ピンク頭
「あの、唐突で申しわけないのですが……。」
足をとめてレイヴェンさんに言うと、数歩先に進んでしまったレイヴェンさんも足をとめてこちらを振り向いた。
訝しげに首を傾げたレイヴェンさんに、私は思いきってお願いした。
「私とお友達になってください! 」
レイヴェンさんはポカンとした顔で私を見た後、クスッと手を口にあてて笑った。
「なんですか? それ。」
そう言って更にクスクスと笑う。
駄目だったのかな? 初っぱなから図々しかった?
えーん、でもこの世界でお友達を作ったことないし。これしか思い付かないよ。
今度は私がシュンとしてしまう。もし私が獣人だったら耳が盛大に垂れていたことだろう。
上目遣いにレイヴェンさんを見る瞳が少し潤んでしまった。
こんな大それたお願いを厚かましくしてしまって恥ずかしくて死んじゃいそう。
レイヴェンさんは急に顔を真っ赤にして狼狽えたように両手で自分の顔を覆った。
「すみません。貴女があまりにストレートに言うので笑ってしまいました。いいです。なります。でもクラスメートなのだから既に友達でしょう? 」
そうなの?
だけど、友達になってくれるって言った!
「嬉しい! レイヴェンさんありがとうございます! 」
「それではですね……。」
レイヴェンさんは落ち着きを取り戻したのか、にわかに真面目な顔をする。
「友達なのですから、私のことはソルジュと呼んでください。私も貴女のことをティアーナと呼びます。それと、丁寧語は禁止にしましょう。」
は、へ?
私は、鳩が豆鉄砲を食ったような顔になってしまった。
メチャクチャ距離を縮めてくるけど、願ったり叶ったり? ものすごく友達っぽい!
知らずと笑みがこぼれてしまう。
私の反応を見てソルジュは悪戯に成功したような顔をした。
「改めてよろしくね。ティアーナ。」
「はい。ソルジュ。」
笑い合った後、また並んで歩き始めた。
「まずは図書室。この廊下の先にある。ここの図書室はすごいよ。世界中の書物が集められているんだ。」
「世界中の書物? すごいわ。もしかしたら王宮の図書館よりいっぱい本があるのかな? 」
「多分ね。私の国の王宮図書館より多かったよ。」
「んと? あれ? ソルジュはこの国の人ではないの?」
私の国っていう表現に違和感を覚えて聞くと、ソルジュは肩をすくめた。
「私は、聖王国からの留学生なんだ。」
聖王国はヴィオラス王国の北に位置する王国だ。女神セレネ様信仰の総本山……セレネ教を統轄する大本の国だ。だから聖女さま候補もたくさんいて、本物の聖女が顕現するのもこの国がいちばん多いとお妃教育で習ったことがある。
「そうだったの。聖王国のことは書物で読んだくらいの知識しかないわ。本当にこの学園って色々な国から学びに来ているのね。私は、知っているかもだけど、メイヴェ王国から来たの。」
『うん。知っている。貴女は有名だからね。』
『うわー。そうなの?』
何故か聖王国語に切り替えてソルジュが話した。
この世界の言語は所謂公用語と呼ばれているものは同じなの。だからどの国に行ったとしても困ることはない。ただし、例外の国が幾つかあって、その一つが聖王国。この国は聖王国語が公用語になっている。
私はアスラン様の役に立てるように聖王国語もしっかりマスターしていたから難なく話せた。
「さすがだね。ティアーナ。書物で読んだくらいの知識とか謙遜しすぎだよ。」
どうやら私はソルジュに試されたらしい。可愛い顔をしているのに性格はなかなか可愛い顔とは裏腹な感じ?
こちらの言語に戻したソルジュはニッコリ笑った。
その時、
「ちょっと貴女なんですの? シェザリオン様は私と一緒に昼食を召し上がるのです。」
「私が先に約束したのよ。貴女こそ何を言っているの! 」
「私は大聖女候補序列一位ですもの。シェザリオン様のお側にいる資格があるのです。」
「私はメイヴェ王国アスラン第一王子の運命の番なのよ。聖王国の王子様と信仰を深めるのは当然じゃないですか! 」
「君たち、いい加減にしてくれる? どちらも迷惑! 」
周囲のざわめきと共に、女子同士の言い争うこえが聞こえてきた。捲し立てるような大声だったから呆気に取られていたら、聞き捨てならない言葉まで耳に飛び込んできた。
今なんて?
アスラン様の運命の番と言わなかった?
顔から血の気がひいていくのがわかる。ソルジュが私の様子に驚いた顔をしているけれど、頭の中が混乱してそれどころではなかった。
ユノルト男爵令嬢がここにいるの? なんで? どうしてここに?
声のした人だかりの方へフラフラと足が向かう。
「待って! ティアーナ! 」
ソルジュが私の手を掴んだ。
「一緒に見にいこう。」
ソルジュの手の暖かい感触にどれほど自分の手のひらが冷たくなっていたかを知る。
はっ!と、我に返ってソルジュを見れば彼は心配そうな顔をしていた。
そうだよね。吃驚するよね。
なったばかりの友達に心配させてしまうなんて、私って駄目だなあ。
「ありがとう。ソルジュ。」
ソルジュと手を繋いで人混みを見に行く。
「貴女は男爵令嬢でしょう? 身の程をわきまえたら? 」
「貴女こそこの学園では家格は関係ないの知らないの? 皆、平等なのよ! 」
声のしている人混みの中がやっと見える位置に来て、私は目を見開いた。
どうなっているの?
何故、ピンクの頭が2つあるの?
読んでくださりありがとうございます(*´▽`)
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執筆が遅めではありますが皆さまが楽しんでくださるよう頑張ります。




