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愛する人は運命の番と出会ってしまったけど私は諦めきれないので足掻いてみようと思います。  作者: 紫水晶猫


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猫ちゃんとホワイトナイト様


馬で森の中を駆ける。大きな木にまざって草むらや低木。たまに大きい岩があったりするから走りにくいのではと考えていたのだけど、どうってことはない。獣道より少し幅の広い小道が続いていた。


馬に乗ったのなんて初めてで……

多分、これでも速度を落として走らせてくれているのだと思うのだけど、揺れるし、それでも速いし、落ちたら死ぬし。顔を強ばらせながら、猫ちゃんをぎゅっと抱きしめて、落ちないように文字通り私を抱いてくれているホワイトナイト様に身をまかせていた。よく考えてみると、今更だけど、今日初めて知り合ったのに……命を預けられるこの信頼感って何?自分でもちょっと驚いている。

ああ、そうか。転移門を任されている人だから、お父様の信任を得ている人という認識が無意識にあって無条件に大丈夫だと思ったんだ。


なんやかや、猫ちゃんも助けてくれたし……。


私ってちょろい?


ん?


胸の辺りでモゾモゾと猫ちゃんが動いた。

少しぎゅっと力を入れすぎていたようだ。


苦しかったかな?


猫ちゃんを見ると、

バチッと目が合った。


え?


青みがかった鮮やかな緑色の瞳

あまりに綺麗なエメラルドグリーンに心を奪われる。


「ニャアー」


猫ちゃんが急に手足をバタつかせた。

ハッ!と我に返る。


あ! だめだめ!そんなに、動いたら落としちゃう!


「それ、その辺りに捨てていきますか?」


私の様子を見て取ったホワイトナイト様は、とても冷やかにさらりと酷い事を言った。


「フギッ! 」


猫ちゃんはブルブルと身体を震わせると毛を逆立てて私にしがみついた。


「うわっ! 」


力いっぱいしがみつくからバランスを崩しそうになる。


野生の生存本能? 生命の危機だったのわかったのかな? ホワイトナイト様が脅かすから、猫ちゃんが怯えている。


「私のティアーナ様に触れすぎです! 躾が必要ですね。」


追い討ちをかけられて、更に怯えた猫ちゃんは縮こまってしまった。


「ホワイトナイト様、猫ちゃんに意地悪しすぎです。 」


後ろを見上げて睨むと、彼はくつくつと笑った。


「当然のことを言ったまでです。」





木々の間をどんどん走り抜け、途切れ途切れに顔にさす木漏れ日の眩しさに慣れてきたころ、突然視界がひらけた。


馬の歩みが緩やかになる。


「着きましたよ。ほら、あそこに馬車があります。」


私は促された方をみて、ポカーンと目と口を大きく開けてしまった。


なんで? なんで?


馬車を守るように金糸の縫いとりのある黒いマントを纏った黒衣の騎士たちがいたのだ。


「まって! あれは、もしかしてメイヴェ王国黒翼騎士団では? どうしてここにいるの? 」


「少し違います。」


ホワイトナイト様は、秘密めかした笑みを浮かべた。


「黒翼騎士団でも特務隊のほうです。彼らは主に他国での任務についています。」


それって、精鋭部隊じゃないの!


魔導師で構成される黒翼騎士団。その中でも、魔法だけではなく剣術にもたけ、とてつもなく強いとされている騎士の集まりだ。メイヴェ王国黒翼騎士団特務隊という。


こんなとろで馬車を守っている意味がわからない!


「公爵様からの指示と私の意向でここにいます。

ティアーナ様がお乗りになる馬車ですからね、間違いがあっては困ります。」


お父様……職権乱用では?

過保護すぎませんか?親なんとかを思い浮かべたが慌てて振り払う。氷の鬼総長とも呼ばれているのにそんなはずないわよね。

ああ、でも何てことなの!

ホワイトナイトさまも意向って何?お父様を止めてください!


腕のなかの猫ちゃんがポンポンと私の腕を叩いた。


「ニャア~」


まるで『お気のどくに』と、憐れんでくれているようだ。


はあ、可愛い!


猫ちゃんの頭に額をこすり付けてスリスリする。

スリスリスリスリしてたのに、ホワイトナイト様に後ろから猫ちゃんを取り上げられてしまった。


「あっ!」


取り返そうと手をのばしたのに、それを避けていつの間にか近くにいたカイルに猫ちゃんをポンと投げた。


「邪魔だ。」


そう言って、ひらりと馬から降りたホワイトナイト様は、私を抱き上げ地面に降ろしてくれる。


「うわっ!」


カイルの腕の中で暴れて、猫ちゃんがピョーンと私の胸に飛び込んできた。


抱きとめると、猫ちゃんは嬉しそうにペロッと私の顎を舐めた。


瞬間、凍りつきそうなくらいに周囲の温度が下がる。


「始末するか。」


ホワイトナイト様がゾクッとするほど不機嫌そうな顔で呟いた。


猫ちゃんが怖がるからやめてあげて!





周囲を警戒しながら騎士の皆さんが、サリナたちの持っていた荷物を馬車に積み込んでくれたり、乗ってきた馬の世話をしてくれたりした。王国の精鋭たちにこんなことをやらせてしまって、本当に申しわけなくてしかたがない。


ホワイトナイト様が騎士のひとりと、少し鋭い顔で何やら話をしている。


何だろう?


気になって訝しげに見ていたが、カイルに声をかけられて気がそがれてしまった。


「ティアーナ様、馬車にお乗りください。」


カイルに促されて、私とサリナと猫ちゃんは馬車に乗りこんだ。


御者をユノーがすることになり、馬車の両脇についてホワイトナイト様とカイルが騎乗して護衛しながら行くみたい。


サリナと私は向かい合わせに座った。猫ちゃんは私の膝の上でまるくなっている。


馬車が動き出して、猫ちゃんは振動に驚いたのか、ちょっとだけ身じろぎしたが後は大人しくしている。


もうここが定位置よね。


「ふふふ。」


知らず知らずのうちに微笑んでしまう。


私は、手持ち無沙汰もあってずっと猫ちゃんをなでていた。



読んでくださりありがとうございますm(_ _)m

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