クラウスと朝食を
「よく眠れましたか? ティアーナ。」
私が着席するとクラウスが優しく微笑みながらたずねた。
今日はとても良い天気なので、朝食は庭園で取ることになったみたい。
セバスが部屋に迎えに来てくれた時に説明してくれた。
白い可愛らしい造りの丸テーブルに美味しそうな料理が並んでいる。朝から豪勢だ。
「はい。クラウス、素敵なお部屋をありがとうございました。寝心地もとても良かったです。」
夜中にちょっと起きてしまったのはノーカウントだ。
「それは、よかった。貴女の御父君と私は親友ですからね、遠慮なく我が家と思ってお過ごし下さいね。」
ん?
お父様は知人と言っていたけれど……親友?
親友ってことはすごく仲がいいってこと?
隣国の公爵様とどうやって親友になったんだろう?
公爵繋がり? 公務とか?
私が訝しげに考え込んでいると、
クラウスは面白そうな表情をした。
「貴女の御父君オルフェスとはヴィオラス王立ミカエリス学園で一緒に学んだのですよ。懐かしいです。
貴女の御母君シアを巡って争ったものです。本当に可憐で愛らしい方だった。」
久しぶりにお母様の名前を聞いてびっくりした。
それに、お母様をシアと愛称で呼ぶくらい仲がよかったのだと推し量られた。
私のお母様フェリシア・ヴァルシードは五年前に病に倒れて亡くなってしまった。
原因不明の病だった。ある時から突然自分の意思とは関係なく昼夜を問わず眠ってしまうことが多くなり、段々そうなる間隔が短くなった。やがて眠り続けている時間が長くなり、遂には目を覚まさなくなってしまった。そのせいで衰弱して帰らぬ人となったのだ。
お父様はお母様をとても愛していた。私とお姉様から見ても恥ずかしくなるくらい二人はラブラブだった。だから、その時のお父様の悲しみと治療法を見つけることができなかった自身に対する怒りはそれはそれは壮絶だった。だからお姉様と相談して私たちの悲しみは胸の奥にしまいこんでお母様の話をしないことにしたのだ。お父様がこれ以上苦しまないように。
「クラウスは母のことをご存知なのですね。驚きました。それに、久しぶりに母の名前を聞けて嬉しかったです。」
「シアのことは本当に残念でした。私もオルフェスと共に治療法を探したのですが見つからなかったのです。
原因すらも。あれから5年経ちますが未だに解明されていません。当時はシアと同じ病で亡くなった人が私が知るだけでも58人いました。伝染病かとも思われましたが、不思議なことにその後、病は急速に終息したのです。」
こんなに詳しいことを聞いたのは始めてだ。
伝染病かも知れないということでお母様が病とわかってからは私たちは会わせて貰えなくなった。お父様はお母様にかかりきりになり……なにか良くないことが起こっているというのはわかっているのに、子どもだったせいで何も知らされず、ただ傍観することしかできなかった。結局、お母様に会えたのは葬儀の時だった。
「オルフェスはね、子どもたちにシアのことを話せなくしてしまったことをとても後悔しているんですよ。今も思い出すら語らないのでしょう? 全く何をやっているんでしょうね。シアはきっと呆れていますよ。」
「父が後悔しているなんて思ってもみなかったです。私と姉で決めたことなので気にすることないのに。ですが、思いがけなくも母のことを教えてくださりありがとうございます。子どもだったので何も知らされなかったんです。」
クラウスは「そうでしょうね」という風に頷いた。
「あ、話に夢中になってしまいましたね。冷めないうちに沢山召し上がってくださいね。」
お腹がペコペコだ。
コーンスープをスプーンですくって口に運ぶ。すごく美味しい!スクランブルエッグ、カリカリベーコンと次々食べる。
クラウスは微笑んで美味しそうに食べる私を見ていた。
「ところで、メイヴェ王国第一王子と貴女の噂はこの国までとどいていました。親友の娘は私の娘のようなものですからね。とても心配していたのですよ。こちらから尋ねようとしているところに、オルフェスから手紙がきましたので、詳細を知ることができました。」
隣国まで私とアスラン様の婚約破棄が伝わっていたのね。まあ、皇太子の婚約破棄だから大事件だしね。
運命の番が現れたことも伝わっているのかな?
私の考えを読んだようにクラウスが話す。
「婚約破棄の原因は憶測的な感じで色々言われていますね。ティアーナ、大変でしたね。」
いたわるように瞳を揺らした。
「はい。ですが、もう大丈夫です。私はやるべきことを見つけましたから。」
獣人の国エンデ王国のことを知って
『運命の番』の真実を得てアスラン様を幸せにする。
私が決意と共ににっこり微笑むとクラウスは答えを知っていたかのようにクスリと笑った。
「そこで、提案なのですが、私とオルフェスとシアの母校に通いませんか?」
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