白の誓約
パチッ!と、目が覚めた。
夢から覚めても、まるで憑き物が落ちたようにすっきりしていた。
私はティアーナ。
「つ、ふふっ。」
自然と笑みが零れる。
自分の軸がティアーナだとしっかり自覚していれば、華の記憶があっても、傍迷惑な前世が絡んできても、ここが乙女ゲームの世界であっても迷子にはならないはず。ティアーナの私の欲に従って進んで行くだけ。それで良いと思う。あまり深く考えない方が私の望む先に進めるような気がするし。
『ティア様。』
白一くんが私の身体の中からシュルシュルシュルと出てきた。
『お目覚めですか? 小一時間程眠っていたようですね。』
そんなもの? もっと長い時間夢の中の神域にいた気がする。
『こちらの時間とは隔たりがありますから。』
そうなのか。……神域だからね。時間の流れ方が違うのかも。
「白一くん、明後日……私、頭のおかしいオネエ司教さまに穢れの中に入れられちゃうの。どうしよう! 」
本当なら部屋に戻ってすぐに白一くんに相談したかったことだ。何ですぐに言わなかったんだろう。
穢れのせいで頭の中がおかしくなっていたせいかもしれない。
『 はい。ここから見ていましたよ。そのための禊でもあったのです。私が憑いているので死ぬことは無いと思いますが、今の貴女ではかなりのダメージを受けてしまうでしょう。』
だよね。
やはり、その前に逃げたいなあ。
聖女としてどのくらい覚醒しているか見るためだってオネエ司教は言っていたけど……。
そもそも、何で私のことを聖女だと思っているの?
『それは……。』
珍しく白一くんは言葉を濁した。
暫く沈黙した後、白一くんはプワプワと私の目の高さまで上がってきて目を合わせた。
『ティア、それは貴女が前世の記憶と一緒に前世の能力も持っているからです。』
白?
『はい。ティア、私です。
白一くんではお話できないことがあるので、私と代わりました。とはいえ、どちらも私ですけどね。ふふふ。』
白、それでもだよ? 前世は巫女だよ? 聖女じゃないよね?
『貴女は、本来……神子でしょう? 出来ることがこちらでいう聖女とかわらないせいです。』
神子?
キョトンとした顔になる。
『ああ、そのあたりは忘れていらっしゃるのですね。厄介な。簡単に言えば、前世の貴女はこちらでいう聖女と同等ということです。』
は?
まって! まって!
私、聖女が使える光魔法なんて使えないよ? 魔力だって無いし。なんちゃって聖女にもなれないよ?
『ありますよ? 魔力は産まれたときからずっと。
貴女は前世で神聖力を使っていたでしょう? それがこの世界で魔力に置き換わったのです。』
え? 浄化や鬼を祓うときに使っていたやつ?
『そうです。その力で結界も張れたでしょう? 貴女は下手であまりやりませんでしたが、頑張ればケガも、なんなら病も治せたはずです。』
ふええ?
そうだっけ? あまりよく覚えていないんだけど。
漠然とした記憶が途切れ途切れにある感じなの。鬼を祓っている光景とか大きな社に結界を張ろうとしている光景とかが断片的に思い出されるだけ。だから細部ははっきりしない。
『何らかの制約がかかっているようですね。まあ、いずれにしても魔力はあるのですから、訓練すれば光魔法が使えるようになるはずです。』
うわあ、使えちゃうんだ。光魔法。
だけど、今は全然使えないからなあ。
『ですから、黒蝶は貴女がそれをどのくらい使えるのか知りたいのでしょう。』
迷惑な話だ。
本当にあのオネエ司教には腹が立つ。
幾ら同じ能力があったとしても私は元巫女で聖女ではない! 今は巫女でもない! と、断固言いたい。
産まれた時に女神セレーネ様の神託も無かったし。
ふーんだ! 私には関係ないもん!
『ふふふ。ティアはティアであることを断固貫くのですか。良いですね。今生の貴女も眩しいほどの輝きをもった魂です。』
シュルシュルシュルと私の顔の前に白一くんの身体が近づいてくる。
そして、白一くんの身体の白は頭を下げた。
え? あ、駄目っ!
白は神様の眷属だから尊いんだよ? 人に頭を下げちゃ駄目だよ!
『ティア、私は貴女のしもべです。どうか私をお使いください。ティアに忠誠をお誓いします。』
えええええ!
何を言っているの! 白!
白は頭を上げるとシュルシュルシュルともっと近づいて私の首をペロリと舐めた。瞬間チリッと微かに痛みが走る。
ひゃん!
舐めた! 白に舐められた!
びっくりして手を首に当てた。
首にスタンプを押し込んだ時のような跡が触れる。
へっ? 何?
『誓約の誓紋を刻みました。これで、私は何があろうと貴女を裏切ることも害を為すこともできない。貴女を守護する存在になりました。安心して身を任せてくださいね。』
白は満足そうに言った。
ちょっとまって! 何か既視感が……。気のせい? 何で? えっ? えっ? えーっ!
『ティア様、大丈夫ですか?』
混乱している間に、白の気配が消えて白一くんになっていた。
白は前世でもずっと一緒にいてくれたのに、今生でもいてくれるんだね。一緒にいてくれるのは本当に嬉しい。
でも、神様の眷属なのに自分を縛ってまでやること? 縛らなくてもよくない? もうっ! 何でそんなことしちゃうの? 側にいてくれるだけでいいのに。
トントン!
扉がノックされ、ギーッと開いた。
驚いてそちらを見ると、
何故か、強ばった顔でユランさんが入ってきた。
どうしたのかな?
纏っている空気がさっきと違う。かなり緊張しているみたい。
「なあ、お嬢ちゃん。あんた、聖女なのか?」
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