ユリウス陛下の婚約者候補
「ないよ。」
そうこたえると、ユリウス陛下は不適な笑みをみせた。
「ティアーナが望まぬ限り。」
ホワイトナイト様から不機嫌そうなオーラが
出る。
ただ学園に通うだけなのに何を心配しているのやら。それよりも特例試験に受かるかどうかを心配して欲しい。それに、学園を猛獣の檻とは何てことをいうのだ。そもそも、そこからして間違っている。学園は学ぶところでしょう? あのヴィオラス王立ミカエリス学園なのよ? 優秀な人材の宝庫! 皆、必死に勉強しているに違いないよ。
「そんな、真剣に心配しなくても。まさか、ヴィオラス王立ミカエリス学園に通う生徒が勉強そっちのけで女子にかまけているはずないでしょう? 」
ホワイトナイト様に首を傾げて問う。
「ユリウス陛下に多大なるご面倒をお掛けして婚約者候補にしていただかなくても大丈夫だと思います。」
そうそう、いくら公爵令嬢とはいえ、一国の皇太子に婚約破棄された令嬢だよ?
傷物なのだから皆、避けるんじゃないかな?特に高位貴族は。
「私なんて相手にされません。」
胸を張って宣言した。
「アレクシス、これはどういうことだ? なぜ、ティアーナはこれ程無自覚なんだ? ああ、そうか。メイヴェ王国第一王子のせいか。 」
何故ここでアスラン様が出てくるの?
「まあいい。ティアーナはエンデ王国のことを調べたいのだろう? その為にはこの国にいる必要があるな? この国にいたければ、私の婚約者候補になれ! 」
手を口許にあてて少し考えてから、ユリウス陛下は、強い口調で命じた。
え?
目をぱちくりさせた私にホワイトナイト様は大きなため息をついた。
「やむを得ないでしょうね。」
「でも、私、婚約破棄された令嬢ですよ? ユリウス陛下に悪評が立ちませんか? 」
私の為に色々手を打ってくれるのは有難いけれど、そのせいで悪い噂でも立ってしまったらユリウス陛下に申しわけない。
「やはりな。アスラン王子は下手を打ったものだ。良いか? ティアーナ、そのようなことは取るに足らないことだ。私は気にしないし、何ら影響もない。」
ユリウス陛下は真剣な顔をして私に言い聞かせるように言った。
私は、アスラン様の為にエンデ王国について調べると決めた。だからこそ学園に入ることにしたの。
それなのに……。
このヴィオラス王国はエンデ王国の友好国だからここにいる方が都合が良いのに。
それを知っていて、ユリウス陛下はこの国にいたければ婚約者候補になれと言う。私が断れないようにして。
これでは提案を受けるしかない。
私は頭を下げる。
「謹んで、婚約者候補をお受けいたします。」
「それで良い。」
ユリウス陛下は満足気に頷いた。
「では、そういうことだから、パーティーの日のエスコートは私がする。ドレスは私の色を贈ろう。必ず着てこい。」
いちおう家からパーティー用のドレスも装飾も持ってきていたからそれで良いと思っていたのに。
雰囲気的に言うとおりにしないと駄目そうだ。
「ああ! 言い忘れていたが、今、私の婚約者候補はティアーナだけだから誰かと争う必要もないぞ。喜べ! 」
ははっ!と、ユリウス陛下は笑った。
それはそれで不味くない? 私はうわべだけの婚約者候補なのに、ユリウス陛下色のドレスを着た上に候補が私一人だけだなんて本命に見られちゃわない?
そもそもどうしてユリウス陛下にまだ婚約者がいないの? 高位貴族はこぞって自分の娘に王妃の座を狙っているはず。
「なんだ。他に婚約者候補がいないのが不思議か? 」
まるで、私の考えを読んだかのようだ。そんなに顔に出ていたのかな?
「私は真実愛する者しかいらないからな。出会えば候補などと無駄なことはせず、愛を捧げるだろう。」
驚いたことにユリウス陛下はとても情熱的だった。
「ふふふ。」
側で私たちのやり取りを見ていたクラウスが堪えきれないといった様子で笑みを漏らす。
「うちの王家は、晩婚が多いのです。陛下が一人っ子なのもそういうわけなのです。前王も真実愛する人を見つけられるのに時間がかかり晩婚でしたから。」
『真実愛する者』
心に、冷たい何か……氷の欠片のようなものが刺さったきがした。
真実とはどうやってわかるのだろう。
ただ愛するのと真実愛するのとでは違いはあるのか。
真実と付くだけでそれは愛を超越するのか。
不意にアスラン様の姿が思い浮かんだ。
彼のアメジスト色の瞳にうつる私も。
私とアスラン様の間に愛は存在していた。
愛し愛されている感覚。
でも、あれは………もしかしたら真実ではなかった?
心が翳る。
『運命の番』こそが真実愛する者なら、
そういうことだ。
「ティアーナ様! 」
『運命の番』とは?
その真実は? 真実? 真実……真実……。
「ティア! 」
私を呼ぶ声が聞こえてはっと我に返った。
思考の海の中に潜り込んでしまっていたみたい。
ホワイトナイト様が眉を寄せて心配そうな顔をしていた。
「少し、考え事をしていたの。大丈夫よ。」
何でもないと笑って見せる。
「そうですか。」
ホワイトナイト様は目を細めて探るように私を見た後、クラウスに目を移した。
「お話は、もうお済みですよね? そろそろティアーナ様もお疲れのようですので退出させていただきます。」
有無を言わさぬ口調に驚く。
考え込んでいる間、少し呆然としすぎていたのかも。思いの外、ホワイトナイト様に心配させてしまったみたいだった。
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