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愛する人は運命の番と出会ってしまったけど私は諦めきれないので足掻いてみようと思います。  作者: 紫水晶猫


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メア対華と白一くん


トロリと空気に溶けたそれは、ポコポコと交わり練り合わされ新な境界ができていく。人のような形が再び縦に長く形成される。ぞくぞくと身の毛がよだった。


これは何なの?


暗い茶色の髪は漆黒の闇色に変わり、ひっつめられていた髪は刈り上げマッシュに。尖った耳が特徴的な角張った浅黒い顔。その目は瞳孔が横に長く真っ黒だった。

ニイッと真っ赤な唇が横に伸びる。


「あなたは、何? 」


「我が君オニキス様にお仕えする者。」


「ラムダさんはどうしたの? 」


「クフッ。」


これは堪らないという風に嗤った。


「あのような虫けらにも劣る者に興味がおありとはね。どうでも良いではありませんか。ク、アハハハハッ 。私は、我が君のご所望の貴女を見にきたのですよ。何とも弱々しい貧弱な娘であることか。嗜虐心で悶えそうです。ああ、ゾクゾクしますね。麗しい我が君の贄に献上されるのが楽しみでなりません。フハアッ、ハハハハ。」


ラムダさんも気持ち悪かったけれど、こっちはそれ以上だ。

背中を這い上がるような恐怖と気持ち悪さで手のひらが冷たくなり胸を圧迫されるような禍々しい空気で吐き気がした。


こんなの鬼みたいじゃないの!


穢れで肺の中が焼ききれそう。


………!


身体がピクリと固まる。思考が停止する。


今、鬼みたいって思った? 鬼って何?


そんな言葉知らない!


いえ……。


知っている?


これは、穢れを撒き散らす鬼だと脳が認識している。


まって! 普通に考えたら悪魔だよ。


頭の中がごちゃついているみたいに断片的な知識が現れては消えるを繰り返している。


「さあ、よく顔をお見せなさい。ああ、貴女の嫌悪に歪んだ表情はなんと甘美なのでしょう。」


私の顎に手をかけて顔を近づけてきた。


嫌だ!

触らないで!

近付かないで!


思い切り手で振り払った。


「少しは骨があるのでしょうか。いいですね。貴女がいずれ堕ちていくさまをみれるかと思うと胸が高鳴ります。待ち遠しくて、まるで、恋のように身を焦がしそうです。クフッ、クッ、クククク。」


嘲笑う様子にいいようのない不快感で気分が悪くてたまらない。


何なの?これは?

さらわれて連れてこられたのは、恐らく異教徒の神殿か教会で、勝手に聖女に祭り上げられて異教徒の崇める神に捧げられる? どんな茶番? あり得ないでしょう! どこの神だか知らないけれど、私はそんなものにかまっている暇なんてない。一刻もはやく皆の所へ帰りたいの。


「何度も言うようだけれど、私は聖女でもなんでもない。あなたは間違っている!」


私の言葉にその黒い目を醜悪に細めてニタリと嗤った。


()()()には私をメアと呼ぶことを許しましょう。

なんと言っても()()()ですからね。我が君の忠実なる僕の私が間違えるわけないではありませんか。往生際が悪いですよ。()()()。」


皮肉も嫌みもすごすぎて、メアといった? メアと名乗った者に対する恐ろしいも気持ち悪いも通り越して腹が立ってきた。


「あなたこそ、往生際が悪いんじゃないの? 自分が間違えたことを認めたらどう? 」


「ああ、私に教えて欲しいのですね。我が君の命が下っておりせんので、少しばかりでもう訳ないのですが、痛い思いをしたいのですね。思いの外、被虐性がおありになるようです。困ったものですね。」


途端に床から無数のイバラの蔓がシュルシュルシュルと伸びてきて、私の足に絡み付いた。


つ、痛い!


蔓にある棘が刺さって血が滲みでる。

それが、上へとうねりながら上がってきて身体に巻き付こうとしていた。


「きゃあ! 」


悲鳴を上げた瞬間、ピカッ!と、胸の辺りから目を覆うほどの光が溢れた。

それは、一瞬でイバラの蔓を溶かした。


驚いて目を見開いた先に……


小さな白い蛇がいて、私を庇うように宙にプカプカ浮いていた。


白一(しろいち)くん! 」


しろいちくん?

………自分の中から出てきた名前に息をのむ。


突然、雷にでも打たれたような衝撃が走った!


頭のなかにとてつもない勢いで記憶の波が押し寄せてきた。頭が破裂しそうだ。とてもじゃないけれど処理しきれない大量の情報。瞳の中には色々な場面の映像が流れてくる。


これはどういうこと?


やばい、やばい、やばい!


私……転生したんだ!


嘘お!


しかも、ここメイツガの世界だよ!


乙女ゲーム『迷宮の愛しい番さま』


……って、もしかして、推しのヒューベルトくんがいる?


(はな)さましっかりしてください。』


ふるふると白一くんが身体を震わせて念話で言った。


「私のイバラを溶かしたそれはなんですか? 嫌な匂いがする。胸くそ悪い聖なる者か! 」


忌々しげにメアが言葉を吐き出した。


「不愉快ですね。消滅させましょう。」


「白一くんには指一本触れないで! 」


何だかもう頭がおかしくなりそう。記憶がごちゃまぜになっていて……ティアーナと華が混在している感じがする。過去と現在も入り乱れている。

キャパオーバだよ!


キッと睨んだ私にメアは初めて驚いた顔をした。


「なんです? その身体を覆う光はなんです。ああ、私としたことが、覚醒させてしまったというのですか。我が君がお怒りになるやも……。」


慌てたようにパッととメアは消えてしまった。


逃げた? 居なくなってくれて良かったけれど、状況的には何も変わっていない。何とかしてここから逃げないと。


ドサッ!


重たいものが落ちる音がして、空間から床の上に人が転がってきた。


「わああ! 」


吃驚して後ろへ飛び下がった。


……ラムダさん?


メアに憑依か何かされていたのが要らなくなって戻ってきたのだろう。


無事なの?


「ラムダさん、大丈夫ですか? 」


近づいて様子を見ると意識がないようにみえる。


メアと違ってこの人は邪悪だとしても人間だと思う。ここに、メアとこの人だけってことはないよね?

私は人を呼んでみることにした。

読んでくださりありがとうございますヾ(。・ω・)ノ

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