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愛する人は運命の番と出会ってしまったけど私は諦めきれないので足掻いてみようと思います。  作者: 紫水晶猫


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学園生活が始まりました


「ここが一年A組です。」


少しだけ前を歩いていたカルマン先生が教えてくれる。

前世で通っていた学校の教室と比べるとかなり高級感溢れる造りだ。昨日面接に来たときにも思ったけれど、扉や壁、備え付けられてあるもの全てが格調高い。なるほど自国だけではなく各国の高位貴族や王族も留学するだけのことはあるよね。その上、ここの卒業が貴族社会でのステータスになるというのだから、ここで学ぶ内容も他に抜きん出て優れているという事だと思う。


「学園では家格がどうであれ生徒は全て平等に扱われます。ですから名前はさん付けで呼ぶのが一般的です。」


カルマン先生が教室の扉を開けて私に中へ入るように促した。


私が教室へ足を踏み入れた途端、沢山の視線が向けられ、ぎょっとして足が止まりそうになってしまった。


中途入学だから珍しいのかな。それとも、護衛のホワイトナイト様がついてきているからなのかな? ホワイトナイト様は少し離れたところで教室の壁を背にして立っている。生徒の何人かはそちらの方をチラチラと見ていた。何だか動物園のパンダにでもなったような気分だ。


教壇の前に立った私をカルマン先生が皆に紹介してくれる。


「皆さん、お早うございます。こちらは、今日から皆さんと一緒に学ぶことになりましたティアーナ・ヴァルシードさんです。」


「ティアーナ・ヴァルシードと申します。よろしくお願いいたします。」


学園でカーテシーもないだろうと、お辞儀をした。


すると、何故か皆が驚いたような顔をしているのが目に入った。


あれれ。何か間違えた?


困惑して、助けを求めるようにカルマン先生を見ると、カルマン先生は大丈夫と言うように優しく微笑んでくれた。


「皆さんもご存知の通り、ヴァルシードさんはヴィオニーヴェ国王陛下の婚約者候補です。そのため、護衛がつきますが、それ以外は皆さんと変わりませんので仲良くしてくださいね。ヴァルシードさんの席は学級委員長の隣にしましょう。」


うわあ。

ユリウス陛下の婚約者候補って言っちゃうんだ。婚約者候補って私を守るための身分だからカルマン先生は意図的に公言したのかな。予め学園とユリウス陛下で示し合わせていたのかもしれない。


「ソルジュ・レイヴェンさん、彼女に色々教えてあげてください。」


「はい。」


声のした方を見ると、茶色いふわふわした癖っ毛で丸眼鏡の可愛らしい顔の男子がいた。彼が学級委員長のようだ。彼の隣の席は不思議と都合良く空いている。


これは、きっと私が入学するから前もって空席にしてあったんだよね?

ユリウス陛下が推薦状を出してくれたって言っていたし。ユリウス陛下効果でその時点で入学決定だろうし。だけど、学園は私に融通をきかせすぎな気がする。これって……贔屓と言われて皆から嫌われるやつだよ。友達……できるのかな? ただでさえ、護衛がついていて近より難そうなのに……。


「それでは、ヴァルシードさんは彼の隣の空いている席に座ってください。」


カルマン先生に言われて、私は席に着いた。


「レイヴェンさん、よろしくお願いします。」


隣を見て小声で挨拶をすると、レイヴェンさんは少しだけ戸惑ったような顔をして頷いた。


「よろしくね。ヴァルシードさん。」


うーん。

友達ってどうやって作るんだっけ?

考えてみたら、私……同じ歳の友達っていないのよね。というより、友達自体がいない。

生まれた時からアスラン様の婚約者で、物心ついたらお妃教育が始まった。毎日お城に行かないといけなかったし、今思うとどうしてなのか他家のお茶会に参加したことがなかった。家でもそういった催しは皆無だったし……友達を作ろうにも、まず同世代の人と出会う機会が無かった。私自身……アスラン様さえいてくれれば良かったから……友達を求めたことも無かったし、必要性を感じたことも無かった。私の世界の中心はいつでもアスラン様だったし。ああ……思い返すと私はアスラン様に依存していたのかな。アスラン様に守られた心地よい環境でぬくぬくと生きていたのかもしれない。






お昼休み時間になった。

午前中の授業は二コマあったが、難易度は大したことなく、既にお妃教育で終えていたものばかりだった。ちょっと肩透かしを食らった気分だ。


「ヴァルシードさん、良かったら昼食を取る前に学園を案内します。いかがですか? 」


レイヴェンさんが私に提案してくれた。

カルマン先生から頼まれた義務的なものだとしても嬉しい。


私は自然と口元が綻んだ。


「ありがとうございます。ぜひお願いします。」


レイヴェンさんは何故か顔を赤らめてコクコクと頷いた。


「では、行きましょう。」


私とレイヴェンさんは並んで教室から出た。その後を少し離れてホワイトナイト様がついてくる。

周りを歩く生徒たちがチラチラとホワイトナイト様に視線を送っている。女生徒の中にはポッと顔を赤らめて目を潤ませている者もいた。


うん。ホワイトナイト様は、性格はかなりアレだけど、顔はとんでもなく綺麗だからね。皆、騙されて見惚れちゃうよね?


「ヴァルシードさんの護衛は目立つみたいですね。皆の注目を集めていますよ。」


ですよね。お陰で私たちまで目立つてしまっている。


「ごめんなさい。」


困ったように微笑むとレイヴェンさんは慌てて首を振った。


「非難しているわけではないです。ただ、女子とあまり話したことがないので、間がもたなくて……こちらこそすみません。」


わあー。

レイヴェンさんってとても良い人だ。それにシュンとした感じがすごく可愛い。

前世の記憶を思い出してから分かったのだけれど、私は可愛いものがとてつもなく好きらしい。

可愛いものを見ると胸がキュンキュンする。

このミカエリス学園が舞台の一つである『メイツガ』でも私の推しはヒューベルトくんだった。ヒューベルトくんというのは獣人国の第二王子で、五歳。ショタコンのお姉さま方が食いついた攻略対象だ。私はショタコンではなかったけれど、ヒューベルトくんは信じられないくらい可愛くて、蕩けちゃうほど可愛くて、一人っ子の私はゲームの中のヒューベルトくんを愛でた。愛でて愛でて愛でまくった。こんな弟が欲しいと本気で思った。ツンデレキャラでレイヴェンさんみたいな癖っ毛の銀髪とうちの猫ちゃんみたいな青みがかった鮮やかな緑色の瞳はもう最高に愛らしかった。キュン死してしまいそうなほどに。


そして、今、隣に可愛い男子がいて……

自分の放った言葉に申し訳なさそうにしている様子は耳の垂れたウサギさんみたいに可愛くて……

私はレイヴェンさんと友達になりたいという気持ちでいっぱいになってしまった。


読んでくださりありがとうございます(*´▽`)


いいね、ブックマーク、評価をありがとうございます。


執筆が遅めではありますが皆さまが楽しんでくださるよう頑張ります。

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