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15.わたさない

 2話連続投稿1話目です。

 連続投稿も、今日で最後になります。

 ......第2章や別作品の執筆の時間が取れそうで、少しほっとしました......。

 私は気を失ったものの、その気を失っていた時間は、そう長いものではなかったと思う。

 誰かに抱きしめられている感覚がする。

 その感覚は、どこか安心するものだった。

 遠くで誰かが口論しているのが聞こえ、私は、なんとか目を開ける。

 目に飛び込んで来たのは、森と、ここにいるはずのない人物の姿だった。


 「アルトさん......?」


 ()の声に、前方を睨んでいた彼は、はっとした様子で、私の顔を覗き込んだ。


 「ら、せ、セリナ......」


 「あの、もう大丈夫なので、降ろしてください」


 「あ、ああ......」


 そう言って、()は降ろしてもらう。

 少しふらついたものの、一人で立つことが、できた。

 前方を見ると、ダークグリーンのローブを、フードまですっぽりと被った人物が、いた。

 見るからにやばそうな人物だ。

 どうして、アルトさんがいるのか訊きたいところだけど、先にこっちだな。

 そう考えて身構えると、ローブが笑うように、ふっと揺れた。


 「そこまで警戒されなくても、良いですよ。

  私のことは、プラエドルとお呼びください、セリナ様」


 「えっ」


 ()()()()()()()を呼ばれ、私は目を丸くした。

 まさか、まさか、まさか。

 このローブが、あの手紙の、送り主?


 「お話を、致しましょう。

  ......貴女の、ペンダントについて」


 私は口に手を当てた。

 間違いなさそうだった。

 ぎゅっと目を瞑る。

 私は相手がどういう人間であれ、ナイトを、渡すつもりは一切ない。

 もう私は、ナイトの主なのだから。


 『......主』


 『絶対出てこないで、ナイト。

  私は、絶対誰にも、貴方を渡すつもりはないから』


 そう声に出さず伝え、私はペンダントを握り締めて、目を開いて、ローブを見据えた。


 「......話すことは、一切ないです。

  これは、私のものです」


 「それに、貴女にとって危険な力が込められていると言っても、ですか?」


 「危険なんかじゃあない! ナイトは......」


 「セリナ」


 ぽん、とアルトさんに肩を叩かれ、私ははっとした。

 まずい、私、余計な情報を......。


 「なるほど、契約済みなのですね......。

  ますます面白い」


 背中が、ぞわっとした。

 蛇に睨まれた蛙って、こういう時に使うものなんだろうか、と頭に浮かぶ。


 「ちょうどアルト様もいることですし......。

  一緒に来てもらいましょうか、お二人とも」


 そうローブが言ったと同時に、複数のツタが、私たちに迫ってきた。


 「くっ」


 アルトさんが私の前に出て、ツタを切り刻んで押しやろうとしたが、いつまでも持つはずはない。

 そう思うほど、ツタの勢いはすさまじかった。

 どうしよう......。

 アルトさんと背中合わせの体勢になり、悩む私に、ナイトが叫ぶ。


 『呼べ! 我らを!』


 「でもっ、そんなことしたら......!」


 私は、声に出さずに会話することも忘れ、叫んだ。


 『呼べ! 我が、何の為に存在していると思っている! 何の為に契約したと思っている! 何の為にあの方が加護を与えたと思っている!

  主たちを、助けるためだ! 主たちと関わりたい、何かあれば共にいたいと願ったからだ!

我らに、主らを、助けさせてくれ!』


 ぎゅっと目を瞑り、私は、決断して、叫んだ。

 空に向かって。

 今の()ができる、唯一で最善の手段だと、信じて。


 「助けて、私たちを。

  私たちに、力を貸して、ナイト、ドロシー!」


 「心得た」


 「もちろんじゃ」


 私の隣に、青髪の青年が。

 アルトさんの前に、金髪の少女が。

 私の声に答えて、現れた。


 「へぇ、そこまで敵対なさるのですねぇ」


 二人の姿を見て攻撃の手を止め、ローブが言った。

 ほぼ同時に、アルトさんが力尽きたように(くずお)れた。


 「だ、大丈夫ですか?!」


 「あ、ああ......」


 アルトさんの顔色は悪くて、とても言葉通りに受け取れなかった。

 おそらく、ここまでの状態になったのは、魔力面の問題だけではないだろう。

 なぜだか、そう思った。


 「貴女やご友人の方に対し、様々な失礼をしたとは、思っています。

  ただ......、彼のことをもかばうとは、思いませんでした」


 信用していない、と思っていたので。

 『砦』とは、そういうものでしょう?

 そう、言葉を続けられ、私は息を呑んだ。

 まさしく、その通り、だったから。

 だけど......。


 「うん、そうだね」


 「『セリナ』は、ここで信用できるのは、お姉ちゃんとナイトたちくらいだと思ってた」


 「ずっと、そばにいたから」


 「だけど......」


 私はローブから庇うようにアルトさんの前に立ち、じっと、ローブを見つめた。


 「()は、この一週間、ずっと、見てきたんだ、ここの人たちのことを。

  怖い人もいた、変な人もいた。

  だけど......、圧倒的に、良い人の方が、多かったんだ。

  危険を顧みず私を助けてくれた人もいたし、私のことを一切詮索せずに『私』として受け入れてくれた人もいた」


 すうっと息を吸い込む。


 「貴方は......、私たちのこと、人として、見てない。

  自分の、知識欲の対象としてしか、見てない。

  そう、感じたから」


 実を言うと、怖い。

 本能が、相手は強い、今の私では敵わない、と言っている。

 だけど、私は、はっきりと言わなくちゃいけない。

 けじめは、自分でつける。

 それが、どんなに大変であろうとも。

 そして、守らなくては。

 アルトさんを。


 「私は、貴方につかない、手を貸さない。

  誰ももう、連れて行かせない!」


 ローブが、ぐらりと動いた。

 私がただこう言っただけで諦めて引き下がってくれるとは、絶対に思えないけど。


 「貴方はナイトに興味があるみたいだけど、彼は私の精霊よ。

  渡さない、私も着いて行かない。

  ......諦めて」


 私の言葉を受け、ローブは、今度はゆらりと動いた。


 「......いいでしょう、そちらの援軍が来たようですし、一旦引き上げましょう」


 それと同時に、ローブの足元が、光った。


 「今度は遠回りな手段を用いず、直接会いに来ますね......、“黒氷の魔術師”に“青金の精霊姫”」


 「?!」


 その言葉と共に、ローブは光と共に消えた。

 ......厨二病なあだ名が聴こえたのは、気のせいにしたい。


 「なかなか、独特なものを持っておるようだのお......」


 「主、現実逃避は良くないぞ」


 「うっさい!」


 したくもなる。

 私は、アルトさんに向き直り、しゃがみ込んだ。

 顔は、青いままで、なんだか苦しそうだ。


 「あの、大丈夫ですか?

  あ、回復薬......」


 「ううん、それは、大丈夫......。

  ねえ」


 「なんですか?」


 「どうして、おれを、庇ったの?

  だって......、()は......」


 俯いて、言葉を紡ぐ彼に、私はどうしていいか、わからなくなった。

 ただ、こみ上げてきた衝動に突き動かされるがままに、手を取り、告げた。


 「守らなきゃ、って、思ったからです!

  確かに、私は、壁を作ってた......、寄りかかっていいのか、わからなかったから......」


 「......」


 アルトさんは、俯いたままだ。

 そりゃあそうだ、こんなの、急に言ったって、はいそうですかとなる訳がない。

 『私』は、それだけのことを、したのだから。


 「あの......」


 「うん」


 ただ、言えるとしたら。


 「助けに来てくれて、ありがとう......、“兄様”」


 そこまで言って、今度は恥ずかしさがこみあげてきて、私は、俯いた。

 しかも、ナイトとドロシーが、いたんだ......。

 そう内心悶えていると、ぽん、と頭を撫ぜられ、柔らかく抱きしめられた。


 「おれも......、ありがとう、セリナ」


 成り行きで、きょうだいを名乗ることになって、一緒にいるようになって。

 後から振り返ると、心を通わせたのは、この時が初めてだった。

 そして最初で最後とはならず、もっとずっと長く深い繋がりになることを、この時の私は、想像すらできなかったのだった。

 ひとまず、これでこの事件は解決です。

 しかし、根本的な問題は解決していないので、まだまだいろんな出来事に巻き込まれるでしょう。

 これで帰るかと思いきや、今回の事件に関して、芹奈がやらないといけないことは、まだあります。

 それでは、紺海碧でした。同時投稿されている第一章・最終話に続きます!

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