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愛する人は運命の番と出会ってしまったけど私は諦めきれないので足掻いてみようと思います。  作者: 紫水晶猫


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畏れ多くも陛下の後ろ盾


タイトルは…………



タイトルって何だっけ?



ベッドから起き上がり「ふああっ」と欠伸をする。

窓から日射しが入り気持ちの良い朝だ。

外を眺めようとバルコニーに近づくと窓辺で寝ていた猫ちゃんが顔を上げてこちらを見た。

今日も瞳がキラキラしている。青みがかった深い緑は本当に綺麗だ。ついつい引き寄せられてしまう。


「魅惑の瞳だね! 猫ちゃん! 」


からかうように猫ちゃんに笑いかけると、猫ちゃんは関心なさげにプィとそっぽを向いた。

なんともつれない。こんなに可愛がっているのに。


バルコニーへのドアを開けるとそよそよとした風が

顔を撫でてゆく。


勉強の前にお庭の散歩でもしようかなあ。

部屋に籠りっきりで、そういえば長く外に出ていない。お日さまの光を浴びたいな。


「おはようございます。お嬢様。そのような格好でうろうろされないでください。」


朝の支度の手伝いに部屋に入って来たサリナに注意された。

サリナは意外と口煩いのだ。


「あとで散歩に行きたいの。」


サリナに告げると首を傾げて少し考えてから頷いた。


「では、カイルかユノーをお連れください。」


公爵家の中だし一人でも大丈夫なんだけどな。

そうは言っても、ホワイトナイト様にも一人では外にでるなと釘をさされたし、ここの敷地すごく広いから目が届かない場所もあるのだろうし、一番起こりそうで危険なのは、迷子かな?




身繕いがすんで、朝食をお部屋で取ろうかと思っていたらリゼが私を呼びにきた。


「お嬢様、失礼いたします。」


涼やかな水色の瞳の目を伏せ優雅な仕草で頭を下げる。


「旦那さまが朝食をご一緒に取りたいと申しております。ご都合はいかかでしょうか? 」


「大丈夫です。是非ご一緒したいです。」


私はクラウスと朝食を取ることにした。

初めて朝食を一緒に取ってから数日おきくらいに誘ってくれる。

クラウスはとても忙しい人みたいで、何もしなければ会うことなどないということをこの短期間で私は学んだ。だからこういう機会は貴重なのだ。

多分、向こうもわざわざ私のために時間を作ってくれているのだと思う。

親睦? 仲良くなるための時間?

お父様の親友でお母様とも親しかったらしいクラウス。彼と話をしていると、家でタブーだったお母様の話も気楽にできた。それはとても嬉しいことだった。

知ることなど決してないと諦めていたのに。お母様のことを知ることができた。



今日は薔薇の間での朝食らしい。

クラウスの屋敷には、もはや宮殿だけれど、ちょうど良い広さのお部屋がたくさんあって、それぞれに名前がついていて面白い。この薔薇の間以外にも、鈴蘭の間、百合の間、新緑の間、紅葉の間、桃の間などがあるそうだ。しかも、クラウスの気分で名前が変わるらしい。


リゼに案内されて部屋に入ると、クラウスは嬉しそうに笑って立ち上がり、自ら私の椅子を引いて座らせてくれた。

相変わらずテーブルの上には豪華な料理がたくさん並んでいる。


「貴女と食事ができて私はとても幸運な男です。」


自分も再びテーブルにつくとクラウスは微笑んだ。


「食事を召し上がりながらきいて欲しいのですが、

貴女はこちらへ来る途中、襲撃を受けましたね。そのことで、うちの陛下が非常に憂慮しておられるのです。」


ふえ?


思わず間の抜けたような顔になってしまったのは許してほしい。

いきなり出てきた『陛下』という言葉に驚いたのだ!とてつもなく。


「陛下は、貴女がメィヴェ王国第一王子から婚約破棄を突き付けられた時にその場におられたのもあって、貴女の身に起こったことをたいへん気の毒に思われていらっしゃるのです。」


私が気を失った時に助けてくれたとお父様が言っていたのを思い出す。

あの時はもうそれどころではなくて記憶の隅に追いやってしまっていた。


「それで、陛下は、貴女がこの国にいる間の後ろ盾になりたいとおっしゃっています。」


えええ?

どうして、私なんかにそこまでしてくれようとするの? 恐れ多すぎでしょう!


「さすがに、恐れ多いです。」


クラウスに言うと、肯定してくれるように頷いた。


けれど、


「ティアーナ、すみません。うちの陛下は頑固なのです。貴女が好まずともこれは決定事項です。」


何かすごいことになってしまった。

自分でも顔がサーッと青ざめるのがわかる。


「どうしよう……。」


「そこまで困らなくても大丈夫ですよ。ティアーナ。取り敢えず、この国にいる間だけですから。」


帰国したら無くなるの?

そう言われれば、大したことではないような気がしてくる。私は少し落ち着いてきた。


「それに、陛下の後ろ盾があれば、むやみに貴女に無体を働く者もいないでしょう。学園での貴女の守りが強化されるのは良いことです。」


それにしても、そこまで危険な目にあうとは思えないんだけどな。皇太子の婚約者だった頃ならまだしも、破棄されたことで瑕疵つきの公爵令嬢だし、おまけに次女だから跡取りでもない。襲撃にしても、私を襲ってメリットがあるとは考えられない。だから、自分ではたまたま襲われたのではないかと思っていた。


「そういうことですので、一度陛下と大々的に会っていただくことになりました。都合の良いことに来週王宮で周辺諸国の重鎮を招いての交流パーティがあります。そこに貴女は招かれる予定です。」


うええ。

まさかの隣国ヴィオラス王国王宮デビュー?

気が遠くなりそうだ。

アスラン様の婚約者としてなら公務としてそういうこともあったかもしれない。

それでも、いずれは……といった感じだ。

なのに、何の肩書きとかも持っていないただの娘なのに……他国の王宮に招かれるなんて普通ではあり得ない。メィヴェ王国の公爵家という身分があるだけましというぐらいだ。


顔色が一向に良くならない私を見てクラウスは宥めるように目を細めて優しく言った。


「貴女が思う程、大した催しではありませんよ。気楽に参加してください。」


…………そんなわけないでしょう!!!


盛大に私は心の中で叫んだのだった。




そうして、私にとって波乱の朝食会は終わった。

精神的にどっと疲れた。

扉の側で待機していたリゼと一緒に部屋へ戻りながら、私はフラフラとお庭を散歩したくなった。

朝からするつもりだったのだから、今からでもいいよね。


「リゼ、このまま散歩してはいけないかな?」


「良いですよ、お嬢様。私がお供いたします。」


リゼは快く散歩についてきてくれるみたい。


屋敷から外にでると気持ちの良い風が吹き抜け、太陽の光が眩しくて目を細めた。


中央に噴水がみえる。花壇に色鮮やかに花が咲き乱れ、木々もバランス良く植えられていて、向こうに森も見える。

私は森の方へ歩いて行ってみることにした。

森といっても公爵家の敷地内だから危ないこともないだろう。


「リゼ、森の方へ歩いて行ってみましょう!」


リゼの方を振り返って言うと、


「距離があるので、お嬢様の足では森までは無理かもしれません。」


考え深げにリゼはこたえた。


「それなら、行けるところまで行きましょう!」


私は歩く気満々だ。

ちょうど運動不足でもあったし。

それに、体力作りもしたかった。


周囲の景色を楽しみながら歩いていたら結構遠くまで来ていた。


少し疲れちゃったな。


木陰にベンチを見つけた私は、そこで休むことにした。


リゼの言ったとおり森まではまだまだ距離があるから無理そう。

一休みしたら戻ろうかな。


ベンチに座って青い空を眺める。


本当に気持ちがいい。


そよぐ風を感じながら目を閉じようとしたその時、

突然、視界が遮られた。


リゼが殺気立つのをピリッと感じた。


読んでくださりありがとうございますm(_ _)m


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