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幼女剣王KUSARI アイドルオタクの俺が殺伐最強美幼女に転生して異世界でアイドルグループを立ち上がるまで  作者: 王子ざくり


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新潟の思い出


だいたい、分かった。

分かったつもりだったが――


Whoだれが→俺たちが

Whenいつ→???

Whereどこで→???

Whatなにを→スネイルを潰す

Whyなぜ→悪だから

Howどのように→???


5W1Hだと、半分しか埋まっていない。


ちなみにPDCAサイクルだと――


Plan(計画)→スネイルに対処したい

Do(実行)→尖兵を斃してとりあえず様子見

Check(評価)→めっちゃ戦力増強してきた

Action(改善)→潰す


――うん、全部埋まった。


 俺は訊いた。


「作戦は、いつから始めますか?」

「これから」

「どういう風に?」

「見つけて潰す」

「どこから――」

「――ここからよ」


 最後だけ、ミルカが答えた。

 指さしたのは、テーブルに広げられた地図。

 その一点だ。


「じゃあ、行ってみましょうか。馬車が待たせてあるから」


 イゼルダに促され、俺たちはそこへと向かうこととなった。


「どうかした?」

「いえ……こんなだったかな、と」


 ここ一ヶ月ほどを、過ごした部屋。

 そこから外に出てみると、違和感しか無かった。


 確か来た時は――ああ、そうだった。


 馬車の中で目隠しされ、そのまま部屋の中に案内されたのだった。そういう趣向かということで、俺も『鎖』で周囲の情報を得たりといったことは、あえて行わなかった。というわけで、あの部屋に入った時の記憶は、単なる真っ暗闇でしかなかった。


 そしていま、部屋を出て振り向くと。


 そこにあるのは、巨大な犬小屋だった。ホームセンターで売ってるような木製の犬小屋が、高さ10メートルくらいに拡大されて、そこに置かれていた。


 窓やドアは無く、ただひとつ、丸い穴が空いてるだけだ。穴は小さく、幼児の俺でさえ、両肩を外しでもしない限り通れそうになかった。エスパー伊藤でも無理だろう。でもそれで良かった。穴は部屋にある転移の魔道具とつながり、身体の一部分を突っ込むだけで部屋に出入りさせてくれた。


「明日からは、あっちで寝てもらうからね」


 イゼルダが指差す方を見ると、闇の中、大きな屋敷がそびえていた。窓は少なく、玄関らしき扉もない。屋敷の裏側か。ということは、ここは裏庭で、進んだ先にあるあれは、裏門。


 裏門を出ると、塀の側に停められてた馬車に乗り込み、俺たちは出発した。


「うふふふ~。クサリちゃん?」

「なんでしょう?」

「なんでもない」


 って、そんなわけがない。イゼルダが何を言いたいかは、分かりすぎるほど分かった。なにしろ、俺自身のことなのだ。


 時刻は、日付を越えたばかり。

 真夜中と、いっていいだろうか?


 ダンジョンにしろ、王都についてからにしろ、生まれ変わってからの俺は、非常に規則正しい生活を送ってきたと言える。同じ時間に眠って、同じ時間に目を覚ます毎日。ダンジョンの探索も日帰りで、野営することはほとんど無かった。


 だから、非常に珍しいことなのだ。眠ってる途中で起こされて、どこかに出かけるなんてことは。


(まずい……ドキドキしてる。超アガってる)


 イゼルダに、分からないはずが無い。いまからかわれたのは、そのことでだった。知らず知らずのうちに、顔が熱くなっている。慌てて息を整え、強制的にバイタルを調整したがもう襲い。きっとミルカにも、気付かれてしまっただろう。あの顔は、絶対にそうだ。


 俺が、わくわくしてしまってるって。


 思い出すのは、前世。一時期、推しのアイドルを応援するため、東京から新潟まで通ってたことがあった。土曜の深夜1時、高速バスで池袋駅を出発。新潟駅に着くのは、朝6時。ネットカフェで仮眠後、別ルートで来たオタ仲間と合流。14時にライブ開始。16時終了。17時のバスで、東京へ。そして22時、池袋着。これを、ほぼ毎週繰り返していた。


 いまの俺は、走り出すバスの窓から流れてく池袋の景色を眺めてた、あの時みたいな気分だった。


 馬車が向かってるのは、さっきミルカが指さした、地図の一点。

 花街にある、娼館だ。

 屋敷からは、馬車で15分程の距離。


 そこに『スネイル』の拠点がある。


 突然だった。


「うにゅ~、むに~、はに~、あにゃ~」


 イゼルダが、変顔をし始めた。

 こういうのは、何か考えてる時のクセか、もしくは考え事してるのを示すポーズというのが定番だ。俺と目が合うのを待って、イゼルダが言った。


「クサリちゃんは、お手本を見てから説明された方が分かりやすいタイプ? それとも、説明されてから見た方が分かりやすいタイプ?」


「説明しながら、適宜、例示して頂けると有り難いです」


「ああ、そう……」


「……どちらかというと、お手本が先の方が」


「そう? そう? じゃあ、先に見せるわね」


 面倒くさいなあ……

 で、何を見せてくれるんだろう?


「はーい、これね。これ」


 イゼルダが、金貨を取り出すと、指でつついた。

 ずぼり。

 すると指が金貨を貫き、穴を開けた。


「………」


 俺でも、同じことは出来るだろう。指先に刺突のイメージを込めて、金貨を突けばいい。そうすれば、いまイゼルダがやったみたく、指は金貨を貫き、穴を開けるだろう。


 しかし、俺が言葉を失わざるを得なかったのは――


「で、何か感じた? 感じなかったわよね~」


――イゼルダの言う通り、そこに何も感じられなかったからだ。魔力や物理的作用を生じるほどの意志、あるいは超筋力。そういった類の力はいっさい感じられず、イゼルダの見た目通りの、華奢な成人女性が指先に込められる程度の極々小さな力しか、そこには無かった。


「同じことなのよ」


 イゼルダは言った。


「魔法もスキルも、この世界の仕組みを使って何かを成し遂げる、そのための方法という意味では、一緒なのよ……で、私たちのこれは『贈与物(ギフト)』と呼ばれている」


 言いながら、新たに取り出した金貨を、俺に持たせた。

 そして自分の手のひらに、銀貨をじゃらじゃらと乗せる。


「その金貨を、爪で擦って真っ二つにしようと思う。一体、何回擦ればいいかしら? 何日かかるかわからないし、それより先に爪が割れてしまうわよね? だったらまずは、魔術師を呼んで、爪を強化する必要がある。当然、お金がかかるわよね。食事もしなければならないし、金貨が真っ二つになるまでに、一体いくらかかるかしら――うん『銀貨7枚』」


 すると――イゼルダの手のひらから、銀貨が消えた。

 正確に、7枚。

 同時に――ぱかり。

 金貨が、真っ二つになった。


「目的を達成するために、必要な手順(ステップ)を割り出す。そのためにいくら必要か、金額を見積る。そしてその金額を払うのと同時に、それを行ったのと同じ結果だけ(・・)を実現する――『前払いでOKアドバンス・ペイメント』。これが、私の贈与物(ギフト)よ」


 えっ、それって俺に教えていいの?

 とりあえず、俺には頷くことしか出来なかった。




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