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オルフェス・ヴァルシード


私の名はオルフェス・ヴァルシード。ヴァルシード公爵家当主だ。我が国メイヴェ王国騎士団総括室長官でもある。まあ、平たくいえば参謀のようなものだ。


騎士団は5つに分かれていて、

アスラン殿下直属銀翼騎士団、サティス殿下直属金翼騎士団、白翼騎士団、紫翼騎士団、魔導士の黒翼騎士団がある。


それらを束ねるさる山のボスみたいな役割だ。

団の間の折衝、戦略を立て任務の指示、指導などその他もろもろ……ああ、雑用係のほうが合っているか。


副長官には必死な形相で止められるが、私は最前線にもでる。自分で言うのもなんだが、私は強い。まだまだ後続の者たちに引けをとらない。

それに騎士たちの士気にも繋がる。私は影で氷の鬼総長と呼ばれているらしいからな。緊張感は大事だろう。


私には娘が二人いる。最愛の妻は五年前に病に倒れ天へ召された。恥ずかしい話だが私は、娘たちの前で号泣し、長い間意気消沈した姿を見せてしまった。そのせいで、わが家では私が思い出して悲しまないように妻の話は極力しないようになってしまった。娘たちには申しわけないことをしたと思っている。


現在、長女のシェルは公爵家の跡取りとして家令の指導のもと王都から離れたヴァルシード領を多忙な私に代わり治めている。


次女のティアは婚約者のアスラン殿下と仲睦まじく、距離が近すぎるのが気になるが幸せそうな様子に安堵していた。何しろ生まれる前から決まっていた婚約だったからな。これで相性が悪かったりしたら目も当てられない。もっとも、その時は王家に楯突いてでも破談にしてやるが。


現国王のギデオン・セルジュ・メイヴェリア陛下は私の幼なじみだ。非公式な場所ではギデオン、オルフェスと呼び合うほど仲が良い。我が家にもお忍びでやって来る。国王がなにやっているんだ!と思うが、注意しても一向にやめる気配はない。お陰で王家の影まで居着いて確実に増えている。ギデオンに付いてきてティアに置いていくのだ。『まだお前にやってないぞ!』と言うと『より安全になるんだから良いじゃないか』と呑気に言う。昔からこいつはティアのことを呆れるくらい気に入っているのだ。生まれた日にやってきて私より先にティアの頬に口付けしやがった!

『一目惚れした!』と乳児にむかって叫んでいたな。お妃どうした?周りにいた医者もメイドも呆気にとられたて固まっていたぞ。

それからというもの、ギデオンは親の私を差し置いて私以上に愛情深くティアの成長を見守っていた。


知る人ぞ知るって感じだが、王家の者たちは気に入った者への執着が強い。ギデオンは幼なじみのせいか若い頃から私に執着しているみたいだったが、ティアにもかなり執着しているようだ。少し鬱陶しい。困ったやつだと思いつつも、ゆくゆくは王宮で暮らすようになるティアにはお守り代わりに良いだろうと放置している。恐らく、アスラン殿下もそうとうティアに執着しているだろうからお互いに牽制しあってちょうど良いだろう。そう思っていた。




しかし、それは前触れもなくやってきた。


「総長!総長!お聞きになりましたか?王都視察の件。」


騎士団総括室で書類仕事をしていると副長官が部屋に駆け込んできた。

副長官は割りとおっとりした人なので、その慌てように眉をひそめる。


聞けば、アスラン殿下の今日の公務で大変なことが起こったらしい。なんでも視察の最中に運命の番と遭遇。あのアスラン殿下がそこにいた女性を掴まえて熱に浮かれたように求愛し始めたのだとか。


はああ?


何言っているんだ!


私は半信半疑で一時もしない間に上がってきた報告書に目を通した。


事実なのか?


全く予想すらできなかったことに頭を抱える。


こんなことがあって良いはずがない。


私は立ち上がるとギデオンの元へ奇襲をかけに向かった。





私が先触れもなく王の間につかつかと入っていくと、ギデオンは疲れたように私を見て人払いをした。


「さて、ご説明願いましょうか。陛下。」


ギデオンに問うた。


「オルフェス、私にも何が起こったのかさっぱりなんだよ。今、影たちに情報をあつめさせている。」


「アスラン殿下は何と?」


「あ、あれに聞くのは無理だな。」


珍しく苛立っているようだ。


「あれはどうなっていると思う?」


逆にこちらに聞いてくる。


何なんだ?


ギデオンは手で顔を覆いため息をついた。


「あれの様子は異様なんだよ。ちょっとオルフェス、ごめん。思い出したら吐きそうだ。気分が悪い。」


「大丈夫ですか?少し休まれては。」


そうとうギデオンは参っているようだ。

今の時点でこれ以上詰め寄るのは無理そうだ。

暫く待って出直そう。


「また伺います。陛下ご前失礼します。」


ギデオンに背を向け帰ろうとしたときだった。

背中に声がかかる。


「オルフェス、百聞は一見にしかずだよ。私が許すから見てきてごらん。」





そして、見に行った先にあったのは、

ムカムカするような光景だった。


アスラン殿下と令嬢の寄り添う姿。

一目でわかる程、アスラン殿下は頬を上気させ魂を奪われたようにトロリとした目をしていた。


これはギデオンでなくとも吐き気がするな。





そこからは、本当に大変な事態になった。

夜会での婚約破棄。


ティアには本当に悪いことをした。

まさかあの場でやらかすとは思わなかった。

いくらなんでも展開がはやすぎるだろう!

知り合ったのは夜会の前の日じゃないか!


隣国のヴィオニーヴェ王がいなかったらティアは精神的な痛手で気を失ったあげく床に倒れてしまっていただろう。


ヴィオニーヴェ王は倒れそうになったティアを抱き上げ自ら馬車まで運んでくれたという。


たまたま部下に呼ばれてその場にいなかった自分に腹が立つ。自分を殴り飛ばしてやりたいくらいだ。



その後ギデオンに呼ばれて行ってみれば、思いもよらない話を聞くことになった。


「はああ?」


いい加減、驚くのにも飽きたぞ!


何が王家に龍の血が入っているから仕方がないだ!

そんなの今まで影響なかったじゃないか!

ギデオンだって普通に恋愛結婚していただろう?

妃いながら生まれたばかりのティアに一目惚れしたんだから『運命の番』……あ、もうこれは私の中では禁句だな。……ってわけでもなかったはずだ。


「それで勝手に婚約破棄と?」


ニッコリ微笑んで見せて嫌みを言う。

ギデオンは顔を強張らせ頭を下げた。


「オルフェス、本当にすまない。」





次の日、


ティアの部屋に行くと

泣き腫らして憔悴しきった娘の姿に愕然とした。

かわいそうに……。

あまりにも痛々しい。

私も泣きたくなってきた。

私の可愛いティアが苦しんでいると思うだけで、自分の不甲斐なさに失望し心を打ちのめされる。これは万死に値するのではないか。いやいや駄目だ。私はティアを守らなければならない。

そして、必ずやティアの憂いを払おう。


ティアに王家の血のことも含めことの顛末を話した。


ティアは驚いていた。王家に龍の血が入ってていることは初めて知ったのだろう。ごく限られた者しか知らされていないからな。


それにしてもアスラン殿下も大した人物ではなかったということか。

アンナモノに振り回されているのだからな。

ティアは未だアスラン殿下のことを想っているのだろう。

こちらにいても、気が滅入るだろうから気分転換に隣国へ行くことをすすめてみた。


ティアは暫く考えていたが了承してくれた。


親友のクラウス・デスターニア公爵が面倒をみてくれるだろう。アレクもいるから身の安全も保証されるだろうし。護衛はだれをつけよう?

頭の中で計画を練っていく。




辛いことなど忘れるといい。





心から願ったのに……

後日計画の変更を余儀なくされる。



ギデオンからのティアと共に登城の要請。

そこでティアはアスラン殿下を諦めないと言った。

彼のために動こうと……心に決めたようだった。

厄介だな。

ティアは、ああ見えて私の娘だからな。

有言実行だろう。

護衛の人選はそうとう吟味しなければ。





そして、厄介なことがもう一つ。


アルフレッド・メルヴェーゼ王弟殿下。


王宮で出くわしたのも何事かと思ったが、

やつの言った通り書簡が届いた。


書簡には、ティアーナ・ヴァルシード嬢との婚姻を望む趣旨のことが書いてあった。


いったい何を考えているんだ!


幸いなことに、ティアは王命で国王の許しなしには結婚できないことになったからな。それを理由に断れるだろう。





アスラン殿下といい王弟殿下といい……

何かが起こり始めている気がする。

杞憂に終われば良いが。


誤字報告ありがとうございますm(_ _)m


読んでくださりありがとうございます!

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