ホワイトナイト様の秘密 2
……華?
ホワイトナイト様が……私を華と呼んだ?
え、は? えええっ?
華って……私の前世の名前で、ホワイトナイト様の口から出てくるはずのない名前。
どうして? どうして?
ホワイトナイト様が知っているはずがないのに。
「……まだご理解いただけないようですね。」
頭の中で堂々巡りして半ば思考停止に陥りかけている私を見て、ホワイトナイト様はもう何度目かのため息をついた。
「これはあまりやりたくなかったのですが……。」
ホワイトナイト様の身体が眩い光に包まれた。光に溶けるように彼を形成する境界が曖昧になって……キラキラと光の粒子が集まるようにして再構築されていく。
そして、パーッ!と光が弾け……。
と同時に、私の目の前に白く輝く大きな蛇がとぐろを巻いて現れたのだ。
「……し……ろ? 」
私の口からこぼれる。
「はい。白です。」
ホワイトナイト様……白は満足そうに笑った。
「どうして? どうして、白がホワイトナイト様なの? いつから? あ……私が華だったことを知っていたの? どうして白? 白も転生したの? なんで? なんで? 」
大混乱継続中の私の頭を白は宥めるように舐めた。
「前世で貴女が亡くなった時に貴女の魂を追ってきたのです。」
「あ、えっと、そうか、うん。」
今度は額を舐められる。
白は私を落ち着かせようとしているようだ。
まだ頭の中は混乱しているけれど、すこし落ち着いてきた。とりあえず、信じ難いのだけど……ホワイトナイト様が白であるということは理解した。目の前で姿を変えられれば流石に信じないわけにはいかない。
そして、
まぁ……分かっていたけれど前世で私は死んだんだね。どうして死んだのか全然思い出せないけど。
「ねぇ、白、私はどうして死んだの? 老衰? じゃないよねえ? だって年をとった自分の姿が全く記憶の中にないもの。」
前世の記憶を思い出してからずっと気になっていたことが口を衝く。
白は暫く動きを止めると、そっと私の身体に巻き付いた。
「それは、貴女自身に思い出して欲しいです。」
白?
「だから、私からは言えません。」
パーッ!と光が弾けて、眩しさに目を瞑った。
光がおさまり、目をあけると。私に巻き付いていた白が消えて、ホワイトナイト様が優しく私を抱きしめていた。突然ホワイトナイト様に戻って私が驚いていると、おもむろに彼は腕を解いた。
「それでですね。」
いまいちホワイトナイト様から白、白からホワイトナイト様への変化についていけていない私を置き去りにして、言葉を続ける。
「貴女がさらわれた時ですが……。」
ふぇ?
ホワイトナイト様! そこ? そこなの? この流れでそっちの説明なの? ちょっと待って! 私……そんなことより白がどうしてホワイトナイト様になったとか、そういうところが気になるんですけど?
「貴女がデスターニア公爵家に向かう途中に襲ってきた者たちの捜査が行き詰まっていましたし、貴女を襲う者たちを把握しておいた方が後々良いかと思いましたので、静観したのです。」
えっと、それって、黙ってさらわせたってことよね? ……それで私は餌?
ああ! でも、もうそれは良いのよ!
「白一を貴女につけていましたし、もしもの時は白一と私が合わされば良いだけですので。」
私の焦燥感に気がつかないのか、しれっとした顔でホワイトナイト様は言う。
「まぁ、簡易転移門を使われたのは予想外でしたが。そのせいで数刻貴女を見失って氷の鬼総長から大目玉を食らってしまいました。」
そんなことは済んだことだし、今の私にとってはそれどころではなくて……それよりもっと知りたいことがあるの。
「ホワイトナイト様はいつ前世を思い出したの? どうして今まで教えてくれなかったの? ホワイトナイト様と白はどっちが本当の姿なの? 」
「おやおや、質問だらけですね。」
ホワイトナイト様はクスリと笑った。
だってまだ、夢をみているみたいに信じられないんだよ。
心臓がドキドキしている。
あんな目にあって、前世を思い出して混乱したり戸惑ったりしたし、正直こんなこと誰にも言えないと思っていた。白一くんと白がこの世界に居てくれただけで心強かった。それなのに、白がホワイトナイト様だったなんて……とても驚いたし、すごく嬉しい。
「私は白でありアレクセイ・ホワイトナイトでもあります。どちらも私なのです。魔導師ですし白蛇であっても問題ありません。」
えっと……ずいぶん大雑把なような。
「前世の記憶はこちらで生を受けてから、つまり、最初からありました。所謂……神さまの眷属チートですね。だから貴女が生まれた日に会いに行ったのですよ。貴女はとても可愛くて尊くて……貴女のお顔を見た瞬間に私は貴女の下僕になったのです。」
何か最後の辺りホワイトナイト様……変だから!
前世の白はホワイトナイト様と違ってもっと神聖で神々しかった気がするのだけど。
転生しちゃったせいで……もしかしたらバグっちゃったのかも。
「ティア、今失礼なことを考えましたね? 」
うわ! 何故わかっちゃったの!
慌てて、私は首をブンブンと振って否定した。
「ティアが、前世を思い出したら私が白だとお伝えするつもりでしたよ。」
ホワイトナイト様は目を細めた。
「最近では、むしろ積極的に思い出していただこうと思っていましたが。」
えええ?
「思い出さなければ、神聖力が使えませんからね。ティア、魔法がいるでしょう? 貴女の目的の為にも、貴女自身を守る為にも。」
ホワイトナイト様は静かな眼差しを私に向けた。
うん。私は、魔法がいる! 私の目的の為には使えた方が良い。それに、盲信教団からも狙われているみたいだし、ユランさんとの約束も守らないとだし。
「さて、そろそろ結界を解かなければ。二人きりで長い時間一緒にいるのは、はしたないですからね。」
ホワイトナイト様は艶やかに微笑んだ。
そういう色気は白ではありえないんだけどな。
白であってちょっと白とは違うホワイトナイト様。
思わず私は笑ってしまった。
読んでくださりありがとうございます(*´▽`)
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執筆が遅めではありますが皆さまが楽しんでくださるよう頑張ります。




