ユリウス陛下色の私
うええ。
毎日、休憩以外はみっちりお勉強。
特例テストまで日も少なくなってきたので本気でしごかれている。
ホワイトナイト様の鞭の比率が格段に上がってきていた。
「おかしいですね。ティアはお妃教育がほぼ完了していると聞いていたのですが。メイヴェの教育水準は私が隣国の任務についている間にだいぶ変わったようですね。」
真顔で言うからたちが悪い。
居たたまれなくなってちょっとへこみながら黙々と机にかじりついていた。
大丈夫なのかな? 私。
落ちたらどうしよう。
「ティアーナお嬢様、失礼いたします。国王陛下からドレスが届きました。」
リゼが必死に勉強をしている私に申しわけなさそうに声をかけた。
あ! えっと……。
チラリと隣に座っているホワイトナイト様の顔を伺う。
ひぃぃ!
ホワイトナイト様は酷く不愉快そうに顔をしかめていた。
「どうせ、濃紺のドレスなのでしょう。ご覧になる必要などありませんよ。身体に合わせなくともぴったりなはずです。このままお勉強を続けましょう。」
けんもほろろに言う。
いやいや、国王陛下にそれは不敬すぎるでしょう。
「お礼のお手紙も書かないとだし。」
やっぱり、一度着てみた方が……。
すると、ホワイトナイト様は無造作にパチンと指を鳴らした。
空中にキラキラと光が集まりシュルシュルシュルと光の線が鳥の形を造っていく。
「「「おおお! 」」」
近くにいたリゼもサリナも部屋の扉付近にいたカイルまでもがそれを目にして感嘆の声を上げた。
見る見るうちに光輝く鳥になった。と、思っていたら、パーッ!と弾けるようにまばゆい光を放って空気中に溶けてしまった。
「お礼のメッセージを付けて鳥をユリウス陛下へ飛ばしました。これで良いですね? さあ、続きをしましょう。」
…………こうして、
ドレスの試着をしないまま、
あっという間に……ヴィオラス王国と周辺諸国の交流パーティーの日となった。
私にとっては、ヴィオラス王国王宮デビューの日だ。
ホワイトナイト様の予想通り、濃紺のドレスだった。肩が剥き出しになっていて少し大人っぽいAラインのドレスだ。それに、装飾品まで贈ってもらっていて、サファイアのイヤリングとネックレスも着けた。サファイアはユリウス陛下の目の色そのものでびっくりした。透きとおるような水色のサファイアだった。
「ティア、とても美しいですが、ユリウス陛下の色がしつこすぎて、腹立たしいですね。」
ホワイトナイト様がさも厭そうに言う。
ここは、ホワイトナイト様にエスコートされてやって来た王宮の控えの間だ。
ユリウス陛下が私を迎えに来ることになっている。
仲睦まじくユリウス陛下にエスコートされながら広間に登場し、婚約者候補であると皆に知らしめるらしい。
何だか、緊張してきた。
見せかけとは思えない程のユリウス陛下の色を纏っていて恥ずかしいし。これって、他の人にはユリウス陛下の私に対する独占欲が強いように見えるはず。あああ。困ってしまう。本当はそうじゃないのに。
「待たせたようだな。」
扉が開いて、ユリウス陛下が現れた。
今日のユリウス陛下は煌びやかな衣裳に身を包み、その頭には王冠を載せていた。
「ティアーナ、良く似合っている。とても綺麗だ。」
ユリウス陛下は、私に手を差し出した。
そして、ふっと口許に笑みを浮かべる。
「私の色に染まったな。」
うえええ!
染まったもなにもユリウス陛下のせいでしょう!
何で楽しそうなの?
目を煌めかせたユリウス陛下をジト目で見た。
「はっはっは! 」
ユリウス陛下はこれは堪らないといった様子で豪快に笑った。
遊ばれている気しかしない。
緊張が高まってくる。
「ユリウス陛下お手柔らかにお願いします。」
せめてこのくらいはお願いしてもいいよね。
私の為にしてくれているのだということは分かっているし感謝もしている。
けれど、正直、皆の反応が怖い。
メイヴェ王国の皇太子に婚約破棄された令嬢が今度はその隣国の婚約者候補になったのだ。
どう思うのだろう?
それに、この国の高位貴族は嫌がるのではないかな?きっとユリウス陛下にふさわしい素敵な令嬢がいるはず。
「なにをもたもたしている? いい加減覚悟を決めろ! 」
すべてはアスラン様のために……。
この国でやるべきことをやるのだ!
私は、腹をくくり、漸く、ユリウス陛下の手に自分の手を重ねた。
読んでくださりありがとうございますヾ(。・ω・)ノ




