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愛する人は運命の番と出会ってしまったけど私は諦めきれないので足掻いてみようと思います。  作者: 紫水晶猫


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黄金の鬣の獅子


目の前に……




黄金の鬣を持った獅子がいた。




驚きのあまり心臓がドクンと跳ねた。


どこか見覚えのある青みがかった鮮やかな緑色の瞳。

猛獣なのに凛とした佇まいは威厳に満ちていて、

一噛みで殺されてしまうと思うのに、

追い詰められた鼠のように身動き一つできなくなってしまっているのに、

不思議と恐くはなかった。


だから、


「リゼ! 駄目よ。」


殺気立って公爵家のお仕着せのどこからか取り出した武器で獅子に向かって今にも飛びかかりそうなリゼを制止した。


『お前から私が探している者の匂いがする。』


獅子が喋った!

ガオオオと吼えるのではなく、人の言葉で!


私は大きく目を見開いた。


言葉を話す猛獣。

この獅子は誰かを探していると言う。

だけど、全く心当たりがない。


獅子がノソリノソリと私のすぐ近くまでよって来た。そして、鼻先を私の身体に擦り付けるように匂いを嗅ぎ始めた。

足元から上へと登っていくように時折鼻を鳴らしながら嗅いでいく。

普通なら恐ろしいはずの獅子相手に身体を滑っていく鼻の動きに羞恥を覚えて、


「やめてください! 」


思わず叫んでしまった。

鼻で身体中をまさぐられているみたいだ。

ちょっと涙目になってきた。


『大人しくしていろ! すぐに終わる! 』


獅子はそう言い放つと更に上のほうの匂いを嗅いでいく。

もうそこは胸のあたりで、本当にやめて欲しい。

ぷるぷると羞恥に身悶えそうになる。

鼻先で舐められるように匂いを嗅がれるとかどんな羞恥プレイなの!


多分……恐らく、この獅子は獣人ではないかと思う。

獣人が獣に変身できるかどうかは知らないけれど、他に考えようがない。


獅子は百獣の王と言われるほど強い。

リゼが私の為にその獅子を引き離そうと考えているのがわかったけれど、首を振ってやめるように目配せした。

万が一、獅子とリゼが戦闘になってしまったらどちらも大ケガをしてしまう。

だって、公爵家の筆頭メイドが弱いはずがない。きっと互角の戦いになるはず。それは、避けたかった。


そんなことを思い巡らせている間に首のあたりに獅子の鼻があたった。


ひゃあ!


今度こそ羞恥で身悶える。

顔を真っ赤にして涙で潤んだ瞳で獅子を睨み付ける。


首とか……やめて!

そんなところアスラン様以外に触らせたことなどないのに!


そう思った刹那、獅子の身体が吹き飛んだ。


「その駄犬は変質犬ですか? ティアも雄に触らせては駄目でしょう? 」


微笑みながらホワイトナイト様は、魔王を降臨させてでもいるかのような凍るような瞳で獅子を見据えながら言った。


吹き荒れるブリザードの幻が見える。


ホワイトナイト様、帰って来たんだ。


助かったのかな?


ホッとしてへなへなとしゃがみこんだ。


「アレク! あれは私が処理しても良いよね?」


え?


ドキッ!と、した。

不意に聞こえた第三者の声がアスラン様に似ていて。

声の質? 話し方? 少し違う? ううん。そっくり。


声のした方へ振り向くと、長い黒髪を背中で三つ編みにした長身の男がいた。赤い瞳を持ち端正で綺麗な顔立ちをしている。容姿はアスラン様とは全く似ていなかった。金糸の抜いとりのあるマントを纏い黒い騎士服をきているところをみると、特務隊の人のようだ。


それはそうよね。

アスラン様がこんなところに居るはずがない。

幽閉されているのだし。


ホワイトナイト様と共に助けに来てくれたのかな。


「処理するのは構いませんが、あれでも一応あれですので、生きたまま返してください。」


あれって何?

ホワイトナイト様のあれって多くない?


「そう? 骨の数本くらい折るのは構わない? 」


え?

この人、見かけによらず物騒な人なの?


「今回は無傷でお願いします。」


ホワイトナイト様がまともなことを言っている!

こんなに良い天気なのに雨が降りそう。


「ティア? 何か失礼なことを考えていませんか?」


ホワイトナイト様がにっこり微笑んでこちらを見ていた。


何故ばれた?


「ところで、ホワイトナイト様、そちらの方は?」


話を変えるついでに尋ねる。


「彼は、ディーンです。家名は職務上隠匿されています。一応……私の上司です。」


上司? 今、上司って言った?

それにしては、ホワイトナイト様の方が偉そうじゃない?上司ってところ渋々感が半端なかったような気がしたし。

でも、ホワイトナイト様は王国黒翼騎士団特務隊長よね? メィヴェ王国騎士団総括室長官のお父様のすぐ下かと思っていたのに、特務隊長の上の役職があったのかと驚く。


ディーン様は吹き飛ばされて気を失っている獅子を軽々担ぎ上げると魔方陣と共にスッと消えた。


数秒後、


「捨ててきたよ。」


そう言って、戻ってきたディーン様は私の目の前に立った。


優しく目を細めると膝まづき私の手をとる。


「初めまして、ティアーナ様。私はディーンと申します。これより、貴女の盾と剣になりましょう。いかなるものからも貴女をお守りします。」


手の甲に口付けを落とした。

心臓がドキドキする。

なになになに?

何かデジャヴなんですけど。

赤い目に見つめられて顔が真っ赤に染まってしまう。


「これはどういう? 」


助けを求めるように目を泳がせればホワイトナイト様が説明をしてくれた。


「私は表で貴女をお守りし、ディーンは影から貴女をお守りするということです。」


そこまで、私は守られる必要があるの?

クラウスもこの国の王様も大袈裟すぎる気がする。


「貴女を襲撃した理由が未だ判明していませんし、それを命じたものも捕まっていませんから当然のことです。それに、あんなものに襲われてハレンチな行為を強要されていたではありませんか!」


言い方!


確かに……あれは酷かった。ハレンチといわれればそうだよね。


遠い目になる。


それにしても、さっぱり獅子の言っていたことがわからない。


「私、何か匂いがするかな? 私から匂いがしていたみたいなの。あの獅子が探している人の。」


読んでくださりありがとうございますm(_ _)m

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