熊耳です
ユランさんは迷い戸惑うように言った。
何を迷っているのか。大きな身体で熊みたいに強そうなのに……熊の獣人だけど。心許ない様子にギャップが計り知れない。
何で? 何でこの状態?
「熊さんどうしたの?」
思わず熊さん呼びをしてしまった。
ユランさんはハッとして顔を引き締めた。
そして、つかつかと私に歩みより右腕を掴むと、何かを確かめるようにまじまじと全身を眺めまわした。
「こたえてくれ! お嬢ちゃんは聖女なのか? 」
あまりに真剣で切迫した様子に息を飲む。
どちらかというと飄々とした感じの人かと思っていたのに。私が聖女かどうかが彼にとって余程重要なことなのだろう。だから、きっちりとこたえた。
「私は聖女ではありません。」
「つ、そうなのか……。」
何度も言うけれど、大きな身体で熊みたいに強そうなのに……ユランは気が抜けたようにへなへなとしゃがみ込んだ。
「そうか。聖女ではないのか。」
ユランさんは落胆したように眉をよせて打ちひしがれたように背中を丸めた。
は? えっ? あ!
耳がピン!
熊さんの頭に明らかに獣の耳と思われるものが飛び出した。
うわあ……。
「熊さんの耳が! 」
「え、あ、すまん。驚かせたか? 」
ユランさんは両手で耳を隠してこちらを見た。
ブンブンブンと私は慌てて首を振った。
多分私の目はキラキラしているはず。
初めて見た!
熊耳の人!
すごい! すごい! 手からはみ出しているところがモフッとしている!
獣人すごい!
「少し動揺してしまったようだ。」
ユランさんは頭をガシガシ掻いた。ばつの悪るそうな顔をしている。
「子どもみたいだな。格好悪い。」
はうっ、むしろ可愛いです! 熊耳のユアンさんすごく良いです! 撫でさせて貰えたら最高に嬉しいです! ああ! 触りたい! ちょっとでいいから触りたい……。
『ティア様、変質者みたいです。』
私の横でフワフワしていた白一くんが耳元に寄ってきて呆れたように言った。
えー、だってそれはモフを前にした正常な反応なんだよ? 白一くん。
それに、ユランさんが聖女に何の用があるのか知りたいよね。こんなにしょげ反っているんだから。
私は、ユランさんの前に膝をついた。
「ユランさん、聖女が必要なわけを話してみませんか? 」
ユランさんはとても驚いた顔をした。
咄嗟に熊耳から両手を離して私を立ち上がらせようとする。
「お嬢ちゃん、貴族だろう! 何してんだ! 」
ユランさんが怒ったように言っているけど、私は手の下から現れた熊耳が目に入ってしまって、もう気になって仕方がなくなってしまった。今は真面目な話をしようと促しているところなのに、どうしても目が行ってしまう。
それでうっかり……
「あの……お耳触っても良いですか? 」
願望を口に出してしまった。
「はあ? 」
ユランさんは珍しい生き物にでも遭遇したような顔をして固まった。
あー。やってしまった。
『ティア様………。』
「ごめんなさい。私、その、初めてで。貴方の耳すごく触り心地がよさそうなんですもの! 」
「お、おう。お嬢ちゃん、獣人はあまり見たことがないのか? 」
ユランさんは少し引きぎみだ。
「私の国は獣人の国とは国交がなかったので、ユランさんで見たのは二人目です。」
「へえ。」
憧憬の眼差しでユランさんの耳を見つめ続けていると、
「お嬢ちゃんそんなにこの耳が良いのか? 」
ガシガシとまたユランさんは頭を掻いて諦めたように私に頭を差し出した。
「ほら、触って良いぞ! 」
わあ!
ユランさんは私をさらってきた人だけど本当は優しい人なんじゃないかと思う。
喜び勇んで遠慮なくユランさんの両耳を両手でむんずと掴んだ。
「ちょ、おい! まて! そんなか! 」
私の勢いにユランさんは恐れおののいている。
なにこれ! フッサフッサだあ!
すごい! 縫いぐるみみたい! モフモフだあ!
頬擦りしていいかな? さすがに駄目かな? いやでも、折角のチャンスだし……。
『駄目ですよ! ティア様! 』
白一くんが私の邪な心をよんで注意する。
手でもこんなに気持ち良いんだもの。頬擦りしたらもっと気持ち良いよね。
白一くんを無視して顔を熊耳に近づけようとした時、
「ま、まて! 近づきすぎだ! 」
ユランさんに手で止められてしまった。
残念すぎる。
しょんぼりしてしまった私を見てユランさんは呆れたように見ていたがため息を一つついた。
「また、触らせてやる! だが、今日はもういいだろう。お嬢ちゃん、俺が言うのも何だが……もっと慎みを持て! 」
叱られてしまった。
「はーい。」
そうだった! 私は公爵令嬢!
自分はティアーナなのに、たまに興奮したりすると華みたいになっちゃう。気をつけないといけないね。
とりあえず熊耳を触って落ち着いた私は、話を元に戻すことにした。
「熊さんの耳を触らせてくれてありがとうございま した。……それであの、聖女に何のご用があるのですか? 」
ユランさんは瞠目して息を詰めた。
今年最初の投稿です。
みなさま、ご多忙のところ読んでくださりありがとうございます。
面白いものが書けるよう頑張ってまいりますので
本年もよろしくお願いいたしますm(_ _)m




