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幼女剣王KUSARI アイドルオタクの俺が殺伐最強美幼女に転生して異世界でアイドルグループを立ち上がるまで  作者: 王子ざくり


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ミノタウロスとは呼びたくない

 冒険者ギルドから帰宅し、翌朝、俺と爺さんは出発した。


 ダンジョンの、最奥へと。 


 根本的な疑問として、どうしてダンジョン最奥へと向かうのか?

 その意図は不明だ。


 俺はただ、爺さんに連いてくだけだった。


「行くぞ……」


 と言われたから行くだけなのだ。


 誰も行ったことのある奴がいないから、正確には分からない。だがギルドの(おこな)った試算では、ダンジョンの最奥に行くには、最短でも5ヶ月――半年近くかかるらしい。


 途中で基地を作って、物資を運び込み、人員を入れ替え、難所にアタックを繰り返し、また基地を作ってとやってたら、どうしてもそれくらいかかってしまうのだそうだ。


 一方、俺たちは2週間での到達を予定している。


 本当にそれで行けるかは分からないが、荷物から判断する限り、爺さんはそう考えてるようだった。最低限の工具と調理器具、武器のスペアを持ち、食料は基本的に現地調達。干し肉も持参してるが、あれは食料でなく爺さんのおやつだ。2週間という期間は、その干し肉の量から割り出した数字でもある。


 5ヶ月と2週間。


 こんなに差が出るのも、不思議じゃない。俺と爺さんは、自分たちの最大速度でダンジョンを踏破している。ギルドの試算みたいに、基地作りの資材を運ぶ人足や、彼らも含めた大人数の食事を賄うスタッフ。そのための食材と、更にそれを運ぶための人足といった大人数では、こうはいかないだろう。最も足の遅い人間にあわせて歩かざるを得ないからだ。


 戦闘だって、そうだ。


「ブヒぅっ!」

「ギャギャっ!」

「ズバビっ!」


 最速で駆けながら最速で切り倒してくなんて、大人数だったら、そんなの出来っこない。いちいち足を止め、点呼を取って、安全な陣形を作り、戦って、点呼をとって、怪我人がいないか確かめ、いたら手当をし、点呼を取って、また歩き出すなんて、どれだけ時間がかかるか分かったもんじゃない。


 爺さんが干し肉を食べたくなった時以外は足を止めず、体感で3時間も進んだ頃だった。


「……あれ」


 爺さんが指差した先に、岩があった。


 その陰にしゃがんでいるのは、牛頭の巨人。

 赤銅色の肌では、針金みたいな体毛が渦巻いている。


 ミノタウロス。


 この世界にギリシャ神話が伝わってる筈もないのだが、そう呼ばれてるんだから仕方ない。しかし、ドルオタもオタクの一種。俺もオタクの端くれだ。なんというか、そこらへんの整合性が気になるというか、それってどうなのよ?っていうか、素直にそう呼んでしまうのは、どうにも躊躇われるのだった。


 だからここでは単純に『巨人』と呼ばせてもらう。


 手持ち無沙汰気に地面の砂を弄ったりしてた巨人だが、俺たちに気付いて立ち上がった――と思ったらまた腰を曲げて、近くに転がしてた手斧を拾い上げる。


「あれ……おまえ……ヤれ」


 言われたときには疾走ってた。


「ブゴォオオオオオ!!」


 振り下ろされる手斧を避けながら、それを持つ手――コンビニで一番太い魚肉ソーセージみたいな指――に、木剣を叩きつける。巨人が固まる。その間に俺は奴の前腕に飛び乗り、今度は肘の内側を叩く。また固まる。次は上腕に足を引っ掛けながら鎖骨を。肩に飛び乗って耳を削ぎ落とし、最後は頭頂から後頭部にかけてを陥没させ――


「……………」


――声もなく倒壊する巨体から、俺は飛び降りた。


 膝から崩れ落ちながら、巨人はそのどこかで生物の柔軟さを失い、地面に叩きつけられたと同時、身体全体が乾いた土塊みたいにひび割れ、粉々になる。


 こうして戦いは終わり。

 再び駆け出す――その必要は、無かった。


 さっき、巨人が座ってたあたりだ。

 何もなかった地面に、みるみる凹凸(おうとつ)が生じ、扉が現れた。


 扉を開くと、階段。


 爺さんに続いて降りると、当然だが降りた先もダンジョン――俺たちは、ひとつ下の階層に降りたのだった。


 下の階層への階段は、フロアマスターが斃されるたび新たに現れる。それで元からある階段が消えたりなんてことはなく、単純に階段の数が増える。


 そして階段が現れた、ということは、さっきの巨人はフロアマスターだったということになる。道理で、多少は手応え――あったよな? 少なくとも、これまで遭った魔物よりずっと強かったのは確かだ。


 俺は物心付く前からダンジョンに棲んでるわけで、当然だが、かなり下の階層まで下ったことがある。しかし、フロアマスターと戦ったのはこれが初めてだった。


 何故、今回フロアマスターと戦うことになったのか――爺さんが戦わせたかは、なんとなくだが分かった。


 地下2階層ではヒドラ。

 地下3階層ではメデューサ。

 地下4階層ではサイクロプス。


 正にギリシャ神話のままなフロアマスターを斃しながら、30階層ほどを下った。

 そして、遂に最下層。


「お早いお着きでしたね……道中は、大変だったでしょう?」


 そこで俺たちを出迎えたのは、ほっそりした印象の美女だった。


 確かに言われた通り、ここまで来るのは、とても大変だった。俺としてはそんなに大変でもなかったが、普通に階層を下るのと比べたらという意味では、とても大変。


 なにしろ、いちいちフロアマスターを斃しながらの道中だったのだから。

 もちろん、その見返りはあった。


 困難を乗り越え手にしたそれは――圧倒的な、近道。


 俺たちが最下層(ここ)にたどり着くまでにかかったのは、わずか4日。

 2週間どころじゃ、なかったな。


 ところで――あんた、誰?



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