レンブラント公爵令嬢襲来
……とにかく、疲れた。
気疲れ、精神的疲労が半端ない。
エンデストリア殿下が去った後、待ち構えていたかのように各国の有力者が次々と挨拶しに来た。
大半が、これまで婚姻に感心の薄かったユリウス陛下が婚約者候補を定めたことに対するお祝いの言葉をかけていた。陛下の独占欲を見せつけるような仕草に苦笑しながらだ。
これは完璧に黒歴史案件よね。
最後まで……陛下は膝の上から私を離さなかった。
たまに、私に色目を向ける者もいたけれど、その度に陛下からの身も凍るような視線を浴びせかけられて、ガタガタ震えながら帰っていった。
公爵家の令嬢という身分はそれほど魅力的なのかな? 陛下の前でやる猛者もどきには言葉もない。
控え室に生還した私はソファにぐったり沈み込んでいた。
だいぶお行儀が悪い。
でも、疲れちゃったのよお~!
ユリウス陛下は別室で各国の代表と会談があるらしらしく、暫く戻ってこない。だから、ここにいるのは、私の他はホワイトナイト様だけだ。
ホワイトナイト様にはパーティーの間、ここで待っていて貰っていたのだ。
「私は、貴女にユリウス陛下も貴女を気にかけ過ぎているようなので警戒してくださいといいましたよね? 雄と分類される全てのものに対しても! 」
ホワイトナイト様は、胸の前で腕を組み仁王立ちして私を見下ろしている。
何やら怒っているっぽいけれど、どうしょうもできなかったんだから仕方がないじゃない!
……ていうより、ここで待っていたホワイトナイト様がどうして知っているの!
「無論、貴女をしっかり見守っておりましたよ。」
見守ってって……。
どうやって?
魔法とか? ホワイトナイト様に『見守って』って言われると……なぜかゾワゾワ鳥肌が立ちそうになる。
見守り方を怖くて聞けない。
もしかしたら……私のプライバシーなんて壊滅しているのでは?
知らない方が穏やかな気持ちで生活できそう。
「そ、そんなに警戒するようなことはなかったでしょう?」
エヘヘ。
とりあえず、可愛く笑ってみた。
ユリウス陛下の演技が想像以上に上手すぎたのには吃驚したけど、本当に危険なことも無かったし。
「はあー。」
ホワイトナイト様はいかにも出来の悪い子を見るように私を見て大きなため息をついた。
「よくもまあ、陛下の好き勝手に膝の上に抱っこされていながら言えますね。……後で後悔しますよ。」
だけど、あれは私にはどうしようも無かったって!
相手はユリウス陛下だよ?
この国で一番偉い人だよ?
一応私の為にやってくれているんだよ?
後悔どころか……諦めの境地に至っちゃったんだって!
理不尽! とばかりに恨みがましい視線を投げつけた。
その時、急にガヤガヤと扉の外が騒がしくなった。
え? なに?
バタン!と扉が勢いよく開き、と同時にホワイトナイト様が私を隠す様にして臨戦態勢になった。
「お待ち下さい! レンブラント公爵令嬢! 勝手に入られては困ります! 」
扉を守っていた騎士が止めようとしているが、それを振り切るようにしてツカツカと入ってくる。
赤い縦ロールの長い髪に茶色い瞳の気の強そうな美人だった。胸元が強調されている大胆な水色のドレスを身につけている。装飾も大きくて豪華だ。
「ご機嫌よう。私、レンブラント公爵が長女キャロライン・レンブラントですわ。貴女に言いたいことがあって参りましたの。」
一方的につっかかって来ている感じだ。
見も知らない彼女の登場に驚いてしまっていたけれど、私は成り行きを見ることにする。
彼女は、ホワイトナイト様を間に挟んで私をキッ!と睨み付けた。
「私、貴女がユリウス陛下の婚約者候補だなんて認めませんわ! この地位も美しさも兼ね備えた私こそが陛下に相応しいんですのよ。私が陛下の婚約者になることが前々から決まっておりましたのに! 」
私がソファから立ち上がる暇も与えず話す。
レンブラント公爵令嬢は、悔しそうに顔を歪ませた。綺麗な顔が台無しだ。
ユリウス陛下は婚約者候補は私だけだと断言していたし、元々、婚約する予定はなかったらしいから……彼女の言っていることは嘘だ。
……もう!
『誰かと争う必要もないぞ。』と言っていたのに……言いがかりをつけられて争いになりそうじゃない!
「だから、貴女には婚約者候補を辞退していただきたいの。」
レンブラント公爵令嬢は、馬鹿にしたような歪んだ笑みを浮かべた。
あまりの常識の無さに頭が痛くなる。
いくら公爵令嬢でも、パーティーでの陛下の様子を見ていたらわかるはずだ。
それでなくても、陛下が婚約者候補と決めたものを否定するなんて、とんでもない不敬だ。
あとね。「婚約者候補になれ! 」と、私は命令されてしまったんだよ。
私から辞退とかできないから。
よく考えてみたら、こういう事態ってあり得たのよね。
ユリウス陛下のお妃狙いの令嬢って絶対いるはずなんだもの。
それって、令嬢に対してはユリウス陛下の盾って効果がないのでは?
「貴女! ちゃんと聞いていますの? 」
反応の鈍い私にレンブラント公爵令嬢の声が苛立った。
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