オネエ司教様の本題
「無駄な抵抗をするのね。貴女は逃げられないのに。」
何と言われようと……私は逃げるの。
私に運命なんてものはない。
私はこの人たちのいいなりにはならない。
不敵な笑みを浮かべて見せた。
それはキラキラとオネエ司教様の服に散りばめられた宝石よりも輝く笑みだった。
オネエ司教様が心の中で『まあ、何て娘。この娘の魂を汚したいわぁ。』と込み上がった欲望に震えるほど歓喜し陶酔していたなんて私は知らなかった。
「それで、私に何のご用ですか? 私の顔を見る以外に何もないのなら部屋に戻りたいです。」
ここにこうしているより部屋に戻った方がましだ。
得たいの知れないオネエ司教様の側では神経がすり減ってしまう。
実際何を考えているのかわからないし。
「まさか。ちゃんとあるわよ。」
獰猛な獣が獲物を狙うように目を細めた。
「私は知りたいのよねぇ。貴女がどのくらい聖女として覚醒しているのか。あん。どうやって調べるかって? それはね。」
意味深に微笑んだ。なまじ綺麗な顔だけに凄みがある。
「貴女には穢れの中に入って貰うわ。どっぷりとね。」
え、
穢れの中に入るなんて、考えただけで気持ち悪い。
いや、まって!
普通の人間なら穢れに汚染されたら狂ってしまうんだよ? 最悪死んでしまう。なにそれ? 拷問?
華の知識があるからわかることだ。
だから、華は定期的に禊をしていた。人混みに入るだけで、人の悪意や欲、妬みなどから発する穢れが身に積もってしまうからだ。それを穢れの中に入れと? やばすぎるでしょ。オネエ司教様って頭おかしいの? 聖女の覚醒云々の前にダメージ大きすぎて生存不能だって。
「貴女は聖女なんだから覚醒が不十分でも大丈夫でしょう? 浄化の力が働くはずだから。」
あ、本当にこの人、馬鹿なのかも。まず根底の私が聖女というところから間違っている。ここの人たちに何度も違うといっているのに、耳はついていないのか!って思う。前世でだって華は巫女であって聖女ではない。
とはいえ、華だったら浄化はできた。
華が生きていたのは日本という国で、21世紀の科学が発達した時代。魔法なんてものはお伽噺の中のもので、私に見えていた妖怪、幽霊、神様、悪魔、天使なども実在していないとされていた。だけどね。本当は居たの。普通の人には見えていないだけ。特に私の周りには家が神社だったせいか神様とその眷属はいつでも存在していた。見えていない時でも気配はあるという感じかな。白もそう。白は神様の眷属だった。
私は、巫女の修行をしていたから神様のご意志? 手助け? があって穢れを浄化する能力と鬼を祓う能力を身に付けることができた。
そして、日本には鬼がいた。外国だとそれは悪魔と呼ばれている。邪悪な存在で人を弄ぶ。人の欲を煽り奈落の底へ堕とす。人を食らう。それが鬼。行方不明者の半分は鬼のせいだった。その上、鬼は穢れを撒き散らす。
私は巫女のせいなのか、生まれながらのこの世ならざるものが見える能力のせいなのか鬼から何度も襲われていた。その度に穢れを浴びてどれだけキツかったか。浄化するまでは本当に苦しいし熱を出して寝込んでしまったこともある。浄化だって時間がかかるのだ。軽い穢れならば早いけれど、オネエ司教様の言うところの穢れはそんなものではない気がする。重い穢れだと……それなりに時間がかかるだろうから華でも無事ではいられないとおもうのに、私だよ? ティアーナには無理だよ。だって、私、浄化なんてしたことないもの。
「私は聖女ではないので無理です。浄化なんてできるはずないです。皆さん勘違いされているようですが。」
これはわかって貰えるまで繰り返して言うしかないのか。
この人たちって盲信的な気がするから言っても無駄な気もする。
ああ……。
浄化の前に死ぬなぁ……私。
遠い目になる。
華と違って無力な私。ティアーナは魔法だって使えなかった。こんなことなら、お姉様のように剣を使えるようになっていればよかった。そしたら武力でこんなところ破壊して逃げるのに!
……実質そんな時間は無かった。ティアーナはお妃教育のせいで多忙過ぎたから。
あ! 白一くんが側にいるからギリギリ生存の可能性ある?
って、
そういえば、白一くんこの部屋に来たときから居ないなあ。
気配もしないから私から離れているのだろう。
白一くんでもギリギリ死なないだけでダメージはキツいだろうなあ。
本体の白だったら安心なんだけど。
まぁ……いよいよその時になったら神様に祈るしかないだろう。
人は死ぬときには死ぬものだ。
華のように……。
ふと、何かが頭をかすめたけれど直ぐに消えてしまった。
「そんな戯れ言を言うなんて、困った娘ねぇ。」
ほら? この盲信たちには何を言っても通じない。
「明後日にやるわよ。ふふふ。楽しみね。」
「オネエ司教様、お話はそれでお済みでしょうか? もう部屋にもどってもいいですよね! 」
ムカついたので……ああ、華よりの思考だ。
オネエ司教様にオネエ司教様と言ってやった。
「はあ? なんですって? 変な呼び方は止めてちょうだい! 私のことは黒蝶と呼びなさい。妖しく美しい黒蝶、それが私。」
黒蝶司教様……様いらなくない? こんな人に様なんて付けたくもない。
とにかく、できうる限り早くここから逃げないと。
私……本当に死んじゃう。
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