10.図書館に行こう!
2話連続投稿1話目です。
これが投稿されるであろう日の周辺が忙しいため、予約投稿をかけているのですが、何日も先のものをかけていると日付感覚が狂ってきます。
もし、次回予告で日付ミスしていたら、申し訳ありません。
という訳で、今、私は図書館へと来ています。
ちなみに司書さんからは一瞬、「誰この子」という目で見られました。
なので、カウンターには行きづらく、私はどんどんと棚の奥へ進んでしまった。
う~ん、新聞、探しに来たんだけどなあ。
後は、例の“デア・シャッテン魔術団”に繋がりそうな書籍か。
私が、まったくアルトさんたちの話を信じていない、という訳ではない。
だけど、あんまりにも情報が少なすぎるのだ。
私としては、本当かどうか......、バイアスが掛かっていないか、その判断のための手掛かりが、欲しかった。
話が通じなさそうなやばい奴、というのは決定だろうけどね?
最高にいらいらする手紙を思い出し、とりあえず私は立ち止まり、虚空の仮想敵へと何回もパンチを繰り返した。
......それにしても、ここ、どこだろう?
パンチを繰り返して我に返った脳の言葉に、はっと手を止めて、私はぐるりと周りを見渡した。
迷子なう、パート2。
検索機があれば良かったなあ......。
いや、恥を忍んで司書さんに訊けばよかったか。
でも、なんて言っていいか......。
腕を組み、う~ん、と唸っていると。
「邪魔だ、小僧」
「ひぇっ」
急に後ろから声を掛けられ、私はびっくりして飛び上がった。
えっ、誰?!
反射的に飛びずさりつつ振り向くと、黒いローブを纏った、薄い、というよりも、白っぽい水色の髪にダークグリーンの瞳をした男性が立っていた。
年齢はユリウス先生と同じくらい......かな、身長は高めだけど、体重も......もごもご。
でも、黒ローブって言うことは、この人、魔法塔の人、しかも、階級が先生並み、かな?
「ふん、お前、そのローブということは、魔法塔の者か......?
おい」
「ひっ」
ずんずんと近づいて来られ、私は小さく悲鳴を漏らしながら後ずさった。
ちょっと、いや、かなりホラーだ。
ほんと、さっきまでの勢い、帰ってきて!
「顔、見せてみろ」
そういや私、ローブのフード、被ってたんだった。
外れないよう手でぎゅっと握って固定しながら後ずさり続ける。
う、なんか、嫌な感じ......! 逃げたい、猛烈に逃げ出したい。
そう思っていると、どこかから、涼やかな、そして古風な話し方をする声が、聞こえた。
「困っているようじゃな。
助けて進ぜよう」
え、誰......?
ちらっと伺うと、彼には聞こえていないようだ。
「さあ、こっちへ来るのだ。
そう、後ろへ――」
「主。今は、あの方の言うとおりにしろ」
どこからか、ナイトの声も、聞こえた。
私は小さく頷いた。
踵を返し、背を向けて走り出す。
「おい、待て、餓鬼!」
私は、ナビゲーションに従い、必死に走る。
本棚の間を抜けて必死で走っていると、なにか、膜のようなものを潜り抜ける感触がした。
同時に目の前が眩しい光に覆われ、私は思わず立ち止まり、顔を両腕で庇った。
しばらくして、そろそろと目を開ける。
「えっ......」
目に飛び込んできたのは、本棚だった。
だけど、それは図書の塔のものではない。
あきらかに、デザインが違うのだ。
これも、“転移”なのかな......?
「その通りだ」
そう言いつつ私の隣に、ナイトが現れた。
「ナイト!
ナイトは、ここ、どこかわかるの?
さっきも、『あの方』なんて言ってたし......」
私は、ナイトに尋ねた。
さっきの言い方、なんとなく、あの声の主と知り合いのような感じがしたのだ。
「ああ、ここは......」
「お、来たか、異界の娘よ」
そんな声と共に、ナイトのセリフを遮ってひょこっと本棚の間から現れたのは、少女だった。
私と同じ年頃に見える、金のくるくるの髪に、青の瞳。水色と白色のチェック柄の膝丈ワンピースに、かわいらしいデザインのエプロン。
その姿はまるで......。
「ドロシー......」
某有名な童話の、主人公にそっくりだった。
「ほう」
にいっと、彼女は、私が思わずこぼした言葉を聞いて笑みをこぼした。
「其方、やはり、只者ではなかったか......。
なあ、其方は、その子の主なのだろう?」
「え? その子?」
首を傾げながら彼女の視線を追うと、ナイトにぶつかった。
やっぱ、ナイトの知り合いだったのか~。
ふむふむ。
私が一人で納得していると、彼女が、親しいものに対する態度で、ナイトに話しかけていた。
「のお、どのような名を、貰ったのじゃ?」
「ナイト、と」
「そうか」
その言葉に、彼女の、全ての想いが、籠められていた。
それを悟り、私はそっと目を伏せた。
「で、其方よ、ナイトの契約者よ」
「はいっ」
私が顔を上げると、じっと少女が私を覗き込んできた。
「名は、なんというんじゃ?」
「わ、私は......」
ちらっとナイトを伺うと、ナイトがこちらを見て、二つ、頷いた。
私は、少女に向き直り、名乗った。
「私は、橘 芹奈、です。
こちらでは、ラピス・シュバルト、と名乗っています」
「セリナ......、ラピス、か」
彼女は、私の名をゆっくりと口の中で転がし、そして、自らの名を、私に教えてくれた。
「丁寧な名乗りに感謝する。
我が名は、先にお主が看破したように、ドロシー、という。
......もう、昔、我が主に頂いたものだ」
其方が住む科学界の物語から取った、と言っておったの、とドロシーは、付け足した。
うん、私がここの世界の人じゃあないって即バレしてたね。
私、そんなに分かりやすい態度だったかなあ?
「いや、そうでもないぞ?
我が分かったのは、偶然と、我が、“精霊王”だからじゃ」
「せいれいおう?」
うわあ......、こういうキャラって、最後の方に出てくるサポートキャラか強敵っていうのがテンプレじゃない?
え、昨日、クリスさんが言ってたように、これからじゃんじゃん事件に巻き込まれる前振りですか?
「其方、精霊王にどのようなイメージを抱いておるのだ......。
我は、光の精霊王。
光を司る精霊の、頂点にして、取りまとめ役だ」
「ふええ~」
「まあ、光の者が何かしらやらかした時に前へ出て調停する、外れ役じゃ」
「自分で言ったー!」
自分で言っちゃったよ、この精霊。
「我は、本を読んでいたいだけなのじゃが、我が一番力が強いばかりに......」
「某本好き幼女さんと同じようなセリフはやめてください。
最悪ここで物語が終わっちゃう」
「光の王は変わらぬの......」
私たちは、生温かい目で、本と私設図書館への愛を語る本好き精霊王を眺めていたのだった。
それにしても、この今いる図書館、一応は図書の塔の内部にあり、ドロシーが入室を認めた者か、張り巡らされた結界を潜り抜けられる資格がある者だけが入れる、伝説の場所らしい。
さっきの人は入る資格も許可もないので、ここは安全、という訳だ。
好奇心で、今図書の塔にいる人で入室出来る人は誰? って訊いたら、「紫の髪の苦労人そうな魔術師」と返ってきた。司書さんでも入れる、という訳ではないらしい。ドロシーの基準って謎。
ちなみに、精霊ならばフリーパス。
なので、たまに迷い込んでしまう精霊もいるらしい。
ナイトも、そうしてドロシーと知り合ったんだって。
あと、ここに入る資格がある人も、迷子精霊よりは少ないが来てしまうケースもあるらしい。
そうした何人かの人の話が語り継がれるうち、“伝説の場所”が生まれたのだろうか。
私が安全に戻ることができるまで話そう、と切り出してくれたドロシーの解説を聞いていて、私はそう思った。
しばらくして、ドロシーが上方を見て、「おっ」と呟いた。
「あやつが退出したぞ」
あやつというのは、私に絡んできた、あの人のことである。
そう、ドロシーは、この王宮内なら、何が起こっているか全て把握することができるそうなのだ。
「やった、よかった......」
出て行ったということは、おそらく安全になったということだろう。
これで帰れる!
「そうじゃな」
「ほんっとうに、ありがとうございました!」
私はそう言って、ドロシーに向かって頭を下げた。
「礼には及ばぬよ。
さて、どうやら、其方を探す者も入室してきたようじゃな。
黒髪の少年じゃが......」
「あ、それ兄様です」
「それは兄上だな」
私とナイトのセリフがハモる。
怪しい人じゃあないよ。
「ならばよい。
では、最後に、ラピス」
「はい?」
ゆっくりとドロシーが、私に近づいてくる。
私はきょとんとしてそれを見ていた。
「助けが必要ならば、我を呼べ。
この世界にいる限り、馳せ参じようぞ」
「ありがとうございます......?」
「ふふっ、ナイトのパートナー、ラピスよ、幸あれ」
そう言って、ドロシーは、私の額に口づけした。
ふわぁ?!
目を白黒とさせている間に、私は、精霊の図書館から、図書の塔へと戻っていたのだった。
まあ、気が付くと、私は床に座り込んでぼーっとしている、見事な不審者になってた、っていうことなんだけどね。
私は悪くない、最後にあんなどっきり仕掛けてきたドロシーが悪い。
そう心の中で泣きつつ、私は立ち上がる。
さっき、ドロシーが兄様らしき人が来てる、って言ってたし、何とかして合流したいな。
そう思いつつ、私は本棚の隙間の通路に潜り込もうとして......。
「ふぎゃん」
出合い頭に、誰かにぶつかった。
私は力負けして、通路にしりもちをつく。
いったあ......。
「えっ、だ、大丈夫ですか?!」
私とぶつかった人が、慌てて私に声を掛ける。
私は、「大丈夫です......」と言いつつ、伸ばしてくれた手を取り立ち上がった。
「申し訳ありません......、お怪我はございませんか?」
「あ、はい、ないです」
そう、私は返答しつつ、相手を見た。
黒いローブ、ということは、この人も、魔法塔の人なんだろう。30代くらいの男の人で、髪は濃い紫、瞳は赤で、髪の色がドロシーの言っていた『該当者』と一致するな、と思った。
でも、この声、どっかで聴いたような......?
「本当に、申し訳ありません......。
俺は、魔法塔所属の、キース、といいます。
君は? 見たところ、君も魔法塔所属に見えるけど......」
「あ、はい、ラピス、です。
ユリウス先生の班です」
私も名乗り、ユリウスさんの名前を出してみる。
この人は、敵か味方か......。
身構えていると、キースさんはぱあっと顔を明るくさせた。
「そうなのか!
俺も、つい最近までユリウス班だったんだ。
この春、独立して班長を務めるようになったけど、ユリウス先生は、俺の最も尊敬する師匠、恩師なんだ」
敵どころか、師匠ラブが来た。
でも、危ない人じゃあなくて良かったかも。
ということは......、この人、兄様やキャシー先輩たちの、先輩なんだな。
「ところで、君は、一人で来たのか?」
「あ、えと......」
どう答えたらいいものか。
答えあぐねていると、
「あれ、キース先輩......、それに、ラピス?!
え、なんで二人が一緒に......」
タイミングよく合流してきたのは、兄様だった。
うん、なんか、ごめんなさい?
「ああ、アルト。
さっき、俺の不注意で、彼女を転ばせてしまったんだ。
だから、一緒にいるのは偶然、だけど......」
「あ、そうだったんですね。
それで、ラピスは?」
「あ、大丈夫ですよ?」
どこか怖い顔をする兄様の前まで近寄った私は、その場をくるりと回転して見せる。
「それよりも、変な人に絡まれかけて、そっちの方が怖かったです」
「どんな人?」
「白っぽい水色の髪にダークグリーンの目をした、ユリウス先生やキース先生と同じ色のローブを着た人です」
「「あー」」
兄様とキースさんが同時に声を上げ、遠い目をした。
心当たりがあるらしい。
その後、私は二人がかりで、その人に会ったら何が何でも逃げるように言い含められたのだった。
......私は、幼児か小学生ですか?
ちょっとBANされるのでは、となったエピソードです。リスペクト込めてます、BANしないでください。
実は、これを書いたのはずいぶん前なので、この時そういえばあの時期だったからちゃんと早めに出しとけばタイムリーだったのにな、と思うことが度々あります。あと、自分こんなこと書いてたっけ、とか。
それでは、紺海碧でした。同時投稿されている次話に続きます。