猫ちゃんを甘やかしたい
その日、夜が更けて……。
私は、ふと目が覚めた。
「ぅんんん……。」
目を擦る。
朝? うんんん。
真っ暗な室内。外から月の光が薄く差し込んでいる。
んん?
身体に押し付けられている何か暖かい感触に気がついた。
ふえっ! 何?
シーツに隠れて見えない。ちょうど私の腰の辺りだ。
恐る恐る、そっとシーツの中を覗いた。
あ……。
そこには、私にしがみつくようにして眠っている猫ちゃんがいた。
うわあ! 可愛い!
起こさないようにシーツを元通りにする。
夕方遅くにホワイトナイト様との会話中、何故か私のベッドに飛び込み隠れるようにシーツの中に潜り込んだ猫ちゃん。
あの後……。
『いつまでもレディのベッドの中に居るとは、お仕置きが必要ですね。』
凍てつくような冷たい声のホワイトナイト様から引っ張り出され、猫ちゃんは乱暴にポイっと投げられたのだ。
まだ子どもなのに毎回扱いが酷すぎる。いくら、猫ちゃんよりは頑丈そうな豹だとしても子どもだよ?
『んにゃあ! 』
猫ちゃんは器用にクルリと回転して床に着地すると、恨めしそうにホワイトナイト様を見ていたっけ。
ホワイトナイト様は大人げないことに魔力で猫ちゃんを威圧して震え上がらせていた。
記憶の中の白は神さまの眷属で神々しくて慈愛に満ちていたのに……今生の白であるホワイトナイト様は何ていうかすごく人間臭い。
それにしても、猫ちゃんはどうしたのだろう? ホワイトナイト様が、猫ちゃんでも雄だから一緒に寝ると怒るのに。……猫ちゃんも躾られて? 寝るときには窓辺に備え付けられた猫ちゃん用の寝床で寝るのに。
安直に『隠れんぼ? 』って、冗談みたいに言ったけれど、何だか……猫ちゃんは怯えていたように思う。何かを恐がってシーツの中に隠れたんじゃないのかな。
ここは公爵家で守りも固くて、おまけに……ホワイトナイト様が結界まで張っているからどこよりも安全なはずなのにね。本当にどうしたのかな?
だけど、こうして私にくっついていることで猫ちゃんが安心できるのなら……皆には内緒で一緒に寝ようと思う。
バレても猫ちゃんと暫く一緒に寝ると言い張ろう。
だって、猫ちゃんは、私がさらわれた時に私を追いかけてきて助けようとしてくれた。小さい身体で子どもなのに……私の足の縄を口から血を流しながら一生懸命噛み切ってくれた。だから、猫ちゃんが私を必要としてくれているのなら……今度は私が力になろう。こうして一緒に眠ることで猫ちゃんの心が安らぐのならそうしたい。
私はまだ非力だけど猫ちゃんを守ってあげるね。
ふふふ。ちょっと烏滸がましいかな?
私に触れる猫ちゃんの身体はとても暖かくて、あれえ? 私の心が安らいでくる。逆だよぉ。
……ああ、そういえばアニマルセラピーってあったよねぇ? ……前世で。
猫ちゃんは可愛くて……やっぱり癒しだ。
そうして、私は再び眠りに落ちた。
暗い室内は静寂に包まれていた。一人と一匹の規則正しい呼吸の音が微かに聞こえる。
そこに、魔方陣が浮かび上がりホワイトナイト様が現れた。
ホワイトナイト様はベッドの方へ歩み寄るとそこには影が一つ立っていた。
全身黒いために目を凝らさなければ暗闇に紛れてしまう。
ホワイトナイト様は防音の結界を自分と影の周りに張った。
「こちらにいらしたのですね。」
影は頷いた。
「……ティアは無防備すぎるよね。」
不機嫌そうに言う。
「申しわけありません。ソレは再教育しておきます。」
「そうだね。……ティアにもお仕置きしないといけないね。」
私は、眠っている間にそんな会話がなされているなど露知らず朝までぐっすり眠ったのだった。
「ティアーナお嬢様、お早うございます。」
サリナの声で私は目を覚ました。
うんんん。あれ! 猫ちゃんは?
私の腰の辺りにあった温もりが消えていた。
見ると猫ちゃんはいつの間に移動したのか自分の寝床で寝ていた。
まさかと思うんだけど、猫ちゃんたらホワイトナイト様にバレないように明け方とかに移動したとか?
うちの子……賢いかも。
ベッドを出て学園に行く準備をし始めたとき、ホワイトナイト様がやって来た。
「サリナさん、ティアを入浴させてください。」
いきなり指示をだす。
昨晩入っているから大丈夫だよ。前世では夜と朝と入っていたけれど、朝はシャワーだったし。
こちらの世界では普通は朝は入らないんだよ。
早めに起きるようにしているから、時間的には問題無いんだけど、急にどうしたのかな?
訳がわからなくて戸惑っていると、ホワイトナイト様はやれやれと肩をすくめた。
「ティア、バレないとでも思っていましたか? 昨夜は、ソレとベッドを共にしたでしょう? 破廉恥ですよ。」
ふえ? 何故バレた?
ホワイトナイト様は自分の胸の辺りを指でトントンって指し示した。
胸? あ!
私の中には白一くんがいたんだった! うわあ……ってことはホワイトナイト様に何もかも筒抜け?
守ってもらっているのはありがたいのだけど、ある意味ストーカー並みの監視。恐るべしだよ。
「でも、そのくらいで、どうしてお風呂? 汚れるようなことはしてないよ? 」
「そのようなことをされていたら困ります。」
ホワイトナイト様は片手で顔を覆って天井を仰いだ。
「ヴァルシード公爵様と他一名が乱心します。絶対にやらないでくださいね。」
何を言っているの? 全くもって意味がわからない。
「それで……風呂に入る必要性ですが、ソレは」
ホワイトナイト様は顎で窓辺の寝床で丸まっている猫ちゃんを指し示す。
「豹です。猫よりも匂いが強いです。獣人は匂いに敏感ですからね。これ以上、エンデストリア殿下の関心を引きたくはないでしょう? 」
むううう。確かに。
「ティア、雄と一緒に寝るのは駄目だと教えましたよね? 」
ホワイトナイト様からお説教の気配。
だけど、今回は聞かないと決めている。
「暫く、私は猫ちゃんと一緒に寝ることにしたの! 誰が何と言おうと絶対に! 」
私にしては珍しく強く言うと、ホワイトナイト様は苦虫を噛み潰したような顔をした。
「後で後悔しても知りませんからね。」
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執筆が遅めではありますが皆さまが楽しんでくださるよう頑張ります。




