二人のヒロイン
ピンク色の頭が2つ見えて、近づくにつれてはっきりと見えてきた。
一人は背中ほどまでの長さのストレートなピンク色の髪で少しだけつり目の美人。もう一人は、ふわっふわのピンク色の髪で可愛らしい顔の……婚約破棄の時に一度だけ見たことがあるユノルト男爵令嬢だった。
そして彼女たちの前に黄金の髪と黄金の瞳の透き通るような白い繊細なつくりの美しい顔の男子がいた。男性なのに華奢な身体つきをしている。
その場に不釣り合いなほど表情がなく、陶器でできた人形のようだ。
その彼の側に彼を守るように赤い髪の活発そうな凛々しい顔つきの男子がいて、どうやらピンク色の髪の二人と対峙しているようだった。
どうしてここにユノルト男爵令嬢がいるのか……。
ピンク色の髪はとても珍しくて『メイツガ』ではヒロインの特徴的な髪だった。今朝、ピンク色の髪の女子とすれ違った時に思い出した。あのときにはピンとこなかったけれど。だとしたら、ユノルト男爵令嬢は『メイツガ』のヒロインだったの? でもおかしい。
どうしてヒロインの象徴ともいえるピンクの髪の女子がもう一人いるの? 二人もヒロインがいるはずがない。
今朝すれ違ったのはユノルト男爵令嬢ではなかったとホワイトナイト様が言っていたから……もう一人のこの人だったんだ。
「あれは、男爵令嬢のマリエナ・ユノルトさんと伯爵令嬢のフィオラ・ロベールさんだね。」
耳許でソルジュが教えてくれる。
「……その前におられる金色の髪をしたお方が、私の国の第一王子シェザリオン・ソリアル・リュミエール殿下だよ。そして、殿下のお側にいる方がアルベルト・ツヴァイトさん。侯爵家の次男で騎士だ。」
聖王国の王族も留学していたんだ。本当に国際色豊かな学園だ。
ユノルト男爵令嬢はここで一体何をしているのだろう。いくらアスラン様と面会禁止になったとはいえ近くにいなくていいの?
心の中がモヤモヤする。
私だったら……近くにいたい。『運命の番』だったらなおさら。私は『運命の番』になれなかったのに。貴女はなれたのでしょう? それなのにアスラン様から遠く離れたこんなところにどうしているの?
「とにかく、シェザリオン様は私とお昼をご一緒するの! そうですよね! 」
ユノルト男爵令嬢がリュミエール殿下の腕を取ろうと手を伸ばした。
ユノルト男爵令嬢ってこんな話し方をするんだ。一国の王子様相手にタメ語。しかも許しも請わずに殿下の腕に手をかけようとしている。いくらこの学園では家格に関係なく生徒が平等に扱われるとはいっても、彼女のはやりすぎではないのか。
隣で様子をみているソルジュも不快そうにしている。
「おっと! 」
リュミエール殿下に触れる間際にユノルト男爵令嬢の手をツヴァイトさんが掴んで止めた。
「そっちが、勝手に言っていただけで殿下はお答えになっておられませんよ。それから、勝手に殿下に触れないでくれますかね! 」
「貴方、なんの権利があって私を遮るの? 私はメイヴェ王国第一王子の運命の番なのよ! 」
「それがどうかいたしましたの? それこそこの学園では関係がないではありませんか。」
ロベールさんはそう言うと、当然のようにリュミエール殿下の腕に手を回してしまった。
リュミエール殿下の身体がピクリと揺れた。表情の無い綺麗な顔と、まるで何もうつしていないような黄金の瞳が無機的で寒気がした。彼女たちは何とも思わないの?
「私が大聖女になりましたら、シェザリオン様は私の婚約者になりますのよ。ですからシェザリオン様は私とお昼を過ごされるのです。」
私は今何を見ているのだろう。
「……これは何? 」
思わず口をついて出る。
「……何時ものことかな。取り敢えずここから離れない? 早く学園内を回らないとお昼休み時間が無くなってしまう。」
私はコクリと頷いて、繋いだ手を引かれるようにしてその場を後にした。
図書室と魔術の訓練室、多目的ホールや自習室など主だった場所を案内してもらって私たちは食堂にやって来た。
ついでなので昼食も一緒に食べることにしたのだ。
ここでの食事は日替わりで、A、B、Cランチの中から選ぶ方式らしい。
私はAランチ、ソルジュはCランチを頼んだ。
Aランチはハンバーグがメインで、Cランチはステーキがメインだった。
どちらも美味しそうだ。
「ねぇ、ソルジュさっきのあれ……何時ものことって言っていたよね? どういうこと? 」
なんといってもユノルト男爵令嬢が絡んでいるのなら知っておいたほうが良い気がした。
「うん、そうだな、ユノルトさんだけど、大まかに言えば彼女は問題児かな。さっきはシェザリオン殿下に言い寄っていたけど、エンデ王国の第一王子にも、公爵家のレンブラント兄弟にも言い寄ってるよ。」
あ、エンデ王国の王子といえばあの不埒な獅子……この学園に留学しているってクラウスが言っていたなあ。
そして、レンブラント……には何だか聞き覚えが……レンブラント……レンブラント。あ!
思い出した! 赤い縦ロールの公爵令嬢! ユリウス陛下のお城でのパーティーの時に控え室に奇襲してきたキャロライン・レンブラント公爵令嬢! 同じ家名じゃないの! もしかして、彼女もこの学園に通っていたり? 彼女の兄弟のことだったり? 嫌な予感がしてきた。
「大丈夫? 顔色が悪いよ? 」
「うん。ちょっと嫌なことに思い到っちゃって。それで? 」
話の続きを促した。
「ユノルトさんは地位が高くて顔の良い男が好きな感じだね。勉強しに来ているというより、言葉は悪いけど男をあさりに来ている感じだ。」
そんなことをしているなんて。
貴女はアスラン様の『運命の番』でしょう? アスラン様はそのせいで離宮に幽閉されているというのに、貴女は何をしているの?
それとも、ユノルト男爵令嬢は『メイツガ』のヒロインで逆ハーを目指しているとでもいうの?
それか、ただの男好きなのか……だよね。
「そして、ロベールさんは、彼女も言っていたけど聖王国でもっとも大聖女に近い能力を持っているといわれている人だ。もともとは男爵家の令嬢だったんだけど、大聖女候補序列一位になった時点で伯爵家に養女として迎えられたんだ。恐らくは大聖女になったあかつきにはシェザリオン殿下との婚姻が視野に入っているのだろうね。代々聖王国の王は大聖女と婚姻を結んで神殿との結び付きを強固なものにしてきたからね。」
何かロベールさんのほうがヒロインっぽい。大聖女に最も近いってことは、本物の聖女かもしれないってことでしょう?
ああ、でもこの世界は何なのだろう。
確かに前世を思い出したときに『メイツガ』の世界だと思った。世界観も登場人物も同じに見えた。だけど、違和感がある。私は登場しないし、アスラン様もいなかった。ホワイトナイト様もいない。普通はモブだったと考えるべきだけど、モブにしてはアスラン様もホワイトナイト様も肩書きや容姿が良すぎる。隠しキャラという可能性もあるけれど……どうかな。
それに、ヒロインらしき二人の人物。何かもう、『メイツガ』とは切り離して考えたほうがいいのかもしれない。ストーリーもなにもない。全てが『メイツガ』とは違っている気がする。
先ほどの様子を見ても健気なヒロインどこ? って、感じだったし。そもそも、ゲームのシナリオとかがあったとしてもどうでもいいのだ。ゲームに存在しなかったアスラン様のために私は行動しているのだから。
あまり、彼女たちには近寄らないようにしよう。私には私の目的があるし。うん。そうしよう。
「教えてくれてありがとう。ソルジュ。ご飯美味しいね。」
ニッコリ笑顔でそう言ったとき、
「おい! お前に用がある! 」
ゾクリと獰猛な気配と何処かで聞いたことがあるような声がして、同時にホワイトナイト様が私たちを庇うようにテーブルの横に現れた。
読んでくださりありがとうございます(*´▽`)
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執筆が遅めではありますが皆さまが楽しんでくださるよう頑張ります。




