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愛する人は運命の番と出会ってしまったけど私は諦めきれないので足掻いてみようと思います。  作者: 紫水晶猫


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この報告書は極秘(オルフェス・ヴァルシード4)

 拙作を読んでくださる

皆さまに感謝しています。


 ……はああ。


 メイヴェ王国王宮内にある騎士団総括室。


 私は、呻き声を漏らし頭を抱えた。

 気がつけば、自分の身体の中からブワッと魔力が漏れでてしまっている。

 まあ、それくらいに衝撃的だったわけだが。


 ……おや。


 目の端にサッと近くに居た部下たちが私から距離をとるのが見える。


 私の魔力ごときで恐れをなす軟弱ものは、後で鍛え直してやろう。

 しかし……


 私は、情報を整理していく。


 未だ私の身体から漏れ出ている魔力で部屋の温度が急激に下降していく。


 パキパキパキと足元から音がして、そこから身を切るような冷気が這い上がってくるのを感じるが……些末なことだな。


 目の前にある報告書の山。その一番上にある報告書がキラキラとした結晶で覆われてしまっていたとしても、まあ、それも些末なことだ。


 と、


「あー、あー、何をしてくださっているのですか! 総長、無駄に部屋を凍らせるのは止めてください」


 私の傍らから副長官フェルナンドの慌てた声がした。


 所用で外に出ていたのにもう帰って来たのか。



 




「それで? この状況は一体どういうことなのですか?」


 部屋が解凍するまでは仕事にならないと、自分以外の部下たちを部屋から追い出したフェルナンドが恨みがまし気に私を見てくる。


 どうしたもこうしたも……


「なあ? フェルナンド。暫く国を空けていいか?」


 私の問いに、


「うわー。またそのそうなことを。止めてください。駄目にきまっているでしょう!」


 フェルナンドが手をパタパタさせながら顔を引きつらせた。


 反対されるとは思っていたが、言わずにはいられなかったのだ。


 それは、そうだろう。

 ティアがまたもや襲撃されたのだ。

 しかも、忌々しい。先達てティアを攫ったオニキスなる神を崇める教団の一味らしい人外ものにだ。


「聖王国に潜入させた密偵からの報告は?」


 ティアが攫われて捕らえられていた場所……廃れた神殿であったが聖王国内だったことから密偵に探らせていた。


「それが……」


 表情を改めたフェルナンドは言葉を濁した。


「やはり簡単にはいかないか」


 聖王国は、我が国と友好関係を結んではいるが秘密の多い国だ。女神セレネ絶対主義のあの国は一筋縄ではいかなそうな要素が多すぎる。神殿と王家の目をかいくぐっての諜報活動は困難を極めているのだろう。


「なあ? フェルナンド」


「何ですか? 貴方が国を出るのは駄目ですよ?」


「お前の息子、黒翼特務隊隊長のパシリに決まったらしいぞ」


「はあああああ?」


 私は、フェルナンドの上げた素っ頓狂な声に耳を塞いだ。


「ど、どういうことですかあああ? 総長おお!」


 珍しく声を荒らげてわなわなと震えるフェルナンドに私は口角を上げる。


 ……おっと、フェルナンドも我が子は可愛いか。

 ティアの護衛に付けたカイル・ケインズは、フェルナンドの三男だ。王国騎士団には入らず、私の所……ヴァルシード公爵家の騎士団に入った。聞いたところによると、私に師事したいと彼の父親で私の副官であるフェルナンドに頭を下げて頼み込んだらしい。カイルは、筋が良く瞬く間に我が騎士団でも最強クラスの騎士となった。

 ティアを任せても良いと思うくらいにはカイルは強い。しかし、その彼がここずっと遅れを取っている。実質ティアを守れていないのだ。カイルと共にティアに付けたユノーにしてもだ。まあ、それだけ手強かったという事なのだが。

 ティアが少しでも心穏やかに過ごせるようにと隣国へ送り出したのに、蓋を開けてみれば真逆の状況。


 そもそも、元を正せばアスラン殿下のせいではないのかと恨みがましく彼が未だ幽閉されている離宮の方角へと目をやる。


 アスラン殿下が『運命の番』と出会わなければ、ティアが婚約破棄されることがなければ、ティアがこの国から出なければ、ティアは異教徒に攫われることも、エンデ王国の王位継承争いに巻き込まれることも、聖王国の王族から目を付けられることも無かったのだろうか? それとも、これは、もとより起こるべくして起こったのか……。


「そ、総長、お願いですから説明してください! 一体カイルの身に何が?」


 つい、物思いにふけってしまった私にしびれを切らせたようなフェルナンドの声が耳に飛び込んできた。


「戦力強化訓練を兼ねた諜報任務に駆り出されるらしい」


「は? それがどうして黒翼特務隊隊長の……? うちの子は総長の騎士団所属ですよね?」


 腑に落ちないとフェルナンドのきょとんとした顔に、さもありなんと口を開いたその時、


「本人たっての希望ですよ。ケインズ副総長」


フェルナンドの背後の空間に魔法陣が現れ、相変わらず美しい容貌のアレク……アレクセイ・ホワイトナイトが降り立った。


 毎回神出鬼没なこの男。そのくせいつも妙にタイミングが良い。こちらとしては、当事者に説明を丸投げできるのだから都合が良いが。


「それはどういうことですか? ホワイトナイト黒翼特務隊隊長。そしていつもお願いしていますよね? きちんとドアから入室していただけませんか? と」


 どんなに動揺していても諌めることを怠らないフェルナンドは流石だ。


 そのフェルナンドに、アレクは楽しそうに目を細めた。場違いなほどの色香を漂わせて。


「ホワイトナイト黒翼特務隊隊長殿、」


 だが、フェルナンドは一切お構いなしだ。大真面目な顔でつかつかと歩み寄りアレクの前に立つ。


「ご説明を!」


 アレクは一層笑みを深くした。


「では、人払いを」





 そうして、

 私たちは、報告書には決して載せられない極秘事項を聞いたのだった。



 メアの襲撃だけでは終わらず、

 ティアと男神セレネ様との邂逅。

 セレネ様が女神ではなかったこと。

 ティアが男神セレネ様から祝福を賜ったこと。

 男神セレネ様によって女性が眠り続ける奇病の村へ誘われたこと。

 それが恐らくユランのむらであり、猶予があまりなさそうなこと。



 


 諸々を鑑みて……


「手がね、足りないのですよ」


 一通りの説明を終えた後、アレクはフェルナンドを見据えた。


「私がお仕えするのは尊くも清らかで愛らしい私の女神ティアだけです。ティアをお守りするためにカイルには少々任務を与えることにしたのですよ。カイルはヴァルシード公爵家の騎士ですからティアにお仕えする私の手となるのは当然でしょう?」


 ぶれないティア至上主義のアレクは、最早、国に仕えてる気はないらしい。


「そ、それが、メイヴェ王国黒翼特務隊隊長の言葉ですかああ!」


 フェルナンドの声が執務室に木霊した。






 読んでくださりありがとうございます(*´▽`)


 いいね、ブックマーク、評価をありがとうございます。


 執筆が遅めではありますが皆さまが楽しんでくださるよう頑張ります。

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