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7.再会1/2 (2)

 2話連続投稿2話目です。

 王宮内、特に王族がいる場所はセキュリティ万全。話し合いには、なかなかにもってこいな場所です。

 王宮の王の執務室をそんな風に使っていいのかはさておき。

 この場にいるのは、私を除けば、リースリア王国から兄様、マティアスさん、ニコラウスさん(姉様はお仕事の為欠席である)。『砦』からは、咲良お姉ちゃん、クリスさん、そしておばあちゃん。それから、村上さん、石川君、二人の付き添いと思しき男性が二人。

 まずは全員で自己紹介をして、そして私から、今までのざっくりとした話を昨日いなかった五人に向けてした。

 その次に二人から話を聞いた。

 まず、二人の付き添いの正体は、私たちを事件に巻き込んだ犯人でもある、『白夜研究団』に所属する魔術師だ。ちなみに、白夜研究団とは私立(というか民間)の研究所で、そこ自体は違法性のある研究団体ではなく、今回の事件はこの二人(の好奇心)が暴走した結果らしい。

 ......つまり、私たちは、二人の若者の実験に巻き込まれたのだ。


 「その点については、申し訳ありませんでした......」


 しょぼんと項垂れたのは、くすんだ長い白髪を後ろで結び水色の瞳をした、ストラさんだ。

 二人は、研究所の資料の中から、たまたま見つけた本に書いてあった魔法陣の性能を確かめようとしていたらしい。

 ただこの本、事件後判明したが、通常なら記録に残っているはずの、いつ誰の手によって研究所に入ったという情報が一切分からない、出所不明の本だった。

 あと、二人の魔力は平均をちょっと上回る程度で、まさか発動はしても“成功”するとは思わなかったらしい。

 そして、科学界から人間を五人も連れてきてしまうとも。


 「ばかだろ」


 テーブルに出された本をぱらぱらと流し読みつつ、兄様が言った。


 「お前には言われたくねぇよ、アルト」


 ぼそっと呟いた兄様のセリフに反応したのは、ダークグリーンの髪にストラさんと同じ水色の瞳をした、ヤートさんだ。


 「お知り合いなんですか?」


 「「「元同級生」」」


 「あっ、なるほど」


 同じくらいの年齢なら、知り合いでも全くおかしくないね、うん。

 私が納得してふんふん頷いていると、兄様がゆっくりと二人に告げた。


 「お前ら、これ読み解いたんだろ」


 「う、うん、でも僕らの魔力のこともあったし、ま、魔法界と関わりのある()()って指定があったから、まさか、()()()()()()()()()とは、思わなくて......」


 おどおどと答えたストラさんのセリフを聞いた兄様は、爆発した。

 どうやら、何かしらの逆鱗に触れてしまったらしい。


 「出所不明ってだけで怪しいのに、そんな確証もなしに実験に移るなんて、何考えてるんだ!

  『学園』で≪転移≫の危険性、散々習っただろ?!」


 「出所不明だと分からなかったんだよ!

  分かってたら、見つけた時点で報告してる!!」


 「ひぅ」


 兄様の言葉に反応したのは、ヤートさんだ。

 二人のあまりの剣幕に、私はびくっとしてしまった。

 兄様は一つ息をついて、続けた。


「あんな、たぶん、この魔法陣の発動が成功したのは、ら......、セリナのおかげだ」


 「は? どういうことだ、それ」


 噛みつくように、ヤートさんが兄様に問う。


 「それは......」


 兄様は口ごもり、私と咲良お姉ちゃん、おばあちゃんを見比べた。

 どうやら、私の正体に触れることなので、どこまで話していいか分からないらしい。


 「芹奈は、私の実の孫ですよ。

  彼女は、魔力持ちなのです」


 おばあちゃんが、ゆっくりとそう告げた。

 それを聞いたストラさんとヤートさんの顔から、さっと血の気が引いたのが、私からも分かった。

 兄様の言わんとすることを察したらしい。


 「たぶん......、起動させることは、成功したんだと思う。

  だけど、五人の人間を一度に≪転移≫させることは、出来なかった。

  その分の負担が、セリナに行ったんだ」


 そう言って、兄様はこちらを見た。


 「これもおれの予想になるけれど、セリナが昨日ほとんどを眠って過ごすことになったのも、魔力が枯渇一歩手前まで行っていて、回復させるためだったんじゃあないかな」


 そうすればいろんなところで辻褄が合うし、と言った。


 「......それって、芹奈ちゃん、体、大丈夫なの?」


 不安そうに村上さんが言うので、私は頷いた。


 「たぶん......。私も、そんなことになってるとは、全く分からなかったし」


 それを聞いた兄様は、ゆっくりと首を振った。


 「いや、かなり命に関わる事態だよ。

  魔力持ちにとって魔力とは血液と同じ。体から全て失われてしまうと、最悪、死んでしまうんだ」


 「「「ひっ」」」


 何それ?!

 思わず、私は二の腕を擦る。

 うう、鳥肌が立ったぁ......。


 「最悪、芹奈は死んでしまっていたか、五人揃って『狭間』に落ちて救助不可能になっていたのか......」


 「「「ひぇっ」」」


 クリスさんの呟きに、また私たちの悲鳴が重なった。

 青いを通り過ぎて白い顔になるストラさんとヤートさん。

 あと、地味にクリスさん、私のこと呼び捨てなのね。


 「まあ、これは後で大人同士で話し合いましょう」


 にこり、と笑っておばあちゃんが言った。


 「話を続けて、ゆっくりでいいですから」


 「「はいっ」」


 事情を赤堀さんがこってり彼らを絞るようにして訊き出した四人は、とりあえず、白夜研究団に滞在することに同意し、消えた私を探そうとしたらしいが、手掛かりはゼロで、どうしようもない。

 夜になって、白夜研究団のリーダーさんは『学園』の学園長さんと連絡を取ることに成功し、そこから『砦』に連絡が行ったらしい。

 そして、『砦』の咲良お姉ちゃんたちまで情報が行ったのが、夜中。ちょうど、私がようやく眠りについたころだったようだ。

 ......それにしても、よくそんなところにパイプがあったな。

 さて、これで私を回収して合流させれば一件落着、と思いきや、事態はすんなり進まない。

 同じ頃、眠れなかった四人はこっそり研究所の庭に出て、そこへ黒ずくめの襲撃者が現れて襲い、赤堀さんと宮沢君を攫ったのだ。

 彼らは四人全員を攫おうとしていたようだが、四人が抵抗したこと、事態に気付いたストラさんたちが救出に入ったことで、村上さんたちは助かることができた。

 そして、『砦』から駆け付けた咲良お姉ちゃんたちが来て、残った二人だけでも、とここに来たそうだ。


 「あいつら、ぜったい、許せない」


 「おう」


 ぎゅっと、震える手を握り締める二人。

 目の前で大切な友人を攫われたのだ、だけど、泣き叫ぶんじゃあなくて、そんなセリフを言うなんて。


 「......私のせいだよね」


 思わず、私は口にした。

 そう、あのとき、私の近くにいたから......。


 「ううん、芹奈ちゃんは悪くない!

  それを言うなら、みどりのせいだよ。みどりが、あのとき、外へ行こうなんて言ったから!」


 そう言って、みどりちゃんは、ぼろぼろと涙をこぼした。

 私は、彼女をぎゅっと抱きしめた。


 「お前らのせいじゃ、ないよ。悪いのは、あいつらなんだ」


 石川君がギリギリと歯を食いしばって言う。


 「......案外、あの本の出所って、あいつらだったりして」


 「「あっ」」


 ストラさんとヤートさんは、顔を見合わせた。

 どうやら、あり得ない話でもないらしい。

 ......そんな簡単に不法侵入できちゃう研究所って、大丈夫なのかな?

 そう思いつつ、私はぎゅっと抱きしめていた村上さんから少し距離を取り、向き合った。


 「ねえ、今、私はね、ここに残って捜索のお手伝いをさせて欲しいって、頼んで、ここにいるんだ。

ここにいれば、犯人さんはきっと、私に接触するんじゃあないかって思うから。

  ......みどりちゃんは、どうしたい?」


 村上さん――みどりちゃんは、私を見て、びっくりしたように目を丸くした。

 そして、ちょっと考えた後、おもむろに立ち上がり、頭を下げた。


 「あのっ、ここで働かせて下さいっ、何でもしますから!」


 某アニメ映画かよ、と思わず突っ込みそうになったが、なんとかこらえた。

 雰囲気ぶち壊しになっちゃう。

 石川君も立ち上がり、頭を下げる。


 「お、俺も。

  ここで、あいつら残して帰れないから。

  だから、お願いします!」


 つまり二人は、こちらに残る、と決めたのだ。

 私は、おばあちゃん、咲良お姉ちゃん、クリスさんをじっと見た。


 「ねえ、おばあちゃん、この事件、きっと、私も引き金を引いた一人なんだ」


 引き金を最初に引いたのは、あの本の本当の持ち主。続いたのは、ストラさんとヤートさん。そして、私。

 『魔法界の関わりのあるもの』。

 それが、ナイトの宿るペンダントだとしたら。

 いや、たぶんそうだ。

 もし、私がペンダント(ナイト)を身に着けずに残して行くという選択をしていたら、ここまで大事にならなかった。

 きっと、ペンダントだけが、召喚されていただろう。

 けど、それはそれでナイトを手放すことになってしまっていたか。それはちょっとダメかもしれない、うん。


 「自分のけじめは自分でつける。

  後悔は、したくないんだ」


 私は、おばあちゃんと静かに見つめ合った。

 時が、止まったようだった。

 ただ、どくどくと心臓の音が、うるさい。

 にこり、とおばあちゃんが笑った。


 「あなたたちの心意気、しかと受け止めました。

  じゃあ、あなたたちに、これを渡さないと」


 と、おばあちゃんは、『砦』の一員である証よ、私たちにバッチを渡してきた。

 手のひらにすっぽりと収まるサイズで、紫色に、二人のは銀色で、私のは金色で杖と試験管が後者が上になるようにクロスしてかたどられている。裏向けると、私の名前――橘 芹奈 の方だ――が彫られているのが分かった。


 「ほら、貴方にも」


 とおばあちゃんは何故か兄様にも紫銀のバッチを渡していた。

 兄様はそれを裏向けて、驚きの声を上げた。


 「確かに、おれの名前......。

  一体、どうしてですか?」


 「さあ? それを貴方に渡すと決めたのは、私ではなく、担当の者ですから。

  分かりませんが、きっと、必要になるでしょうね、貴方にとって」


 そう、優しい口調で、おばあちゃんは言った。

 そして、バッジをじっと見つめた後に、こう兄様は返事をした。


 「......わかりました、ありがとうございます」


 私がその様子を見ていると、小さな声でみどりちゃんが話しかけてきた。


 「これ、みどりと芹奈ちゃんとは、色、違うんだね」


 「うん」


 「それはね、紫銀色は協力者、紫金色は見習いを意味してるのよ。

  私も最初は芹奈ちゃんと一緒だったわ」


 ちなみに地の色は日本式虹の色から来てて、上にいくほど偉い人ってことよ、と言ったのは、咲良お姉ちゃんだ。


 「ということは......」


 「さあ、これからは作戦会議の時間です。

  貴方方も、巻き込ませて頂きます」


 「拒否権はないと思うんだな」


 と、おばあちゃんとクリスさんが、ストラさんとヤートさんを見て、そう言った。

 後始末は自分でしろ、という副音声が聞こえた気がしたが、たぶん間違いではないだろう。

 私たちのお願い、拒否されないで良かったぁ。

 ほっと肩を撫でおろす私の隣では、みどりちゃんと石川君がガッツポーズをしていたのだった。

 お給料がいいのは魔法塔、国に縛られたくなければ『学園』、そのどちらにもいたくないけど一人でいるのがいやなら民間の研究所、そしてそれら以外の就職先といったように、必要な教育を終えた後の進路は様々。どこもいいところと悪いところがあります。

 これからは、事件が起こった“原因”への対処と攫われたクラスメイトを救出するために、関わった全員で取り組むことになる、はず。

 それでは、紺海碧でした。次は14日に投稿します!

 

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