8.暴走 【アルト視点】 (2)
本日も、このお話が短めなので2話同時投稿です。
そろそろ別の連載や第2章の執筆をしなければならないのに、なかなかできない現実。
......特にあれを待ってる方、本当に申し訳ない......できれば今月中に出したいと思っているので、もう少しだけ待ってください...... (活動報告でやれ)。
「んん~」
ゆっくりと意識が浮上し、おれは目を開けた。
見慣れない天井......、いや、ここ......。
「うぇっ!」
おれは、慌てて飛び起きた。
おれが目覚めたのは、塔長の執務室、その応接セットのソファーの上。
なんでここに......、って、ああ、そうだった。
遅れて、気絶する直前の様子が蘇ってくる。
「ラピス......!」
そうだ、彼女はどうなった?
おれは立ち上がろうとし、しかし、ふらついてしまって再びソファーに座り直す結果となった。
「急に立ち上がっては駄目でしょう。
貴方、気を失う直前、何をやらかしたか分かっているのかしら?」
と、声を掛けられた。
そっと後ろを振り向くと、穏やかな表情をしているものの目だけを器用に三角にさせた塔長が、こちらを見ていた。
そして、なにやら作業をしながら欲しい情報をくれる。
「ラピスなら、ユリウスとミエコがあの部屋――マティの執務室で看ているわ」
そして、孫の面倒はおばあちゃんが看るのが一番でしょう、と続けた。
ちなみに、マティというのは、塔長のマティアス様への愛称である、念のため。
「ミエコって、ラピスの......、セリナの、祖母ですよね?」
親しい者に対しての言葉遣いに、おれは首を傾げた。
「ええ、そうよ。
私、彼女とは古馴染みですから」
あー、だからなんとなく雰囲気似てるって思ったのかな、と自己紹介の時に感じたことを思い出した。
類は友を呼ぶ、って言うしな。
「例えると、貴方とラピスの関係が一番近いわ」
と言いつつ、塔長はテーブルに、昨日も見かけたティーセットを運んできた。
薬草の独特な匂いが、鼻をかすめる。
体力や魔力を回復させる効果のある薬草の匂いだ。
どうやら、おれの為に淹れてくれたようだ。
というか、申し訳なさすぎる......。
「す、すみません......」
「貴方は治癒の塔に担ぎ込まれていないだけで、病人です。
回復が最優先です。
そして」
そう言って、彼女はどこからか闇袋制作キット――“闇袋”とは、闇属性だけが作れる、闇属性魔法を利用したマジックバックのことだ――と魔力回復薬を出してきた。
「さあ、それを飲んだら、ここにあるだけこれを作ってしまいなさい。
手当は出すし......、その魔力の状態で、あの子のところへ戻れないでしょう?」
あの子は、異常に貴方の状態に対して敏感ですから、と続けた。
この世界では、結婚すると、夫婦(夫夫、婦婦)間で魔力が混じり合うことが多い。
まあ、どうして混じり合うかは、ご想像にお任せするが。
今のおれの魔力の状態は、闇属性の体質で他者には分かりづらいがそれに近いと指摘され、思わず赤面した。
確かに、その状態ではフィンどころか、誰の前にも出れない。
混じり合っているかどうかは、おれでも魔法を行使してしまえば秒でバレるんだよなぁ......。あと、魔力測定器とか。
おれは黙って薬草茶を飲み干し、制作キットに手を伸ばしたのだった。
* * *
やっと塔長のお墨付きが出たおれは魔法塔を出発し、ラピスたちと合流しようと歩き出した。
ちなみに今、ラピスたちはあの場にいた全員(+ユリウス先生)が、マティアス様の執務室に残っているらしい。
ラピスも無事に目覚め、特におれの身に起こったような後遺症もないようで、ほっとした。
まあ、まったくないという訳ではないが、魔力制御の練習がてら少しばかり放出させれば大丈夫な程度のようだ。
そして、セリナの友人たちとおれの同窓生たちは、『砦』の面々と行動することになったらしい。
一方、セリナは引き続きラピスとして生活しつつ、『砦』の一員として行動することになった。
以上、ニコラウス様より。
おれがいない間に随分話が進んでしまったなぁ......。
まあ、おれは全力でサポートしますか。
道中特にトラブルもなく、おれはスムーズに集合場所に到着した。
おれが入室するや否や、小さなものが――おっと、失礼――が飛びついてきた。
見ると、ラピスだった。
瞳をうるうるさせて、なんだか子犬みたいだな、と思ってしまう。
「に、兄様、大丈夫ですか......?」
涙声で、どうやら酷く心配させてしまったらしい。
「ごめんなさい、私のせいで......」
そこまで言って、ラピスはじっとおれを見た。
「兄様、お婿に行けない体になったって......」
「ごはぁっ?!」
盛大にむせた。
うん、テンプレとしては、死んじゃうかと思ったって言われるとは思ったよ? だけど、なんでそっち? いや、この娘はそういうことを知らないはず。
と言うことは......。
おれは、室内の人物たちを見渡す。
さて、誰が彼女に偏った情報を与えたのだろうか。
そんなおれの横で、更にラピスがとどめを刺しに来た。
「あの、いざとなったら責任、取りますね?」
ちょっと首を傾げながら放たれたその台詞に、おれはとうとう立っていられなくなって撃沈したのだった。
“余計な事”を吹き込まれた芹奈に大ダメージを食らって、視点は芹奈に戻ります。
芹奈には、アルトが行った行為と意味については、まだ全ては説明されていません。これは、周囲の大人の判断です。その代わりに国王様が一部とセリフを教えました。ややこしくするな、これ出して怒られるのは筆者なんだ。
それでは、紺海碧でした。同時投稿されている次話に続きます。




