2.まほうのせかい(2)
今度はめちゃくちゃ長くなりました。
配分下手すぎては、自分......。
そして、今回も説明回です。無事に投稿できていますように......。
彼に促されて病室(推定)に戻った私は、ちょこんとベッドに座る。
彼は部屋の隅に置いてあった丸椅子を持って来て、私と向かい合うように置き、腰かけた。
私は、その様子をなんとなく眺めていた。
漆黒の短く切り揃えられた髪に、黒い瞳。
身長はそれほど高くなく、歳はたぶん私とそんなに変わらないだろう。
服装は濃いめの色をした灰色のローブにシャツとズボン、長めのブーツだ。
「さて、君とちょっと話したいんだけど、いいかな?
言いづらいことがあれば、言わなくていいから」
「あ、はい」
私は頷いた。
「おれの名前は、アルト、というんだ。
君は?」
「私は、芹奈、です。
私立桃華学園高等部、一年生です」
正確には、まだ入学式をしてないので、微妙なところ。
あ、そういえば入学式、出れなかったな。
惜しくない、といえばうそになるが、ほっとしてない、というのもまたうそになるだろう。
校長はともかく、理事長のお話とか、かったるいもん。
うちの校長先生のお話はシンプルで、非常に生徒受けが良い。
理事長は、まあ、生徒に「なんであいつ来てるの?」、とか、「長々と話してるの?」、とか失礼きわまりないことを言われているので、察してほしい。
「なるほど......」
「あの、先程といい、あのときといい、助けてくれて、ありがとうございます」
私は、ベッドから立ち上がって、深くお辞儀をした。
そう、あのとき空から落下していた私を受け止めてくれたのは、アルトさんだ。
「え......? あ、頭を上げて......」
私は頭を上げて、まっすぐにアルトさんを見た。
「どうして、おれだと?」
アルトさんは不思議そうに私を見る。
言ってないのに、ということだろう。
「え、だって、私が気を失う直前に聴いた声とアルトさんの声、そっくりですもん」
あっけらかんとした私の答えに、アルトさんは肩を落とした。
自慢じゃあないけど、私、耳はいい方だ。
どんなに声色が変わっていても、声の持ち主を当てることができる。
それを知ったアニ研――アニメ研究会のことだ――の子にさんざん声優当てクイズやらされたこともある。
結果は、売店でその子にお高いジュースをおごってもらえた、と言っておこう。
何回もゴチになりました。
ちなみに、その様子を見ていた友人から『歩く科捜研』というあだ名を付けられた。
私をトラブルコレクターみたいに言わないで欲しい。
「それは......、すごい特技だね」
「ありがとうございます」
「で、なんで空から落ちてきたか、訊いていいかな?」
「うっ」
どうしようかな、あいつのこと、話してもいいのだろうか。
でも、空から、ねえ。
既視感あるな、しかも原因が......。
やめとこ、恥ずかしくなるだけだ。
「えっと......。
学校にクラスメイトの子たちといて、足元に魔法陣みたいなものが急に現れて、気づいたらここに」
結局、大幅に省略した。
「いやあ、でも、気づいたらファンタジーな世界で、びっくりしました!
一緒にいた子もいないし、どうしたものか......」
嘘は言ってないよ。
すると、アルトさんは引きつった笑みを浮かべた。
「それは、なんというか、大変だったね......。
えっと、それと、『ファンタジー』って、どういうこと?」
「魔法の世界ってことです」
「......ねえ、おれ、ここが『魔法の世界』って君に言ってないと思うんだけど、なんでそう言えたの?」
「あ」
もしかして、この時点で知ってるとやばかったやつ?
私は、そっとアルトさんから顔を背けた。
「窓の景色見て、なんとなく......。
私の住む町とは全然違うし、本しか見ないような出来事が連続したし.......」
「そっか、なるほど.......。
確かに、そうだよね」
ま、いいや、変な質問してごめんね、と言いつつ、アルトさんは立ち上がった。
そして、少しためらうような仕草をした後、私にこう告げてきた。
「......、おれは、君がどうしてここに来たか無理に訊こうとは全く考えてないよ。そして、これからどうしたいか、君が決めるべきだと思う。君の想いは、誰にも変えられない。
だから、はっきりと言うんだよ、あのひとたちにも」
「はい?」
私は、首を傾げる。
「君も、おそらく、彼に会ったんだろう? 君から、強くその気配を感じる。
そして、それからここのことを教えてもらった......」
思わず私はのけぞった。
「貴方、エスパーかなにかですか?!」
「ただの魔術師だよ。
......、もう、隠れてないで出てきたらどうだ?
おれは、お前との約束を守ったし、彼女も悪いひとではないようだ。おれでよければ協力する、宝石の精霊殿」
そう、アルトさんは、言った。
間違いなく、私の胸元、首からかけられたペンダントに向かって言った。
え? なんで......。
「ああ、協力感謝する、我が主の命の恩人、闇の魔術師殿よ」
突然目の前に現れた自称精霊に思わず悲鳴をあげてしまった私は、悪くないと思う。
心臓に悪い登場の仕方をするな!
* * *
「ええっと、いろいろ訊きたいことがあるのですが......」
私は、頭を抱えた。
まずは何から訊けばいいのやら。
「まず、おれが君と出会ってからの話をした方がいいかな?」
「お願いします......」
アルトさんの話をざっくりまとめるとこうなる。
まず、この世界は『魔法界』で間違いなく、そして、ここはリースリア王国という王政の国らしい。
アルトさんは、王宮の中でも魔力を持つひとが集まっている『魔術塔』に勤める魔術師だ。
アルトさんが外に出ていた際に、空から落ちてきた私を助け、一緒にいた彼のお姉さん――今私がいる、学校の医務室のような役割を果たしている『治癒の塔』に勤める治癒師という、医師のような存在らしい――とともに保護。ここに運ばれたのだそうだ。
急患が入り、そしてとりあえず私の存在を公にもできないので、私のことを上(つまり王族、ちなみに連絡パイプを持つ王族が『砦』に連絡しているらしい)に報告しつつ、アルトさんが私が目覚めるまでそばにつくことになった。
その際、過去の経験から精霊の気配を感じ取り疑問に思ったところ、自称精霊が突如現れ私の状況を説明し、協力を依頼したのだそうだ。
「ねえ、何やってるの、あんた」
「別に小僧は悪いやつではない、それにここに残りたいのだろう?
そう宣言したではないか」
「だからって了承なく巻き込まないの!
アルトさん、なんか、ごめんなさい......」
がしっと精霊に向かってキックをかましながら謝罪する。
まったく、どうりでアルトさんも呑み込みが早すぎるって思った訳だ。私のごまかしも通じなかったし。
まぁ、私が逆の立場なら、こうもいかないだろう。
こんな怪しい話なんて信じられるかって思うよね、今朝の出来事がなければ。
「いや、いいけど......」
アルトさんはちらりと、上手く『弁慶の泣き所』に私の渾身の蹴りがヒットしてうずくまる自称精霊を、心配そうに見ながら返事した。
別に、空から落とされた恨みなんてこもってないもん。
「そうですか?」
「うん、巻き込まれ慣れてるから、こういうのに」
「今日で一番不穏なセリフ.......」
一体、どんな人生送ってきたんだろう......。
なんか、それだけで一つお話作れそうな気がするのは、気のせいだろうか。
「それよりも我が主、そろそろ『自称精霊』呼びはやめてくれぬか? 話も進まぬ」
「だって名前ないし」
うずくまった彼のセリフに、アルトさんは不思議そうに私たちを見比べた。
「あれ、てっきり契約してるものかと......」
「「まだです」」
ついさっき会ったばっかりだよ、私視点では。
えっと、契約には、名付けが必要なんだっけ。
「ああ」
急に名付けって言われてもなあ......。
ネーミングセンスないのに困る。
「あの、参考までに、アルトさんが知ってる精霊さんの名前、教えてもらってもいいですか?」
ここの常識はわからないし、なら、知っている人に訊くのがいいだろう。
そう思って、アルトさんに尋ねる。
「おれの後輩の精霊使いのパートナーに、ウィリーって名前の子がいたけど」
「へえ、なるほど」
人名っぽくていいのか。
じゃあ......。
「『夜』と『騎士』を掛け合わせて、ナイト、ってどう?」
そう、言ってみた。
それを聞いた彼は、「うむ」と考える素振りを見せた後、口を開いた。
「よかろう、我が名はナイト。
よろしく頼む」
と、握手を求めるように、手を伸ばしてきた。
そういえば、ナイトに、ちゃんと名乗ってない気がする。
名乗ってなくても、もうすでに名前、知ってそうだけどね......。
でも一応、言っておくか、なんか、その方がいい気がするし。
私もベッドから立ち上がって、手を伸ばす。
「私は、橘 芹奈。こちらこそ、よろしくね」
そして、握手を交わした。
その手から暖かい何かが身体中を駆け巡る。
これが、精霊との契約なんだ。
そっと、目を閉じた。
「精霊との契約、流石に初めて見た」
「ええ、私もね」
「うん......、えっ?」
ギャラリーたちの声を聞きつつ、自然と閉じていた目を開く。
なんか、ひとり、知らない声が混じってるな.......。
見ると、何故かびくびくしているアルトさんの隣に、面影がよく似た、黄色の長いストレートヘアーにオレンジ色の瞳をした女性が立っていた。
「ええっと、どちらさまでしょうか......?」
ひょっとしなくても、アルトさんのお姉さん?
「ええ、そうよ!」
と、ナイトを押しのけて抱き着いてきた。
うええ、距離、近っ!
「あ、あのう......」
「私はこの王宮の治癒師でシュバルト伯爵家が当主、アリア・シュバルト! よろしくね、お嬢さん!」
「わ、私は、橘 芹奈、姓が、橘、です。
こ、こちらこそよろしくお願いします、あの、お姉様?」
テンパりながら、何とか返事する。
するとアリアさんはきらきらと目を輝かせて、
「きゃー、かわいいっ、妹に欲しいわあ~」
と言った。
こちらは許容量を超えてパンクしそうである。
た、助けてぇ......。
「姉さんストップやりすぎだ。彼女が困ってる」
アルトさんが私の様子を見かねて、腕の中から助け出してくれた。
ありがとうアルトさん。
「あの、いつからいたんですか......?」
さりげなく距離を取った上にアルトさんを盾にしつつ、私は尋ねた。
そう、私は全く気づかなかった。
いつからこの部屋にいたんだろう......?
「そうねえ、アルトが、『おれは、君がどうしてここに来たか無理に訊こうとは......』って言っていたところからかしら」
「割と最初からじゃないですか!」
「あぁ、姉さん、気配を消すのがめちゃくちゃ上手いから......」
私とアルトさんは顔を見合わせ、頭を抱えたのだった。
裏話。
アリアは、かなり気配を隠すのが上手いです。弟は、この特技を存分に利用したいたずらを何度も受けていて、敏感になっていたはずですが、この時は気づけなかった。
あの三人の中で、気づいていたのはナイトだけです。ただ、気配を殺してはいるものの、害はないと判断して、あえて放置していました。教えてやれよ。
また、アルトが『ウィリー』という例を出してなければ、彼にはもっと酷い名前がついていたと思います。この『ウィリー』という名前、筆者の別作品を読んだ方なら、見覚えがあるのではないでしょうか。
そんな方へ。この名前、偶然被った、というオチではないです。
それでは、紺海碧でした。次回は、4日に更新予定です!