明日から王立ミカエリス学園です
え? えっ? ええっ!
「クラウス! これって……。」
「貴女の留守中に私がちゃんと準備しておきました。」
学園の制服に靴。鞄に教科書、筆箱……などなど学生の必需品が目の前にあった。
至れり尽くせりすぎて、もはや言葉も出ない。
それに、留守中ってくくりなの? さらわれていたのに?
突っ込みたいけれど、さりげないクラウスのどや顔に突っ込めないよ。
「私の娘同然のティアーナの入学ですから、張り切ってしまいました。」
クラウスが嬉そうに微笑んでいた。
「私の娘を取るな! クラウス。」
お父様!
ここへ戻ってきてから、お父様はほぼ離れの屋敷の方にいてなかなか会えなかった。折角ここに来ているのにと残念に思っていたところだ。
お父様はヒョイと私を後から抱き上げた。
「かわりないか? 」
ふわああああ。
目の高さを合わせてくるお父様に慌ててしまう。
子どもに返ったような気がして、何だかくすぐったい。
「お父様! 恥ずかしいです! 」
顔を両手で覆ってイヤイヤと首を振れば、お父様は破顔した。
「子どもみたいだな。」
「お父様のせいです! 」
頬を膨らませて言うと、お父様は目尻を下げて私の頭を撫でた。
むむむ。更に子ども扱いですか!
お父様が、いつもより甘い。アスラン様との婚約破棄以来甘やかされている自覚はあったけれど、ここにきてもっと甘くなっている。
でもでもでも、お父様! 私はもう16歳なのです! 幼子ではないので勘弁してください!
恥ずかしくて顔がきっと真っ赤だ。
「オルフェス、降ろしてあげて。ティアーナが恥ずかしがっていますよ。」
クラウスが助け船をだしてくれた。
クラウスっ! ありがとう!
クラウスに感謝でいっぱいだ。それにしても、これでは……お父様は親バカみたいだよ。
「親子のスキンシップを恥ずかしがるとは、ティアはまだまだ子どもだな。」
やっと降ろしてもらってホッとしたけれど、お父様のその言葉は逆っ!
「お父様、スキンシップだとしても16歳の娘を抱っこなんておかしいです! 」
ここは、しっかり抗議しておかないと。
「そうか? ティアは私に抱っこされるのは駄目なのに、ヴィオニーヴェ国王陛下やディーンはいいのか? 」
とんでもないことをお父様は聞いてきた。
ふえええ。
あ、あれは不可抗力よね? だって抵抗する間もなかったし。駄目とか良いとかそういうのでは無かったよね。何で、そんな事を言い出すの? お父様、本当にどうしちゃったのおお?
「オルフェス、ティアを苛めたら駄目ですよ。それに父親の嫉妬は見苦しいです。」
お父様を諌めるクラウスの言葉に「ん? 」ってなる。嫉妬って? 嫉妬なの? つまり……焼きもちぃぃ?
「クラウス! うるさいぞ! 」
透かさずお父様。
お父様とクラウスって本当に仲が良い。見ていてホッコリする。
アスラン様との悲しいことがあって、でも、そのお陰でこの国に来て、クラウスたちと出会って、こんなお父様も見れて……さらわれちゃったりしたけれど、良いこともあるんだなあ。と、しみじみ思った。
「…………………な。………た。」
え?
うっかりお父様の言葉を聞き逃していた。
「私は、あまり長くメイヴェ王国を離れていられないんだ。私の副官が倒れるからな。急だが、ティア、私たちはこれから帰国することになった。」
え……。
お父様……帰っちゃうの?
ぶわっと涙が出てきた。
あれれぇ。
何で涙が出てくるのかな? この国に来る時にだって泣かなかったのに。
変だ……私。
「ティア、転移門くらい特務のやつらに何時でもつくらせるから、帰りたくなったらいつでも帰ってきなさい。何かあればルリ鳥を飛ばすといい。仕事を放り出して来るから。副官が何とかするから大丈夫だ。」
って……。
「つ、ふふふっ。」
お父様がイケナイことを平気で言ってる。騎士団を私用で使ったら駄目じゃない。それに、仕事を放り出すって、副官が可哀想すぎる。言っていることが無茶苦茶だよ。
涙が引っ込んじゃうくらい可笑しかった。
笑いながら指で涙を拭う。
お父様はニヤリと笑った。
「私には権力があるからな。」
「お父様、それは横暴よ。」
お父様は私の頭をポンポンとして、すっと表情を改めた。
「何ものからもフェリシアの名にかけてお前を守ろう。好きなようにやりなさい。」
フェリシアの名にかけて……お母様の名に?
お父様からお母様の名前を聞くのは何年ぶりだろう。
お父様は私のやろうとしていることを支持してくれるの?
話していないことも多いのに。
私の好きなようにしていいの?
私……こんなに守られてていいの?
どうしよう。お父様の気持ちが素直に心に落ちてきて嬉しい。
「ティアーナ、オルフェスが居なくても大丈夫ですよ。ここに、第二のパパがいますからね。」
クラウスが胸を張るようにして言うのが可笑しくて、
「おい、クラウス! ティアは私の娘だ! 」
お父様とクラウスのやり取りが可笑しくて、
私は、幸せだなあ……って思った。
明日からヴィオラス王立ミカエリス学園に入学する。
アスラン様のために……
獣人の国エンデ王国のことを知って、『運命の番』の真実を得る。
そして、ユランさんとの約束のためにも私自身が強くなるためにも……
魔法を学んで使えるようになる。
私は、前世にも盲信教団にも惑わされないで、私のやりたいことをしよう。
そう心に決めた。
読んでくださりありがとうございます(*´▽`)
いいね、ブックマーク、評価をありがとうございます。
執筆が遅めではありますが皆さまが楽しんでくださるよう頑張ります。




