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愛する人は運命の番と出会ってしまったけど私は諦めきれないので足掻いてみようと思います。  作者: 紫水晶猫


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月の無い夜に


暗闇の中で目を覚ました。

月の無い夜。

夜空を覆う厚い雨雲がすっぽり月を隠してしまったのだ。

日中、獅子に遭遇したり、ユリウス陛下に会ったりと稀有な体験の目白押しだったせいか眠りが浅かったみたい。

ベッドの上で身体を起こしてぼーっと暗い窓の外を眺めた。


………月の無い夜は

………危ないから、外へ出てはいけません


誰かが昔教えてくれたような気がするけれど思い出せない。


ベッドから床にそっと降りる。

素足に床は少し冷たかったけれど構わなかった。

裸足で歩きたかった。

顔を上げると、

雲の隙間からほんの少し月の光が降ってきた。

床に窓枠の影が伸びる。


何とはなしに、バルコニーへ続く扉を開けて外に出る。

風がヒューっと私の髪の毛を巻き上げるように部屋の中に吹き込んでいった。


バルコニーの手摺に手をかけ夜空を見上げる。

僅かに降り注ぐ月の光で自分の金色の髪が光輝き白い肌と相まって神秘的な姿に見えていることなど気がつかない。

そして、周りで気配を殺して自分を見守っている影たちが息を飲んだことにも。


短い間に……

色々ありすぎて少し疲れちゃったのかなあ?

隣国へ来て

ユリウス陛下の婚約者候補だって。

見せかけのだけど。

アスラン様、離宮で元気にしているかなあ。

アメジスト色の瞳が恋しくなる。

いつまでもアスラン様が好きだ。

アスラン様を思い浮かべると切なくなってキュンとする。

だからだろうか………。

見せかけとはいえ、後ろめたさを感じる。

もう婚約者ではないのにね。


ふわりと笑って雨雲だらけのどんより暗い空に星を探す。


髪が風に煽られる。

水分を含んだ夜の匂いがした。

風にのって何故だかアスラン様の匂いがした気がした。


すごいなあ、私の記憶。

薫りつきだ。


「ふふっ。」


そう思ったら可笑しくて笑いが口からこぼれてしまった。


ふわり。


え?


ふわりと体に巻き付き身体にあたっていた風が遮られた。

金糸の縫いとりのある黒いマントだ。

金糸がキラキラしている。

月がさっきよりも厚い雲のあいだから顔をだしていた。


「そのような夜着では、身体が冷えますよ。」


薫りに次いでアスラン様の声までした。


呼吸が止まる。


けれど、

そこには、アスラン様ではなくディーン様が立っていた。

そういえば、彼の声はアスラン様にそっくりだった。

止めていた息をゆっくり吐いた。


ここは三階のバルコニーなんだけど。

一体どこから来たの?

黒い騎士服と黒髪のせいで暗闇に紛れてしまいそうになっている。


「部屋に戻った方がいい。」


「ディーン様はどうしてここに? 」


風に煽られ顔に張り付きそうになる髪を押さえながら首を傾げると、ディーン様は暗いのにどういうわけか眩しそうに目を細めた。


「アレクが、言っていたでしょう?私は影から貴女をお守りしています。」


最初の紹介の時にそんなことをホワイトナイト様が言っていたのを思い出した。

それにしても、こんな夜中にまで?


「ディーン様は寝ないのですか? 」


「貴女にいわれたくはないな。」


ディーン様はクスリと笑った。


「貴女が朝までベッドで眠っていれば、私はここには居らず休んでいたでしょう。」


つ………。

私のせい?

でも、ここまで護衛の必要ってある?

本当にもう何度も何度も疑問に思っている。

私は王族でもなければ国の重要人物でもない。

つまるところ、お父様のせいなのではないかと思う。アスラン様とのことでは、お父様にものすごく心配をかけた自覚がある。そのせいでお父様は酷い過保護になってしまったのかもしれない。

きっと、ディーン様もお父様の命令たでここに居るのね。気の毒すぎる。


「私は大丈夫なのに。」


ぽつりと言った瞬間、


「何を言っているんだ! 君は! 全然大丈夫じゃないだろう! 」


ディーン様は険しい顔をして手で私の両手腕を掴んだ。

初めて聞く強い口調に驚く。

目を見開いてディーン様の赤く揺れる瞳を見つめると、我に返ったように目を伏せた。


「すまない。

貴女は命を狙われた。メイヴェの貴女と親しい者たちの気持ちを考えて欲しい。」


真摯な言葉に、心が揺さぶられる。

自分のことだから大丈夫って思っていたけれど、

ディーン様の言うとおりだ。

お父様もお姉様も私に何かあったら悲しむ。


「ごめんなさい。考えなしだったわ。」


謝ると、ディーン様は私の頭を優しく撫でた。


………つ。


こんな風に撫でられるのは久しぶりだった。

以前は……アスラン様がよく撫でてくれていた。

心がポワッと温かくなる。


「もう遅いから寝なさい。」


ひょいと身体が浮き上がった。


ふえ?


あろうことか、抱き上げられていた。

縦抱きされて室内へスタスタと連れていかれる。

思わず、羞恥のあまり顔を両手で覆った。


恥ずかしい! 私、子どもみたい!


ディーン様はベッドに私を横たえ、シーツを首までかけた。


「……おやすみ。ティア。」


ディーン様まで、愛称呼び?と思ったのを最期に、ストンと眠りに落ちてしまった。


読んでくださりありがとうございますヾ(。・ω・)ノ

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