれがホワイトナイト様の一部であったとしても白一くんが私の中にいるのは気にならないんだよね。
華の影響だよね。
「それで、何を申し上げたかったかといいますと、貴女から離れていてもちゃんと見守っておりますので安心してくださいね。貴女の心の声さへ拾えると自負しております。白一いますしね。」
今日は色々ありすぎたよね。
うん、でも白一くんは最終手段にしたいなあ。
なんなら今日だって何とかやり過ごせたし。
そんなことを言ってくれるホワイトナイト様はなんだかんだ過保護だ。それでも今日は、私の為に手を出さないで見守ってくれたんだろうと思う。きっとやきもきしながら。
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