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愛する人は運命の番と出会ってしまったけど私は諦めきれないので足掻いてみようと思います。  作者: 紫水晶猫


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黒と白

 こんにちは。

 軽い戦闘シーンですが、戦闘シーンは苦手です。分かりづらかったらごめんなさい。


 嫌だ、嫌だ、嫌だ。


 私はメアの手から逃れようと身をよじらせた。


『ああ、とても良い表情です』


 メアの瞳がウットリ蕩ける。

 嫌悪に満ちた私の顔をメアは恍惚として見つめた。


 うぇぇ……

 変態だ。

 生理的に無理!

 私に近付かないで!

 

 メアが私に近付けば近付くほど、周囲の穢れの濃度が濃くなっていく。


 穢れた空気を吸い込みたくなくて更に呼吸が浅くなる。


 酸欠になっちゃいそう。頭が少しクラクラする。

 ああ、喉と気管が痛い。

 焼けるように痛い。

 それが刺激になって、「ゴホ、ゴホッ」と咳が出る。

 しかも、咳をするとメチャクチャ痛い。

 私は、「はぁ、はぁ」と浅い呼吸を繰り返しながら、メアから距離を取ろうと試みた。


『驚きました。逃げられるとでも思いましたか?』


 声と同時に、暗闇から細長いうねうねとした暗紫色に発光した触手がウジャっと現れ、一斉に私目掛けて飛び掛かってきた。

 ウジャウジャと触手が、私の足に腰に腕に巻き付いてくる。


 触手、触手……嫌ああ!


 捕まった恐怖よりも触手のうねうねとして滑り気のある感触に総毛立つ。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」


 身体に巻き付いた触手がギュッギュッとキツく締め上げてくる。


「つ……」


 穢れを帯びた触手からジワジワと私の身体に穢れが移り汚染されていく。

 

 何とかしないと……本当にヤバい。

 

 自分の身体が穢れていくのが気持ち悪くて、寒くもないのにブルブルと身体が震えて悪寒がとまらなくなる。


 こういうの、絶体絶命っていうのかな?


「つ、あ……」

 

 触手の締め付けが痛くて喘ぎそうになる。


「なんて甘美な表情! 身も心も高ぶりますね」


 メアは私をいたぶるように蹂躙して愉悦に浸りきった顔をしている。


 私を嫐るのがお気に召したらしい。


 舐めるようにこちらを見てくる爬虫類のような瞳に気持ち悪いのを通り越して腹が立つ。



「やれやれ、ティア! 結界はどうしたのですか?」


 突如、私を諌める呆れたような声がした。


 結界って……

 この状況で第一声がそれなの?


 ズパッ!と白い光が一閃して身体中に巻き付いていた触手が切れた。

 一気に身体が解放され軽くなる。

 弾みで崩れ落ちそうになる私を力強い腕が抱き止めた。


 うぐっ!


 しこたま顔を相手の胸にぶつけてしまったけれど、聞きなれた声に安堵して力が抜けてしまった。


 遅いよ? ホワイトナイト様!

 

 弱りきっただらしない顔でホワイトナイト様の顔を見上げれば、ホワイトナイト様は目尻を下げて困ったように微笑んだ。


「遅くなってすみません」


『何、勝手に私の領域に入って来ているのですか! あなた、誰ですか? 私の邪魔をするのは許しませんよ?』


 メアが、暗紫色のオーラをメラメラと立ち上らせて、こちらを憤怒の形相で睨んできた。


『聖女さまは我が君のものです。お前みたいなものが触れて良い方では無いのです!』


 怒り狂うメアから今まで以上に濃厚な穢れが噴き出してくる。


『コホッ、ゴホ、ゴホッ……』

 

 それを、呼吸と一緒に吸い込んでしまって私は咳き込んだ。

 

「ですから、ティア! 結界!」


 え?

 結界?

 結界いいい?

 結界が何? 何のことやらさっぱり?


 何故かぎょっとしたような表情のホワイトナイト様に私はポカンとした。

 ホワイトナイト様は暫し私を唖然と見つめて肩を落とした。


「……あれだけ訓練したのは何だったのか」


 ブツブツと何やら呟いてから、ホワイトナイト様は、気持ちを切り替えるように頭を振った。

 そして、


「お願いします!」

 

 ホワイトナイト様は、誰かに向かって声を張り上げると、私に手を翳した。すると、真っ白な光がパーッと弾け、私はキラキラ光る透明な膜に覆われた。

 

 ……と、


 ザンッ!


 突然、空を切る音がして、閃光が走った。


 なに?


『ぐっ!』


 メアの呻き声が聞こえた。


『……まだ他にも居たのか! 虫けらどもめ!』


 吼えるようなメアの声。

 間を置かず、暗紫色の稲光が走りドカン!と凄まじい音がした。


「攻撃も当てられないお前は虫けら以下だね? ……それにしても、ここは暗すぎる」


 私はビクッとする。


 大好きな人の声がした。

 でも違う。……似ているだけ。

 いつも聞く度にドキッとするけれど、これはディーン様の声だ。


「光を!」


 途端、暗かったこの空間が明るくなり、果たしてディーン様がいた。


「ティア、良く頑張ったね」


 ディーン様が私を見て優しく労る。


 ……ディーン様も助けに来てくれたんだ。

 ホワイトナイト様に加えてディーン様まで来てくれたなんて。

 ……きっともう大丈夫。嬉しくて涙がでそう。


 それに、私を囲っているキラキラと輝く膜の中は聖域のように空気が澄んでいて、私の身体に纏わりついている穢れがどんどん浄化されていくのがわかる。

 苦しかった呼吸も楽にできるようになった。

 ホワイトナイト様の魔法……すごい。


『私の領域に干渉してくるとは、あなた、何者ですか?』


 メアが、苛立ちを露にしてディーン様に言い募る。メアから暗紫色のオーラに交ざって炭のような黒い靄がユラユラと高く上がっていくのが見えた。


『光を灯したくらいで、私の領域で好き勝手できると思わないでくださいね』


 メアは射殺しそうな目で酷薄な表情を浮かべている。


「好き勝手ね? こういうことかな?」


 メアと対峙しているディーン様が不敵な笑みで、パチンと指を鳴らした。


 えっ?


 ピシッ! ピシピシピシピシピシッ……パリッ、パリン! 


 この閉ざされた空間に亀裂が走り、砕けて欠片になり崩れていく。その隙間を縫って光の粒子が渦を巻くように溢れ出し、空間を再構築していく。


 白い目を覆うほどの光。


『なんですか! これは! ぐぬぬぬぬぬぬ!』

 

 メアの顔が苦痛に歪んだ。

 メアの皮膚が火傷のように爛れ溶け落ちていく。


『私の領域を作り変えたのですか? こんなの神でもなければ……。いいえ、ありえません! ありえるはずがない!』


 忌々しげに言葉を吐く。


『……良いでしょう。今回は引きましょう』


 ギロリと冷酷な眼差しをメアはディーン様に向けた。


 そして、


『聖女様、次の逢瀬が楽しみです』


私の方を見て半分崩れ落ちた顔でメアは舌舐めずりするとニタリと嗤った。


 目を背けたくなるほどグロテスクな姿に足がガクガクと震える。

 サッと、ホワイトナイト様は私を背中に隠した。


「お前との逢瀬などない!」


 ディーン様が手を振り上げ、上空に大きな魔方陣が描かれる。


 ズドドーン!


 巨大な光の球体が落ちてきて、メアに直撃する。

 直撃間際、メアの身体か黒く染まり陽炎のように揺れて歪んだ気がした。



「逃げられましたね」


 ホワイトナイト様の言葉にディーン様は頷いた。


 ホワイトナイト様の言う通りメアは逃げたのだろう。

 メアのいた場所には何も無かった。


 

 

 読んでくださりありがとうございます(*´▽`)


 いいね、ブックマーク、評価をありがとうございます。とても励みになります。


 執筆が遅めではありますが皆さまが楽しんでくださるよう頑張ります。

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