3.情報交換と話し合い (4)
ちょっとファンタジー色が出てきたかな?
はやく、主人公にもファンタジー的なことをやってほしいものです。一応、ハイファンタジーなので。
今回は、長めなので1話投稿です。
その言葉に、私たちは、思わず絶句した。
......なんか、寒気がするのは、気のせいだろうか......?
「ただね、一応、条件があるの」
「......なんですか?」
ちょっぴり、イヤな予感がするのも、気のせいだと思いたい......。
「ここ魔法界においては、私達きょうだいの妹......養子として、扱わせて欲しいの。そういう契約を、結ばせて欲しい。
......それに、ここでの身分が欲しいのでしょう? 悪い提案ではないと思うのですが」
「そっ、それは......」
“貴族”の表情となったアリアさんに気圧されたようで、咲良お姉ちゃんは返事をしようとして、言葉を詰まらせた。
その横で、クリスさんは、こう返事した。
「その提案、受け入れよう」
「......私も、アリアさんや、アルトさんが良いのなら......」
「クリス! 芹奈!」
慌てる咲良お姉ちゃん。
申し訳ないけど......。
「ごめん、咲良お姉ちゃん。
私は、アリアさんとアルトさんが良いのなら、良いと思ったんだ。
......私にとっては、アリアさんとアルトさんは命の恩人だし......」
「芹奈ちゃん......」
複雑な顔をして、咲良お姉ちゃんは、私を見て、クリスさんを見た。
......もしかして、『砦』的に、まずかったり......?
私が咲良お姉ちゃんに問いかけようとしたその時、咳払いが聞こえてきた。
「こほん。
では、双方とも、これで良いですよね?」
そう言ったのは、さっきから空気と化していた――よく考えたら申し訳ないよね――、王族側の一人、ニコラウスさんだった。
「「はい」」
アリアさんと私は目を合わせ、頷いた。
「では、少々お待ちください。
契約に必要なものを取ってきますので」
そう言って一度席を立ったニコラウスさんは、執務机から文箱を持って戻ってきた。
「では、契約書を作成する前に確認ですが、セリナ様、お名前はどうされますか?」
「え、芹奈じゃあダメなんですか?」
きょとんとする私に、クリスさんが言った。
「そりゃ、こっちでの名前を決めるに決まってるだろ。
そうしないと、こっちの人間の振りができなくなる」
「ええ......」
よく考えれば、その通りではあるんだけど!
万が一相手に名前がバレていたら、わざわざ身元偽装した意味がなくなってしまう。
ただ、とっさに反応できなさそうだよなぁ......。
どのくらい使うかわからないけど、慎重に考えた方がいいだろう。
うぅ、悩むなあ。
その様子を見ていたナイトが、ぽつりと言った。
「なあ、主。
我が宿るペンダントの石、主の友人はそれを『ラピスラズリ』と呼んでいただろう?」
「うん」
確かに言ってた。
てか、知ってるんだね......。
「ああ、主がそれを付けている時のことは、大抵知っていると思ってくれてよい。
それで、そこからとって、ラピス、で良いのではないか?」
「はい?」
ちょっと待って、そんな可愛らしい、っていうか、ラノベの登場人物のような名前、私名乗る勇気ないよ。
正直、少し恥ずかしいものがある。
「いいんじゃない?
芹奈ちゃん、青色、好きでしょ?」
「咲良お姉ちゃん、『ラピス』はラテン語で『石』だよ。
『青』、は『ラズリ』、アラビア語だけどね」
「ありゃ」
私も彼女に教えてもらうまで知らなかったけど。
「僕は、ここで使うには、しっくりくると思いますけどね」
「そうね、ウチも名前三文字だし、ぴったりだと思うわ。
それに、精霊に名付けて貰うって素敵じゃない!」
同意するクリスさんとアリアさん。
あ、これ、観念するしかないな。
ニコラウスさんが文箱から一枚の紙、インク壺と万年筆っぽいペンを取り出し、契約書を書いていく。
「では、これに署名を」
「は~い」
アリアさんが、ニコラウスさんが使ったペンとは違うペンと共に、紙を受け取った。文面を確認して、そのペンでさらさらと署名した後、私に渡してくる。
「え、でも、私ここの書き言葉知らない......、あれ?」
話す分には問題ないんだけどね、今だって特に問題ないし。
しかし、目を凝らすと、はっきりと頭の中に日本訳が浮かんで、魔法界にいる限り私をシュバルト家のアリアとアルトの妹として扱う、とすんなりと読めた。
この感覚、なんか気持ち悪いな。
でも、どうして読めるの? もしかしてありがちなチート能力?
「それはね、ご先祖様からの“祝福”よ。
この世界の文字は、私たちの脳内で日本語に翻訳されて見えるの。
普通の科学界の人には、そのままにしか見えないけど。
ちなみに、そのまま日本語で書こうと思えば、勝手にこっちでの言葉に翻訳して手が動くから安心してね」
後で知った話だが、普通の科学界の人でも、会話は通じるらしい。ファンタジーだね。
ナイスアシスト、咲良お姉ちゃん。
私もアリアさんの署名の下に、橘 芹奈、と記した。
おお、不思議な感覚だ。
私がまじまじと手と持ったペンと紙を見比べていると、紙がひとりでに浮き上がった。
「わわっ」
文字だけがコピーされ、本紙の方はゆっくりとテーブルに戻る。
文字の方は金色の鎖となり、私とアリアさん、そして、アルトさんにも飛んできた。
そして、私に向かって飛んできた鎖は、私の左手の小指に絡みつき、消えた。
「うわっ」
ねぇ、なんか巻き付いて消えたよ?!
思わず私は、ぶんぶんと手を振った。
「安心しろ、契約魔術の一環だ、主」
「こんな演出あるって聞いてない!」
慣れたら綺麗なイルミネーションとしか思えないのかもしれないが、私からすれば、かなり怖い。
「これはまだいい方だ。
中には心臓に絡みつくものもあるからな」
「何それ怖い」
上には上がいた。
うう、寒気がする。
私は二の腕をさすった。
その様子を微笑ましげに見ていた咲良お姉ちゃんだったが、急に、びくっと身体を跳ねさせた。そして、左耳に手を当て、俯く。
見ると、似たような反応をクリスさんもしている。
しばらくして、二人は同時に顔を上げて目を見合わせ、ため息をついた。
「すみません、本当はもうちょっと、芹奈たちを攫った犯人の話などしたかったのですが、ちょっと、戻らないといけなくなってしまって......」
「また後日、関係者のみで話をする機会を頂けないでしょうか?」
と、言った。
「ああ、明日でもいいぞ、同じ時間、ここで」
マティアスさんはそう返した。
......王族って忙しいんじゃないのかな、ヒマなのかな......?
ごめんなさい、なんでもないです。
「「ありがとうございます」」
二人は声を揃えて礼を言い、最後に、
「ちゃんと皆さんの言うことに耳を傾けるのよ。
あと、変装はしっかりしなさいね」
と帰っていったのだった。
いとこたちに難題を提示された挙句――自分の意志とは言え――置いていかれる主人公。大丈夫、解決策はすぐ横にいるよ。
ちなみに、そのいとこたち、本編では出ませんが、呼び戻された先で独断専行についてみっちり叱られます。
裏話ですが、もともと芹奈を迎えに行くのはあの子たちの担当ではなく、『砦』の人手が足りなかった為に代わりとして行っていました。問題起こさないでねと言ったのに、問題の種を蒔いてきたのだから、それはそう。しかし、それを利用するのが『砦』でもあります。ある意味、そうなることを見越してやっちゃったのがクリスです。始末書書こうね。
それでは、紺海碧でした。次は、8日に投稿します!