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愛する人は運命の番と出会ってしまったけど私は諦めきれないので足掻いてみようと思います。  作者: 紫水晶猫


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帰還 3


「あー、参った! 参った! お嬢ちゃん、俺のことを忘れていただろう? 」


ユランさんはニャリと笑って揶揄うように言った。


ゼクスさんに連れて来られたユランさんは人の形に戻っていたけれど、熊耳が残っていて、


「プププ。」


笑ってしまった。


「ユランさんごめんなさい。すっかり忘れていました! でも、どうして耳が出ているのですか? 触りたくてウズウズしているんですけど? 」


茶目っ気たっぷりに言うとユランさんは頬をポリポリ指先で掻いて、


「あー、これは、あれだ。流石の俺もあんだけの魔導師に囲まれたらおっかなかったからな。それに、お嬢ちゃんの親父さん……あれは、魔王だろう! ゾクゾクしたぜ。 」


うわあ……。

大熊も恐れる黒翼騎士団特務……とお父様。

それに、魔王って! お父様、魔王呼ばわりされているし!


「つ、ふふふ。」


それで、動揺して耳が出ているんだ。

よほど怖かったのね。

大きい熊さんなのに……ユランさん、ちょっと可愛いかも。






そんなやり取りをして……。

私たちは、クラウスとセバスに連れられて懐かしい屋敷……というより立派すぎる宮殿よね……の入り口にやって来た。


同じだ!


初めてここに来た時のように、ずらりと両サイドにメイドたちが立ち並んでいた。


違うのは……。


「ティアーナお嬢様っっ! 」


サリナが涙を浮かべながらその真ん中を走り抜けて駆け寄ってきた来たことだ。


「つ、サリナ! 」


私もサリナに向かって足を早める。

思い切り手を伸ばしてガバッ! とサリナに抱きついた。


「サリナ! 心配かけてごめんなさい! ただいまっ! 」


「おがえりなざいまぜぇ。おじょうだまあ! 」


サリナが大泣きしてしまった。

私も泣くつもりは無かったのにもらい泣きしてしまう。


「うえ、うえ、うえええん! サリナあああ! 」


ああ、もう、本とに本当に帰って来たんだあ!

会いたかったよおおお!


「ふえええ! 」


「おや、私の婚約者候補は存外泣き虫なのだな。」


ふわりと身体が持ち上がった。


んえ?


驚いた弾みで涙が止まる。

気がついた時には、腰に腕を回され抱き上げられていた。


ひやああっ!


直ぐ近くに私の顔を覗き込む透き通るような水色の瞳があった。


ユリウス陛下?

何故ここに?


突然現れたユリウス陛下に、クラウスをはじめとするこの場にいる者一同が最敬礼をしているのが目の端にみえた。


「どうしてここに? ユリウス陛下。」


まるで私の言葉が心外だとでも言うかのようにユリウス陛下は眉をひそめた。


「私の唯一がさらわれたのだ。手をこまねいていただけだと思ったか? 」


首を傾げた私に思いがけないほど優しく話す。


「貴女の国が騎士団を出すと言って聞かぬから、それは譲ってやったが、私が、私の唯一の無事を確認しないとでも? 」


ユリウス陛下の言葉が胸に響く。


皆が心配してくれて、私が無事に帰れたのを喜んでくれて……ヴィオラス王国の国王様で政務で多忙なはずなのにユリウス陛下まで私の為にここへ来てくれて、私なんて他国の人間なのに……出会ってそんなに経ってもいないのに、私を守るために婚約者候補にしてくれて……演技でも……今みたいに唯一と言って大切にしてくれる。

私……すごく恵まれている。


ポロリポロリと涙が頬をつたって落ちる。


「本当に、貴女は泣き虫だな。」


ユリウス陛下はぐずぐず鼻を啜りながら泣いている私を見て呆れたように笑った。


「いつもはこんなに泣かないです! 」


頬を膨らませて抗議すると、ユリウス陛下は面白いものを見つけたという風に目を細めた。


「風船魚の様だな。」


小さな風船のように膨らんだ魚のことだ。小さなごぶがあって……とにかく絶対に褒め言葉ではない。


「むうぅぅぅぅ。」


唇を付き出して不満気な顔をするとユリウス陛下はハハハッ!と、大笑いした。


「泣き止んだな。ティアーナ。これ以上泣くと目が腫れて不細工な顔になるぞ。」


「いいもの。不細工になったって。もともと不細工だもの。」


私が言い返すと、ユリウス陛下は少しだけ驚いた表情をしたかと思ったら、


「あ、痛いっ! 」


私の鼻をビーって摘まんだのだ。

何をするの?

痛いよお。ぴえぴえぴえ。


また涙目になった私にユリウス陛下は意地悪な笑みを浮かべた。


「もっと不細工になったな。」


声とともに、痛い鼻にむにゅっと柔らかいものが触れた。


ふえ?


ユリウス陛下にキスされた?


んええええええ!


鼻を両手のひらで覆って隠す。


「ユリウス陛下! 何をするんですか! 」


「小癪な口をきくからだ。 貴女は美しい。自覚しろ。」


んえ?

なにそれ?

ユリウス陛下どうしちゃったの?

思わずコテッと首を倒してまじまじとユリウス陛下を見つめた。


「いっそ、城に連れて帰るか。この無自覚姫。」


ユリウス陛下の低い声にゾクッとした。


しかも、何か不穏なことを言われている?

ユリウス陛下怖いよ?

それに、そろそろ降ろして欲しい。

いつまで抱っこなの?


キョロキョロ周りを見回すと皆の視線が生暖かい気がする。


助けを求めるようにすっかり耳が無くなったユランさんを見たけれど、ユランさんはサッと顔を背けた。


あー、酷い。

確かに国王様相手には無理かもだけど、少しくらい手を貸してくれたっていいのに。


仕方がないから自分でなんとかしよう。


「ユリウス陛下、そろそろ降ろしてください。」


ユリウス陛下はチラリと私を見たけれど、すぐにクラウスの方を向いた。


「ティアーナは城の方が安全ではないのか? クラウス、この無自覚姫を連れて帰りたいのだが。」


困る! 困る!

お城なんて絶対に駄目っ!

学園にも通いにくくなるだろうし、偽物の婚約者候補なんだからお城に住むとか論外っ。


「それは、駄目ですよ。陛下。メイヴェ王国の国王陛下が黙ってはおられないでしょう。」


クラウスがこたえた。


「フッ。可笑しな話だ。婚約を破棄しておきながら、囲い込んで縛るとはな。そうは、思わないか? 」


どす黒いオーラがユリウス陛下から出てきているみたいに。凶悪な顔つきになった。


何で、怖い顔をするの?

ユリウス陛下の精悍な顔に凄みが加わるとかなり怖いんだけど。


その時、

空間から黒い騎士服に金と銀の双龍の縫いとりのあるマントを閃かせてディーン様が現れた。

いつものマントとは違う。

マントが目立つほど立派な意匠だ。お父様のマントより格式高い感じがする。

こうして見ると……やはりお父様より身分が高いのかもしれない。


ディーン様はユリウス陛下の前に行くと流れるような優雅な所作で頭を下げた。


「ヴィオラス王国ユリウス・ソルティオ・ヴィオニーヴェ国王陛下に初めてお目にかかります。私はメイヴェ王国双龍騎士ディーンと申します。」


ん? あれ? 双龍騎士って何? 聞いたことがないんだけど。


「それで、何用だ? 」


ユリウス陛下が面倒くさそうに口を開いた。

何故かユリウス陛下の対応が冷たい気がする。ホワイトナイト様と初めて挨拶を交わしたときとは雲泥の差だ。どうしてだろう? 空気がピリピリしているような気がするのは気のせい?


「ティアーナ様をお返しください。ティアーナ様には休息が必要ですから私が部屋へお連れします。」


赤い瞳は冷ややかなのに物腰だけは柔らかいというディーン様の様子にビクリとする。


ユリウス陛下はじっとディーン様を鋭い眼差しで見つめていたが、唐突に笑い出した。


「フッ、ハハハハハッ! 」


何? 何? 何?

ユリウス陛下壊れた?


「こら、ティアーナ。今、失礼なことを考えただろう? 」


何でわかったの?

驚いて固まった私の頬にチュッとユリウス陛下は口付けした。


ひゃあ!


頬が熱い。鼻と頬と二回もキスされた!

不埒だ! ユリウス陛下!

怒って睨むと、ユリウス陛下は楽しそうに私の頭を撫でた。


そして……次の瞬間、


ユリウス陛下のディーン様に向ける苛烈な眼差しを見てしまって、身体が震えそうになる。



「此度は返してやるが、次はないぞ。」




そう言って、ユリウス陛下は宝物のように優しくそっと私をディーン様に渡した。


読んでくださりありがとうございます(*´▽`)


いいね、ブックマーク、評価をありがとうございます。


執筆が遅めではありますが皆さまが楽しんでくださるようなお話を書きたいと思います。

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