ヴィオラス王国と周辺諸国交流パーティー
広間に通じる大きくて立派な扉の向こうから、そこに集まった人々の声や物音がざわざわと聞こえてくる。
扉の手前でピタリと足がとまった。
どうしよう。心臓がばくばくしてきた。
膝が震えているのがわかる。
圧倒的に経験値不足なのよね。メイヴェ王国の成人は18才からだ。だから今まで、アスラン様の婚約者であっても、16才の私は、公的な行事の必要なものだけしか出席してこなかった。というか、出席させて貰えなかった。
夜会も内輪のもの以外は禁止されていた。
アスラン様曰く……
『夜会なんて君は行っては駄目だよ。どんな悪い虫が寄ってくるかわからないからね。それとも、私に駆除させたいかい? 』
夜に蛾が寄ってくるのはわかるけれど、毒虫でも飛来するのかと首を傾げたものだった。
……つまり、こんなに大きい公的なパーティーに出席するのは初めてなのだ。しかも隣国だし、ヴィオラス王国周辺諸国の有力者だらけだし。その上婚約者候補のお披露目。これで、冷静でいられるわけがない。
心臓が口から飛び出しちゃったらどうしてくれるの?
とはいえ、私はメイヴェ王国のヴァルシード公爵令嬢なのだからしっかりしないと!
お妃教育の成果を今発揮できなくてどうするの!
完全に緊張で固まってしまった私を、ユリウス陛下は流し目で見てくつくつと笑った。
「私の婚約者候補だと言うのに何を恐れることがかる? 」
言うのは簡単なのよね。恨めしげに見てしまう。
ユリウス陛下は、おや? っと目を見開くと人が悪そうな笑みを浮かべた。
そして……
私の瞳を見つめながら、重ねていた私の手を口許にもってゆくとそっと口付けを落とした。
「ティアーナ、心配せずとも貴女は美しい。自信をもて! 」
溢れるような色気に目眩がする。
緊張とは別のことで心臓が飛び出そうだ。
ドキドキドキドキ。
私の精神もつかな?
かなり心配になった。
「私に任せろ。」
やや強引に引き摺られるようにエスコートされて広間に連れていかれた。
広間に足を踏み入れた途端、
あんなにしていたざわめきがピタリと止まった。
「ヴィオラス王国国王ユリウス・ソルティオ・ヴィオニーヴェ陛下、メイヴェ王国ヴァルシード公爵令嬢ティアーナ・ヴァルシード様ご入場。」
その声と共に、その場にいた全ての人が恭しく頭を垂れた。
その間をぬってユリウス陛下に連れられて玉座まで歩く。少し高い位地に座が設えてあった。
王の椅子とその隣にもう一つ椅子があった。本来なら王妃が座る場所なのでは?
ユリウス陛下は椅子の前くると皆の方を向いた。
私の腰を引き寄せ、威厳に満ちた声で告げる。
「彼女は、メイヴェ王国のティアーナ・ヴァルシード公爵令嬢だ! 私の婚約者候補である! 」
驚きに満ちた表情を浮かべる者や目を輝かせる者など反応はまちまちのようだった。
私は、口許に微笑を浮かべ、優雅で美しいカーテシーをした。
瞬間、ほぉっ!とため息があちこちから聞こえる。
挨拶はお気に召して貰えたのかな?
ほぼ気合いで乗り切った。
ありがとうメイヴェ王室の先生!
でも、ここに座るの? 私 ?
ユリウス陛下が目で『そこに座れ! 』と言う。
だけど、ここって普通王妃が座るのよね?
婚約者候補が、座って良いものなの?
何か、本当の婚約者だと皆が勘違いしそう。
「私の膝の上でも良いぞ? 」
早くしろと言わんばかりにとんでもないことを言う。ユリウス陛下は本気でしそうだから怖い。
しぶしぶ椅子に座る。完全に脅しに屈してしまった。
それを見て、満足気にユリウス陛下も腰をおろした。
音楽が流れる。
再び、皆、歓談を始めたようだ。ざわざわが戻ってきた。
「ティアーナ、私と貴女の仲の良い様子を皆にみせることにしよう。」
へ?
信じられないことにユリウス陛下は私の頬にチュッ!とキスをした。
ひええ!
嘘でしょう!
顔が真っ赤になり涙目になる。
ユリウス陛下は涼しい顔をして、いたずらが成功した子供のような満面の笑みを見せた。
ざわめきが一段と大きくなった。
ユリウス陛下の思惑通りしっかり皆に見られたらしい。
こういうのやめて欲しい!
「これはこれは、仲が良いですね。」
声がして、
目の前に金色の髪に青みがかった鮮やかな緑色の瞳で鋭い目付きの男が立っていた。男はきらびやかな服に身を包み何処から見ても高貴な身分に見える。
「陛下がこれ程独占欲が強い方だとは思いませんでしたよ。」
ユリウス陛下にこれほど無礼な口のききかたをするこの人は何者?
「ユリウス陛下? 」
問うように首を傾げると
「彼はエンデ王国第一王子レオンハルト・フォーティス・エンデストリア殿下だよ。」
ユリウス陛下は事も無げにそう言った。
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