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プロローグ


『ティア、君は私の唯一、愛しているよ。』



そう言って私を見つめるアスラン様のアメジスト色の瞳が甘く蕩けた。



『つ、アスラン様……』



私もです!



耳まで真っ赤に染まってしまった私は思わずアスラン様の胸に押し付ける様にして顔を隠した。



『可愛い。ティア……』



アスラン様は私をぎゅっと抱き締た。



はうっ、アスラン様大好き!私も愛しています!



月に照らされて銀色に輝く髪が私の頬にかかる。

上目遣いにそっとアスラン様を見上げると、息をつくまもなく唇に柔らかいものが触れた。










ぐすっ。


また涙が出てくる。

思い出す度に泣ける。

これだけ泣けば身体中の水分は無くなっちゃうんじゃない?そろそろ干からびてもよさそうなのに。どれだけ水分を蓄えていたんだろう?この身体は。

私は、今日何度目かの溢れる涙を手で拭った。




私、ティアーナ・ヴァルシード16歳はヴァルシード公爵家の次女として生まれた。生まれてすぐに五歳年上のメィヴェ王国第一王子アスラン・フェリス・メィヴェリア様の婚約者となった。長女のシェルお姉様が公爵家を継ぐため次に女の子が生まれたら王家に嫁ぐことが古くからの約束で決まっていたのだ。

私は物心がついた時には綺麗で格好いいアスラン様が大好きになっていた。よく公爵家に遊びに来てくれたし、兄のように幼い私の相手をしてくれとても可愛がってくれた。だから、その頃の私は、『アスラン様大好き!』と息をするように彼に告げていた。しかし、成長してアスラン様に本気の恋をした私は恥ずかしくなってそれを告げられなくなってしまう。アスラン様を見るだけで胸がきゅっと締め付けられ苦しくて堪らなくなり、どうしたらいいのか自分でもわからなくなった。するとそんな私にアスラン様は『やっとだ、ティア。私と、大人の恋愛をしよう。』と初めて見せる欲の籠った瞳で私を見つめて抱きしめたのだ。それからは、アスラン様に翻弄される日々になった。恥ずかしがる私に触れ、キスをし、愛を囁く。私はアスラン様のしたたるような色気にあてられ、きゅんきゅんする心臓は壊れて死んでしまいそうで……いっそ死んでしまっても良いくらい幸せで、こんなに愛している人が生まれたときから婚約者とか奇跡で夢なら決して覚めないで欲しいと願った。



そうして思う。


信じられないぐらいの幸せや奇跡はなかったのだと。





『ティア、君との婚約は破棄したい。』



昨日の王宮で行われた夜会でのこと。

いつもならアスラン様が私をエスコートしてくれるはずなのに、急遽その日はお父様がエスコートをすることになった。そして国王様に呼ばれて行った先で、その隣に立っていたアスラン様からそう告げられた。


なぜ?どういうこと?何が?

わけがわからない。

突然の婚約破棄に頭が全く働かなかった。



『私は運命の番に廻り会ったのだ。』



しかも思いもよらないことをアスラン様が言った。



運命の番?

それは……



『おいで、マリエナ。』



アスラン様が手招きすると、彼の近衛騎士と共にピンク色のふわふわな髪と空色の瞳の可愛らしいご令嬢が現れた。私を見て目を細めると口角をあげてアスラン様にしなだれかかるように寄り添った。



『マリエナ・ユノルト男爵令嬢だ。私の愛する番。私の唯一だ。』



待って!

どういうこと?

彼女が愛する番?

さっきから、番?番って……何?

私を愛しているって言ったのに!

アスラン様!

私じゃない人を愛おしげに腕に抱く彼を見て深い悲しみが襲う。心臓が痛い。

胸が張り裂けそう!

痛いよ、苦しいよ、アスラン様!

どうして?

私のことは嫌いになっちゃったの?


涙が溢れて視界が曇る。

胸を締め付けられるような痛みに目眩がする。まるで悪い夢を見ているようだ。

私を見るアスラン様の冷淡な瞳にぞわりと背が震える。

これ迄1度も私はそんな瞳を向けられたことはなかった。私を怯えさせないように少しだけ熱の籠った蕩けるようなアメジスト色の瞳が脳裏に浮かぶ。アスラン様の愛おしげな眼差し。今は何処にもない。私はものすごく混乱し呼吸ができなくなる。

あまりの苦しさに目の前が暗くなり、ふらりと身体が傾いた。


あ、駄目、倒れる!


そう思った瞬間、誰かの腕が私の腰にかかり引き寄せられたような気がしたのを最後に意識を手放したのだった。








深くて沈みこむような意識の底。


『あれ?おかしくない?運命の番とかって出てきたかな?攻略対象間違ってない?第二王子じゃなかった?私って登場人物にいた?イベント?婚約破棄?変よね。たかだかゲームなのにどうしてこんなに悲しいのかな?どうして心臓が引きちぎれるように痛いのかな?』


肩まであるストレートな黒髪に黒い瞳の少女が暗い水面に仰向けでぷっかり浮いていた。

ずっとここで眠りについていたのに、何やら外部からの刺激で時折眠りが浅くなる。

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