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幹部の名はボエルッタ

『あれ、弄られてますね』


 俺が言った意味を、ミルカもイゼルダも理解してくれたみたいだ。


「確かに『粗暴な怪力男』ってだけでは無かったみたいですけど」

ああ(・・)なったのは……後からってこと?」


 俺達が尋問した『スネイル』の幹部。ジャケットの袖を破ったりして、外見こそワイルドだったが、あの男の発言には、知性が感じられた。単にアタマの回転が早いってだけではない、知的な人や文物、いわゆる文化的資産に触れて得たような類のそれだ。


 今どき古いかもしれないが――というか、こんな異世界で今どきも何も無いんじゃないかとも思うのだが――体育会系と文科系だったら、体育会系じゃなく、もともと文化系だった人間が、性格に合わない腕力を後から身に着けた。そんな気配が、あの男からは感じられた。それがどういうことかというと――俺は言った。


「実際に対峙したアドニスさんに訊くべきかと思いますが――あの男の戦い方には、自分の力を客観的に見た上で、それを制御すべく訓練した、そんな痕跡が感じられます。それともう1つ。実際に、私が斬った感触を言うと――硬かった」


「「硬い?」」


「人間の肉や骨とは、違う感触がありました。一番近いものを挙げるなら、オーガでしょうか。ご存知かもしれませんが、同じ魔物でも、ダンジョンの外と中にいるのとでは、強さに違いがあります。理由は、皮膚や筋肉の強靭さ。それが膂力に影響を及ぼしているのです。何故そんなことが起こるかというと――」


「魔素の結晶化?」と、ミルカが小首を傾げる。


「――その通りです。ダンジョンの魔物は、結晶化した魔素を体液に含んでいます。結晶化した魔素は粘度の低い液体です。しかし外部から衝撃が加わると、その瞬間だけ硬化して、衝撃に耐える。あの男を斬った感触には、それと同じものが感じられました」


 俺の推測は、王都に戻ってすぐ、確証を得ることとなった。


 ●


「確かに、喧嘩自慢の闘い方ではなかった」


 アドニスが言った。


「生まれついての力自慢、それにものを言わせてまかり通ってきた人間は、あんな闘い方はしない。そうだな。君が欲しいのは、こんな言葉なんじゃないか?――『奴は、喧嘩慣れしてなかった』。しかし、技術はあった。だから強かったんだが、その分やりやすかったとも言える。力任せに振り回してるように見えて、彼の拳技も戦略も、しっかりしたものだったよ。喧嘩に限らずおよそ闘争というものへの才能を持たずに生まれた人間が、必死に頭を使い、努力した。そういう痕跡が、見て取れたね。好きか嫌いかを問われれば、好感を隠す術は無い」


 やはり、あの男の強さは、後天的なものだったらしい。

 そしてもうひとつの確証が、警邏隊の取調室にあった。


 警邏隊というのは、警察みたいなものだ。今夜の騒動が王都の上の方でどう扱われてるのかは知らない。だがイゼルダは公爵夫人。それが全てだろう。警邏隊という公的機関の建物を、咎められることなく奥まで進み、偉そうなおじさんに案内され、イゼルダは取調室へと向かった。ウィルバーに護られ、俺の手を引いて。


 取調室に座らされてたのは、ほっそりとした青年だった。目を伏せた顔は、まぶたも長く、美しい。最初に話しかけたのは、イゼルダだった。


「あの男、なんていう名前だったの?」

 青年が答えた。

「ボエルッタです」

 イゼルダが言った。

「ボエルッタとは、いつからファックしてる?」


 咄嗟に俺は、偉そうなおじさんに目を遣っていた。おじさんは、まったく普通って感じの顔だった。王都の偉い人にとって、イゼルダがこういう口のきき方をするのも、ふんぞり返って足を組むのも、驚くべきことでは無いらしい。


「半年前――彼が、王都に現れてからです」


 答えた青年に、イゼルダが、更にふんぞり返って訊いた。


「あんたは、一晩いくらなわけ?」


「金貨、3枚です」


 青年は、男娼だった。

 アドニスが押し入った際、彼はポエルッタと共にベッドにいたのだった。



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