一難去ってまた一難
もし本当に、ユノルト男爵令嬢が転生者で『メイツガ』のヒロインだとしたら、大変なことになる。アスラン様の『運命の番』でありながら……逆ハー狙いだとか冗談じゃない。
胸がムカムカする。
「何か勘違いされているようですが、私から近付いてはいませんし、近付くつもりもありません。」
自分でも吃驚するほど冷たい声がでた。
「先程の会話は公務の一環ですので気になさる必要はないかと思います。」
ユノルト男爵令嬢は、私の言葉に気勢が削がれたのか視線をさ迷わせた。
「あ、そう。なら、いいわ! 気を付けてよね! 」
そう言い捨てると踵を返して去って行った。
ユノルト男爵令嬢……私がアスラン様の元婚約者だと認識していないよね? あの感じだと。顔を合わせたのはあの夜会での一度きりだったし……。
「なんだか、入学早々大変だね。」
ソルジュが気の毒そうな目で私を見た。
「うん。だね。朝から疲れたよ。」
「私が、ティアーナを抱っこして教室まで連れていってあげようか? 」
肩を落とした私にソルジュが、からかうように言うから笑ってしまった。
「つ、ふふ。やめてよ! 私の周り過保護な人が多過ぎて、冗談に聞こえないの! ふはっ、ふふふふ。」
「なんだ、もう経験済みなんだね。ざーんねん。」
ソルジュが大袈裟に肩を落として見せる。
ソルジュはわざと私を笑わせてくれているみたいで、私は涙がでるくらい笑いがとまらかった。
しかし、災難は続くものなのね……と、思い知る事態が教室で待っていた。
「貴女、私の弟と同じクラスでしたのね! 不器量な貴女などユリウス陛下とは全く釣り合いませんのに、まだ恥ずかしげもなくこの国にいましたの? とっとと帰国したらどうですの? 」
ソルジュと教室へ足を踏み入れた瞬間落とされた聞き覚えのある高飛車な声。
うええっ!
目を遣るまでもない。
今日は仏滅なの? 厄日なの?
目の前がくらっとした。
キャロライン・レンブラント公爵令嬢だ。ユリウス陛下の王宮でのパーティーの時に控室に奇襲? 文句を言って詰めよってきた人だ。
どうしてここにいるの? ソルジュとの会話で学園にいることは知っていたけれど。
「レンブラントさんの双子の弟の片割れがこのクラスにいるんだ。昨日は欠席だったけど。」
ソルジュが私の耳元に唇を寄せて教えてくれる。
う、まさかのクラスメートが彼女の弟? 面倒臭い。って、キャロライン・レンブラント公爵令嬢って上級生だったの?
「何か私にご用ですか? レンブラントさん。」
教室にいる皆の視線を感じる。それはそうよね。上級生が一年のクラスに来ているのだから。しかもこの国の公爵令嬢だし。興味津々だよね。
「貴女が入学したと聞きましたので、見に来てあげたのですわ。」
「はあ。」
「相変わらずちんくしゃですのね。ちんくしゃのくせに、ユリウス陛下を誑かす女狐! 私の美しい弟が貴女に誑かされないか心配になりましたの。」
笑顔を歪めながら見下すように私を見る。相変わらずの人を蔑むような態度にため息しかでない。
どういうつもりなのかな?
あーあ。『ユリウス陛下! 陛下のご威光効いていませんよお! 』心の中で文句を言ってしまった。
「レンブラントさん、学園からの通達を無視されるのですか? それを差し置いてもヴァルシードさんはメイヴェ王国からの留学生であり公爵令嬢ですよ? 先ほどの言葉はあまりに失礼ではありませんか? 学園内でのこととは言え国際問題になりますよ? 」
ソルジュが私の前に出て淡々と告げた。
ソルジュって、学級委員長だけあってしっかりしている。すごいなあ。今日は庇ってもらってばかりだ。それにしても、私って絡まれ体質になってしまったのかな? 学園に着いてからずっとだよ? いい加減にうんざりだよ。
「お姉様。もうよろしいでしょう? そろそろ授業が始まります。ご自分の教室へお戻りください。」
どこからか、静かな落ち着いた声がした。
「あら、可愛いミシェル。私のことを心配をしてくれるの? ふふふ。優しいのね。ねえ、良いこと? この女狐に誑かされないように気を付けるのよ。」
キャロライン・レンブラント公爵令嬢……キャロライン・レンブラントさんは、ソルジュの言葉を全然聞いていなかったように私のことを女狐扱いし続ける。ちんくしゃと私のことを貶しているくせに私が男を誘惑できるほど魅力的だと思っているってこと? うーん。
眉を寄せて考えこんでいると、入り口側から二列目前から三番目の席に座っている男子と目が合った。肩にかかるさらさらの銀髪に清らかな雰囲気の可憐で美しい顔……天使みたい。無作法にもまじまじと見つめてしまった。
「はい。気を付けますので、お姉様はお帰りください。」
その男子が言った。
この人が、キャロライン・レンブラントさんの弟?
全然似ていない!
驚いた表情を浮かべた私にソルジュが教える。
「彼が、レンブラントさんの弟ミシェル・レンブラント公爵令息だよ。」
ミシェル・レンブラントさんは、お姉さんのキャロライン・レンブラントさんとは対照的に穏やかな表情をしていた。天使のように見えるせいか慈愛に満ちた表情にも見える。
……だけどこの人、キャロライン・レンブラントさんの言葉に『はい、わかりました。』って言ったのよね。つまり、肯定したということ。
顔は天使でも中身は一癖あるのかな?
でも、まあ、今後そんなに関わることもないと思うし……。
私は、深く考えないことにした。
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