猫ちゃんは不埒な害獣扱いされる
『ティア、君は良い匂いがする。」
アスラン様は私の首筋にキスを落とす。
『ひゃあ!』
くすぐったいやら恥ずかしいやらで私の心臓は死んでしまいそうなぐらいドクンドクン早鐘を打つ。
近い近い!
彼の美しい顔が首に、
唇が触れてるうう。
きゅん死しちゃうよ。
アスラン様が良い匂いだし、酩酊しそう……
顔が熱い、身体中が火照る。
アスラン様、好き。好き。愛しています。
『ティア、愛している。』
大すきなアメジスト色の瞳が蕩けて
目が覚めてしまった。
ぽけーっと、見慣れない天井を見ていた。
久しぶりにアスラン様の夢をみてしまった。
幸せだった時の思い出……。
私が失くしたもの。
アスラン様……元気かなあ。
シーツをぎゅっと握りしめ頭の上まで引っ張り顔を覆う。
……つ、うっ、う、う。
心ともなく嗚咽がこみあげてきて慌てて口を両手で塞いだ。
あれはない!夢でみるにしても、あのシーンはない!残酷すぎるよ!
夢の神様がいるなら文句をいいたいです。
折角、前向きに頑張ろうとしているのだから、アスラン様の夢はもう少し手加減してください。
せめて、うっかり泣いちゃわないくらいに。
アスラン様の夢を止めて欲しいと言わない自分に呆れる。でも、仕方がない。夢でアスラン様に会えて嬉しいとも思ってしまったから。
暫く、声を殺しながら泣いていると、シーツの上から頭をペチペチ叩かれているのに気がついた。
シーツをどかして見てみると、猫ちゃんが私の顔をを覗き込んでいた。
「ニャオ」
どうやら窓辺に寝床を作ってあげてそこで寝ていたはずの猫ちゃんは私を心配してベッドに上がってきてしまったようだ。
昨夜は、ホワイトナイト様とお茶を飲んだ後、疲れていたので部屋で夕食をとらせてもらい早めに寝てしまったのだ。
ホワイトナイト様が急にあんなことを言い出すから、きっとあんな夢をみたんだ。
身体を起こして猫ちゃんを膝の上に抱き上げた。
「猫ちゃん、起こしちゃってごめんね。」
ぎゅっと猫ちゃんを抱きしめる。
「ねぇ、猫ちゃんにも番がいるのかなあ?私の愛してる人には番がいたんだあ。なんで、私じゃなかったんだろうね。」
猫ちゃんは「ナオ」って鳴いて、私の腕の中から這い上がると、ペロペロと涙で濡れた頬を舐めた。
くすぐったくて「ふふふ」と、笑ってしまう。
「慰めてくれるの?猫ちゃん。」
猫ちゃんのお陰でだいぶ落ち着いてきた。
「一緒に寝ようか。」
再び横になると、猫ちゃんもシーツの中にいれて抱き寄せた。
暖かい……。
泣いていたのが嘘のようにすっと眠りに落ちた。
静寂が訪れた暗い室内に魔方陣とともに男が現れた。
窓から入る月の光に照らされた闇に溶けるような黒髪と美しい妖艶な顔の男……ホワイトナイト様は、忌々しげにベッドを見る。
足音を立てずにつかつかと歩み寄ると、ものすごく不機嫌そうにベッドを見下ろした。
彼の周りの温度が急速に下がっていく。
そして、無造作に猫ちゃんをつまみ上げると床に放り投げた。
すると、猫ちゃんは寝ていたとは思えないほど俊敏にクルリと回転して床の上に静かに着地した。
一人と一匹は睨み合う。
「いくら子どもでも未婚の女性のベッドに入るのはどうかと思いますがね。処分しますよ。」
ホワイトナイト様は、地を這うような低い声で言った。
猫ちゃんは、挑発でもするかのようにじっと彼を見据えたがプイッとそっぽを向くと、ゆっくり自分の寝床へ戻っていった。
そんなことがあったとも知らず、
朝、目を覚ました私が、サリナとリゼに洗面や着替えを手伝ってもらって身なりを整え終わると、ホワイトナイト様がやって来た。
そういえば、抱っこしていたと思ったのに起きたら猫ちゃんいなかったな。
もしかしたら、アスラン様の夢も、泣いてしまったのも、猫ちゃんが慰めてくれたのも全部……夢?
夢の中で夢をみたとかそういうやつ?
ぼんやり止めどなく考えていると、
「おはようございます、ティア。」
ホワイトナイト様が私の目の前に立ち挨拶した。
だけど、呆れたことに昨晩の『ティア』という愛称呼びは継続されていた。
許していないと言ったのにスルーしたのね。
「ところで、あれをベッドに入れるのはおやめください。不埒な行為です。」
へ?
不埒とは?
「あれって?」
目をパチクリさせてホワイトナイト様を見ると、窓辺でまるまっている猫ちゃんを顎で指し示した。
猫ちゃんと眠ったのは夢じゃなかったってこと?
だけど、それのどこが不埒なの?
全然わかんない!
「あれは、雄です。」
真顔で言う。
……って、子猫ですけど?
そう思うのに、ホワイトナイトさまはとても真剣な面持ちだ。
呆れるを通り越して大丈夫かな?と心配になってくる。
そんな私を見てホワイトナイト様はキリリとした顔で断言した。
「貴女の父君からも間違いのないようにと仰せつかっています。全ての雄は貴女に対して邪でハレンチなことを考える害獣ですので、ベッドに入れるのは禁止です。」
お父様まで持ち出してきた。
しかも言っていることが無茶苦茶なのに、さも当然のことのように言い切るところがすごい。
貴方も雄の1人でしょ? と言いたいけれど、その後何が帰ってくるかと思うと……
面倒くさい。
「はいはい、わかりました。」
ここは適当に流してしまうことにした。
「すこし、よろしいでしょうか?」
少し遠慮ぎみにリゼが私に話しかけてくる。
すごく良いタイミングだ。ホワイトナイト様との会話を一段落着けたかったところだ。
「何かしら?」
「旦那様が朝食をご一緒されたいと。」
クラウスとはまだ最初の挨拶しかできていない。
これからのことを考えると、しっかり親睦を深めないとよね。お願いしたいことも出てくると思うし。それより、こんなにもてなして貰っているのだからお礼も言っておきたいし。
「ありがとうございます。是非ご一緒したいです。とお伝えください。」
リゼに微笑んだ。
読んでくださりありがとうございますm(_ _)m




