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8.暴走 【アルト視点】 (1)

 2話連続投稿2つ目です。間に合った......。

 今回は、再びのアルト視点です。

 そういえば、このお話が投稿される日は、ホワイトデーですね。筆者は、バレンタインに誰にも贈りも受け取りもしなかったので、特に何も起こることがない日となりそうです。

 ......そこ、笑うならついでにいいねして行って下さい。

 ラピスの――セリナの、同級生が、見つかった。

 ただし、半分だけ。

 このことをおれは、実はラピスが知る、少し前に仄めかされていた。

 誰からか、というと、ニコラウス様からだ。

 おれは、昨夜の出来事を誰に言うか悩んだ末、まずはニコラウス様に報告しようと彼の執務室を訪れた。

 朝早いタイミングだったからか、室内にいるのは、ニコラウス様のみだった。


 「おや、アルトではないですか。

  こんな朝から、どうされたんですか?」


 いつも通りの、丁寧な言葉遣いが、おれに向けられる。

 おれは一礼して、手紙を渡した。


 「これを、渡しに来ました。

  ......ユリウス先生には、まだ内密にした方が良いかと」


 彼は封蝋の模様を見て、眉間のしわを深くした。


 「ああ、彼絡みですか......。

  確かに、叔父上には内密の方がいいですねぇ......」


 叔父上は彼のことを自分の息子のように思っていますから、とニコラウス様が遠い目をする。

 数少ないものの被害は大きいユリウス先生の()()の後始末は、全て彼が行っている。

 おれも手伝わされたことがあるが、その時に、絶対にユリウス先生を敵に回さないようにしよう、と思ったものだ。

 報告書の宛先を考えたとき、ニコラウス様に渡そうと決めたのも、流石に厄介事を抱えた状態でブリザードを起こしてしまえば、キャパオーバーになると思ったからだったりする。

 それに、おれは、ユリウス先生と彼に纏わる事情をよく知らない。

 知っているのは、彼がもともと孤児だったこと、困窮していたところを助けたのがユリウス先生ということだけだ。

 おれたちは無言で頷き合い、ニコラウス様は手紙をポケットにしまった。


 「では、おれはこれで」


 そう言って、おれは立ち去ろうとすると、おれの背中に、こうニコラウス様が話しかけてきた。


 「ええ、そうでした。

  ひょっとすると、ラピスを朝礼後に呼び出すかもしれません」


 「はい、了解しました」


 おれは小走りに寮に戻りつつ、どうしてだろう、と考えていた。

 まさか、おれ自身の元同級生たちと再会することも、この事件にその元同級生が関わっていることも、奴らが関わっていることも、......そして、彼女が暴走することも。

このときおれはそのことを全く予想できていなかった。


   *   *   *


 「セリナ!」


 時は少し流れて。

 今、ラピス――セリナは、魔力暴走状態にある。

 暴走状態と言っても、本人の意識がはっきりしている場合と、完全に混乱している状態では、深刻度も対処法も全く異なってくる。

 この世界において魔力とは、血液に例えられることが多い。

 体内から生み出され、身体を循環し、古くなったり多くなりすぎたそれは体内に残したままだと悪いものとなる。

 だから定期的に身体の外へ出す、魔法や魔術として放出しなければならないが、かといって全て放出してしまうと逆に命が危なくなる。魔力の総量は人によって異なり伸ばすことは可能だが、体内に残しておくべき(デッドライン)量はその一~三割でこれはあまり変わることはない。ちなみにおれのデッドラインは三割過ぎで、これはデッドラインとしてはちょっと多く、おれと同じレベルの者との死闘では少し不利になる。

 さて、暴走状態にある本人が応答できるなら、こちらからガイドすることで自力で抑え込ませることが出来る。

 でも、反応出来なかったら......。

 こちらから無理にでも抑え込ませるしかない。

 方法は色々あるけど、今、おれが行えるとしたら......。

 目の端でテーブル周辺とおれとラピスの周りの二つの全体を覆う盾を形成するニコラウス様を見て、他の者たちを見る。

 セリナの同級生二人は怯えているかと思ったが、意外なことに、怯えているというより驚き、無言で涙を流すセリナを心配そうに見つめている。

 というか、少女の方は走り寄ろうとして、少年に取り押さえられている。

 『砦』の方はというと、家族間で丁々発止のやり取りを繰り広げていた。

 おれは、意を決して声を掛ける。

 おれが一番、おれの体質のことを考えると、彼女の救出に向いているのだ。

 そして今からやることは、流石に家族の目の前で無許可でやれることではない。


 「すみません......、緊急事態ですので」


 反応したのは、彼女の祖母だった。


 「ええ、芹奈を助けられるのは、貴方しかいませんし......。

  しかし」


 きゅっと、彼女の目が細められ、おれを射抜いた。


 「貴方はそれでいいのですか?

  この件、貴方が対処しても、全くメリットがありません。

  それに、一生、この子との関りが、関わったことが消えなくなるのですよ?」


 おれは小さく息を呑み、そして、目を見つめて、言い切った。


 「それでも構いません。

  おれは、彼女を見捨てるという判断はできない。

  ......お願いです、おれに、関わらせてください」


 それに、塔長から()()を受け取った時点で、もう覚悟は出来ている。


 「......分かりました。

  こちらこそ、どうか、あの子を、助けてください」


 ゆっくりと周りを見渡した彼女は、そう言い、おれに頭を下げた。


 「......はい、必ず」


 ちらっと、おれにバッジを渡した人はこうなることを予測していたのだろうか、という考えが、頭を掠めた。

 ゆっくりとそれを頭を振って払い、おれは、セリナに向き合った。

 ギャラリーがいるので出てくることを控えたのだろうが、状況はきちんと把握しているようで、どこからか「主を頼んだぞ、兄上よ」とあの精霊の声が聴こえてきた。

 誰がお前の兄だ。

 気を取り直して、さっと状況を改めて確認する。

 おれたちの周囲は彼女の魔法で吹雪き、凍っていて、このままでは、盾ももたなくなるのも、そう先のことではないだろう。

 急がないと、被害がここにいる人物、そしてこの外にまで広がってしまう。

 それくらい彼女の力は大きいし、何より、この状況に至る最後のきっかけを作ったのは、おれだ。

 だから。


 「ごめんね」


 そう呟いて、おれはまず彼女の首に、手刀を当てた。

 残念ながら、おれはこういったことには明るい方なのだ。

 それが、この場では役に立った。

 そっと、気を失って倒れてきた彼女を、受け止める。

 今の彼女の状態は、一時的に底上げされてしまった、並々とお湯が溜まり過ぎて溢れ出てしまった浴槽だ。

 昨日、塔長がセリナの体から万が一魔力が溢れそうになった場合の為、腕輪を取り付けたが、それは浴槽から伸びた蛇口に過ぎない。蛇口の出口はペアとなった腕輪――おれの左腕にはめられた二つ目のそれに繋がっている。更にそこから、もし滞在が長引けばセリナが使う、かもしれない魔術具へとリンクしている。

 しかし、リンク先の許容量をオーバーしてしまえば壊れてしまう為、おれはとっさに魔力の行き先をおれの体内へと変更した。


 「ぐっ......」


 今のところ、腕輪は正常に動き、魔力はおれに流れ込んでいる。

 けれど、もし腕輪からだけでは、追いつかなかったら......、あまり気の進まない方法を取るしかない。

 まあ、これはおれが、他人からのどの属性の魔力でも、比較的抵抗なく受け入れられる闇属性であるからできることだ。

 ――せめて、縁ぎりぎりまで減らさないと......!

 この事故は、セリナが魔力操作が全く出来ないことが大きいと思う。

 だから、ある程度減らしてしまえば......。

 しかし、それは甘い予測だった。


 「......だめか......」


 いくら闇属性でも、他人の魔力を引き受けるのは、つらい。

 けど今は、そんなこと言っている場合ではないのだ。

 腕輪からだけでは、彼女を助けることができない。

 このままでは、引き出すスピードが追い付かず最悪の事態まで行ってしまう。

 そう判断したおれは、最終手段を取ることにした。


 「ほんとにごめん......!」


 起きた時にどのように言われてもいい。

 でもこれは、必要なことだから。

 そう言って、おれは彼女に口づけた。

 魔力の移動は、体が触れていればできる。

 そして、最も効率のいい移動法が、粘膜接触なのだ。

 ......あまり気が進まなかった理由でもある。

 おれは、もう大丈夫だろうと思ったところまで彼女の魔力を受け止めきり、そっと唇を離し、体を支えなおした。

 しかし、おれの方も限界で、ふらついてしまう。

 今度は、引き受けた分、おれが魔力溢れ出しそう......。

 その時、執務室のドアが開いた。

 同時に盾が解除される。

 そしておれは、ドアの外から駆け付けた人物に体を支えられた。


 「ああ、もう、無茶をして......!」


 恐る恐る伺うと、にこりとした表情なものの目は一切笑っていないユリウス先生が、おれを覗き込んでいた。

 ちなみに、セリナは手際よく塔長に回収されている。

 あー、これはしこたま叱られるやつだ、と思いつつ、おれも意識を手放したのだった。

 作中にアルトが行った行為は、普通の人にはできません。やったら最悪死にます。それを承知した上で行うパターンが、この世界では全くないわけではなく、少なからずあります。

 彼の体質があったからこそ、このような救命措置を行えましたが、普通は魔力を吸い取る用の魔導具を使います。けれど、魔力持ちの子供がいる家庭にしかないことが多く、そうじゃない時にこの方法が用いられるのです。

 あと、あれに関しては、純粋に人工呼吸と一緒です。彼と、特に筆者にやましい気持ちがあったわけではありません。未成年相手に、やましい気持ちがあっての行為は、さすがにさせませんししないので。展開上どうしても外せない限り。

 それでは、紺海碧でした。次は、15日に投稿します!

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