王立ミカエリス学園で物語が始まる
すごく緊張する!
公爵家の馬車から降りてヴィオラス王立ミカエリス学園の正門の前で佇む。
ちょっと深呼吸。
すう……はあ。すうう……はああ。
「ティア、大丈夫ですか? 」
ホワイトナイト様が肩を震わせながら聞いてくる。
もう!
笑うなんて酷い!
だ、だって初めてなの! 今生で学校に通うの。……学園だけど。
ワクワクしているし、その分緊張もしている。
重大な目的があるんだけれど……お友達できるかな? なんて思ってしまった。
あれよ。友達百人できるかな? 的な……。うわっ! 自分で考えていて恥ずかしい。 ああ、自滅しそう。
赤くなったり青くなったりしていそうな私の顔をどうしよう!
両頬に手を当てて俯く。
困った。
お願いだから、私の平常心戻ってきて!
「ティア、貴女のその可愛らしい顔を誰にも見せたくないので帰りましょう。」
ホワイトナイト様が笑いながら言う。
ふええ。
駄目! 絶対に行く!
私は、頬を両手でペチン!と叩いて気合いをいれた。
痛い。
「ああ、何てことをするのですか! 赤くなってしまったではありませんか。」
ホワイトナイト様が困ったように私の顎に手をかけ上を向かせる。そして、そっと両手で私の顔を包み込んだ。
ふわりと頬が暖かくなりすっと痛みが消えた。
ああ、癒しの魔法だ。
ホワイトナイト様は私の護衛として学園についてきてくれていた。
学園の決まりでは、基本生徒は護衛はつけられないが、王族のみ護衛をつけて授業を受けて良いことになっている。私は王族ではないのだけれど、ユリウス陛下の婚約者候補なので護衛を許されたのだ。
「遅刻しますよ。帰らないのでしたらもう行かなければ。」
私は、「うん。」と頷いた。
正門に向かって足を進めたその時、ふわりと花の香りがしてタタタタタッ!と私のすぐ横を誰かが走り抜けて行った。
スルッとピンクの髪の毛が私の頬を掠めた。
一瞬で、身体が凍りついたように動かなくなる。
ユノルト男爵令嬢?
まさか……。
ピンクの髪をなびかせながら走り去っていく背中を目追った。
「……彼女は何者でしょうね。ユノルト男爵令嬢ではありませんでした。」
私の心を読んだかのようにホワイトナイト様が囁く。
「違ったの? 髪の色が同じだったから、てっきり……。」
「私は顔を見ましたが、別人だと思います。」
そうなのね。
ふぅ……と、息を吐いてから、今まで呼吸を止めていたことに気がついた。
ユノルト男爵令嬢のピンク色の髪は印象的だったから、こんなところで出会ってしまったのかと思って驚いた。ピンク色の髪は珍しいし。ピンク色の髪は……。あれっ? ピンク色の髪? そうだ! ピンク色の髪だった!
……思い出してしまった。
何で忘れていたのだろう。
ピンク色の髪は……『メイツガ』ではヒロインの髪の毛の色だった。
あ……。
このヴィオラス王立ミカエリス学園って……『メイツガ』の舞台じゃないの!
私って、馬鹿?
本当にどうして忘れていたのだろう?
頭の中に浮かんでくるのは記憶の断片。断片すぎて何が何だかはっきりしない。はっきり思い出したのはこれだけだから、全く役立たずな記憶よね。 私の前世の記憶……まるで虫食いみたいにあちこちに穴があいている。
「ティア、行きましょう。初日から遅刻は避けたいでしょう? 」
あわわわわ!
避けたい!
こんな風に考え込んでいたら遅刻しちゃう!
慌てて歩き始めた。
ところが、
正門を入って暫く進んだところで……足止めを食らってしまったのだ。
そこには、人だかりができていた。
しかも、道を全面的に塞いでいるので先に進めない。
皆、教室へ向かわなくていいの?
何故ここに集まっているの?
怪訝に思って見ていると、人だかりの中心部に2つのピンクの頭と黄金の頭と赤い頭が見えた。
何ともカラフルな色合いだ。
「何だろう? 」
「嫌な感じがしますね。」
ホワイトナイト様は眉をひそめた。
「はい、はい。君たち教室に入ってください。もうすぐ授業が始まります。」
突然、大きな声がした。
振り向くと、そこには、昨日面接の時に学園長の部屋へ案内してくれた男性が立っていた。
私と目が合うと彼は眼鏡越しにニコっと微笑んだ。
昨日はインテリそうなところが少し神経質そうに見えたのだけれど、そうでも無いのかな。
切れ長の目は涼やかな印象を与えている。
彼は私の方へやって来た。
「昨日ぶりですね。申し遅れました。私は貴女の担任のキース・カルマンです。」
担任の先生?
「私は、ティアーナ・ヴァルシードです。カルマン先生、よろしくお願いいたします。」
制服のスカートの端をつまんでお辞儀をした。
わあ! 担任だって! 私の担任の先生だって! ドキドキする。懐かしい響きだし。学校って感じがする! ちょっと興奮してしまった。
「クラスは分かりますか?」
「いいえ。今来たばかりなので。」
そうよね。何組? っていうのかな? 教室もどこなのか聞いていなかった。我ながら抜けている。
もしかしたら、ホワイトナイト様は把握済みかもしれないけれど。
「貴女のクラスは一年A組です。一緒に行きましょう。」
カルマン先生はとても親切な人みたいだ。
「はい。お願いします。」
嬉しくなって微笑むと、カルマン先生は目を見開いて少しだけ驚いた顔をしたが、すぐに微笑み返してくれた。
それにしても、もう散れて居なくなってしまっているけれど、さっきの人だかりの原因は何だったのだろう。
読んでくださりありがとうございます(*´▽`)
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執筆が遅めではありますが皆さまが楽しんでくださるよう頑張ります。




