猫ちゃんを甘やかすとこうなる
後悔した。ホワイトナイト様の言った通り……後で、ものすごく後悔した。
だって……。
「ティア、これから学園? 」
何故かディーン様が私の部屋の入り口に立っていた。
「お早うございます。ディーン様。はい。学園にいって参ります。」
朝からどうしてここにいるの?
「そう。」
ディーンさまは頷いて、おもむろに私の腰を引き寄せた。
んえ?
突然の出来事に何が起こったのか理解できない。
えっ? 何で? どうして? どうして?
「ティア、貴女はいけない子だね。」
気がついたらディーン様に抱きしめられていた。
ひょえええ!
もう、パニックだ! なんで? なんで?
「ティアの意思は尊重しようと思うけれど、豹の匂いをつけたままなのは駄目だ。」
「お風呂に入ったから! もう大丈夫です! 」
私がそう言うと、ディーン様は私の首筋に顔を埋めた。
ひゃっ!
「まだ残っている。ティアがアレと暫く一緒に眠るというのなら、毎日匂いの上書きをしないといけないね。」
ディーン様は更にギュッと強く抱きしめた。
「そのまま、じっとして。」
まって! まって! おかしいよ? ディーン様から匂いの上書きなるものをあの獅子と遭遇して以来されているけど……よくよく考えたらおかしいよね? ディーンさまはそれだと獅子と同等かそれ以上の匂いを持っていることにならない?
そんなことを考えたせいで、くんくん……とディーン様の匂いを嗅いで確かめてしまった。
ちょうどディーン様の頭が私の顔の横にあって……頬に彼の髪が耳が触れている。
そして……。
ああ。
ディーン様から香る匂いはアスラン様と同じ匂いで……。
アスラン様の良い匂いに包まれて身体がゾグゾクした。おかしいことに、ゾグゾクが気持ち良い。
匂いに魅了される。
嗅いじゃ駄目なやつだったのに。
そう思った時には……ディーン様の匂いで腰が砕けてしまっていた。
クテッと力の抜けた私の身体に気がついてディーン様は私を抱き上げた。
だってすごく良い匂い。
アスラン様の匂いと同じだから胸がキュンとしてしまって何だか切なくなる。
ドキドキ心臓の鼓動がものすごいことになっているし……身体がどんどん熱くなって溶けてしまいそうだ。
ディーン様の匂いって何なんだろう。
ふわふわした頭で考えるけれど……ふわふわしすぎて……。
もうちょっと……。
「……ディーン様、欲しいの。もっと……。」
アスラン様の匂いをちょうだい!
匂いのおねだりをしてしまった途端、
「やりすぎです! 」
抱かれていたディーン様の腕の中からポン!と私は消えてホワイトナイト様に抱っこされていた。
アスラン様の良い匂いが消えると、瞬時に頭の中がクリアになった。
「すまない。」
ディーン様は片手で顔を覆って俯いていて、何故か耳が赤い?
「わかりましたね? ティア、アレと一緒に寝るのなら毎朝これをやられますから覚悟しておいてくださいね。」
ええええええ!
「何でディーン様なの? ディーン様の匂いでどうして上書きできるの? 」
羞恥で涙目になりながらホワイトナイト様に聞くと、彼は私の耳に唇を寄せて囁いた。
「ディーンは獣人の血が流れているのです。内緒ですよ。詳細は……以前お話したように秘匿されているので話せませんが。」
むうううう。
ディーンという名前以外……家名、地位、全て秘匿って……。
でも彼が双龍騎士ってユリウス陛下に肩書きを告げていたのと、彼をお父様が頭を下げて敬っていたのを見た。双龍騎士が何なのかは知らないけれど恐らく地位はお父様より上だよね。
ホワイトナイト様も何気にディーン様に仕えているっぽいし。
だけど、そうかあ。ディーン様って獣人の血が流れていたのかあ。
あれ? そしたら……。
「獣人の血が流れている人でよければ、ユランさんでも良いんじゃない? 」
私がそう言うと、ホワイトナイト様にしては珍しく顔色を悪くした。
どうしたのかな? 急に具合でも悪くなったの?
「アレク、ティアを私に渡して。」
ディーン様の地を這うような低い声がした。
何で?
急に部屋の温度が下がったみたいに寒くなる。
……ってディーン様から冷気が出ていない? 魔法……漏れているよ?
「まって! まって! 学園に遅れちゃう。」
今、ディーン様に渡されたら……私、危険な気がする。
「ティア、ユランよりディーンの方が強い獣なので、ユランでは駄目なのです。わかりますね。」
私は、早くこの場から解放されたくて、兎に角コクコクと頷いた。
「ディーン、ティアも理解したようですので私たちは学園へいって参ります。いいですね。」
そうして、時間に遅れることもなく私とホワイトナイト様が乗った馬車が学園に着いた。
間に合って良かった。
今朝みたいなのが、毎日続くのか……。朝から疲れちゃう。でも……。
「猫ちゃんの為なら致し方ない。拙者頑張るでござる。」
気合いをいれて呟いた私に、ホワイトナイト様はお馬鹿な子を見るような目をした。
「何、サムライみたいなことを言っているのですか。気を抜きすぎです。貴女は公爵令嬢なのですよ。華みたいなことを言うのは禁止です。」
ホワイトナイト様が白だからって、調子に乗って怒られてしまった。
いつも通りのホワイトナイト様だ。……厳しい。
「馬車を降りる前に貴女に話しておきたいことがあります。」
ホワイトナイト様が真面目な顔をした。
何だろう?
私はホワイトナイト様を見つめて言葉を待った。
「学園での護衛ですが、私が常に傍にいるとティアは学園での生活がしにくいでしょう? 貴女の中には白一がいますから、少しだけ貴女と距離を保ちながら護衛をしたいと思います。」
読んでくださりありがとうございます(*´▽`)
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執筆が遅めではありますが皆さまが楽しんでくださるよう頑張ります。




