1.夢の中で
筆者、体調良好につき、初投稿日ボーナスに成功しました。
という訳で、ざっくりとした、前提条件の説明回です。
私が目覚めるとそこは、ふわふわとした白い世界だった。
いや、目覚めるという表現はおかしいか、ここは夢なのだろうし。
でないと、私の顔を至近距離で覗き込む、鮮やかな青色のミディアムショートの髪に黄色の瞳をした、イケメンの説明がつかないだろう。
それとも死後の世界とか?
「ドチラサマデショウカ」
思わず動きそうになった体を抑えつつ、私は質問した。
反射的にビンタないしは蹴りを入れそうになって、なんとか思いとどまった私を、誰か褒めてほしい。
「そこまで警戒しなくてもよい。
別にやつらと違って、我は、我が主に危害は加えぬ」
「待って今のセリフ情報過多すぎるんですが」
自分でもかなりメタ的な発言をしているとは思うが、状況を整理させて欲しい。
何気に一人称“我”っていう人初めて会ったよ。
「まずここはどこで貴方は誰ですか?」
「簡潔に答えると、ここは貴女の夢の中で、我は貴女が持つペンダントに宿る精霊だ」
私はあまりに斜め上の答えにフリーズした。
再起動しています......。
完了しました。
なんてね......。
いや、ひとりでぼけてる場合じゃない。
「はあ、なるほど」
「納得したのか?!」
「え、だって、あの状況考えたらおかしくないかもだし、なにより......」
と、私はペンダントを引き出し、つまんで見せた。
「これが普通じゃあないってことは、うすうす感づいてましたから」
そう、こんな高価そうなもの、文化祭のバザーで売っているはずがないのだ、普通。
私も彼女も、不思議に思っていたが、だからといって『真相』を探ろうとはしなかった。いや、できなかったのだ。
私たちの手には、その謎解きは手に余ったから。
というより、好意で見せてもらえたバザーの商品の管理表には、いくら調べても、“青い石のついたペンダント”が出品された記録がなかったのだ。
まるで、私たちより早く来た誰かが、ご丁寧に値札までつけて置いたかのようで。
ほぼ遊び感覚で調べていた私たちは、そこで行き詰まり、そのままうやむやになってしまった。
だからこそ、なにかファンタジー的な要因でファンタジーなものが紛れ込み、私の手元に来た、というのなら、辻褄が合いそうではないか、と思ったのだ。
「分かっているなら話が早いが......」
ここにいれる時間は短いし、手短に説明するぞ、と彼は地面(?)に三つの円を三角形を描くように描いた。
えっ、いや待って、まだ訊きたいことが......。
「我は貴女のものだ。
目覚めたとき、また会えるので、その時だ」
「その言い方なんかイヤなんですが!」
やめてここは全年齢サイド。
叱られるのはやだよ。
「まあ、正式な契約はまだだからな」
「『契約』って何ですか?!」
「それは後で必要とあらば説明する。
今は貴女に決断してもらうための状況説明を優先したい。
いいな」
と、彼は有無を言わせぬペースで説明を始めた。
「まず、信じられないだろうが、今、貴女がいるのは貴女がいた世界とは違う。
貴女がいたのは、科学が発達した世界、『科学界』だ」
と彼は一つの円を指した。
「ふんふん」
「そして今いるのは科学の代わりに魔法が発達した世界、『魔法界』だ」
と、二つ目の円を指す。
「魔法?!」
すごい、ファンタジー確定だ!
いや、はしゃいでる場合じゃあない。
ということは、私は、私たちは“違う世界に移動してしまった”ということなんだ......。
「そして二つの世界の住人が死後に行く世界が『霊界』だ」
「天国はあったんですね......」
「その考えでいい」
と、トライアングルの中心に、彼は小さな円を描いた。
「科学界と魔法界は――科学界では存在ごと伏せられているが――行き来が可能で、霊界への移動も含めて、それを管理するのが『砦』だ」
「あ、あれだ、入国管理局みたいな」
「まあな」
ん? ということは......。
「今起こっているのは、異世界トリップは異世界トリップでも、帰るのは可能な異世界トリップ、ていうことですか?」
「ご名答。
ちなみに行き来の仕方は『砦』が認めた『門』を使うか、自然に出来た二つの世界を繋ぐ割れ目だな」
貴女方の場合は誰かが作った人為的な割れ目によるものだ、と彼は続けた。
「わ~」
なんて反応したらいいんだ、これ。
「あれはおそらく、なんらかの事情で貴女、もしくは貴女のような存在を狙ったものだろう」
魔法陣をはっきりと見たとは言えないので、確定ではないが、と付け足す。
私には、心当たりはない、けれど......。
「じゃあ......」
私の顔から、血の気が引いていく。
あの四人は......。
「ああ、彼らは巻き込まれたのだ。
我はあの場所は危険だと判断して貴女を転送した。
しかし、彼らまで手は回らなかった」
「そんな......」
ちょっと待て。
「あのフリーフォールはお前のせいか!」
「向こうでは魔法の行使はできないので、久しぶりに使ったせいで誤っただけなのだ、申し訳ない」
謝って許されることではないような。
でも、これ以上はやめとこう、命は助かったようではあるし。
たぶんね。
まぁ、許すとは言ってない。
「じゃあ、赤堀さんや村上さんたちは、あそこにいるってわけだ......」
私はぎゅっと唇を嚙んだ。
私があの子たちといたから、巻き込んでしまったんだ......。
なんでロックオンされたかはわかんないけど。
「上手く『砦』の者と合流できれば、貴女は帰還できるだろうが......。
そこで問う。
貴女は、どうしたい?」
『砦』の人と合流するのは確定。でないと、私がなんかの罪に問われることになってしまう、らしいから。だけど、その後。
何もかもを忘れて『砦』に放り投げた上で四人を置いて学校に戻るか、『砦』の人を説得して魔法界に置いてもらって捜索を手伝うか。
正直、現実感はまったくない。
だけど。
私は。
授業が心配だし、それほど親しくないし、帰っちゃっていいんじゃない? どうせ足手まといだし。
小さく声が聞こえる。
同時に、『一緒にお昼ご飯を食べよう!』、『仲良くしたいんです』、『行きましょうか、五人で』、と言ってくれた言葉が浮かんだ。
私は首を振る。
だめだ、私は、あの子たちを置いて行くわけにはいかない。
なんでかは分からないけど、あの子たちは、私と関わって、私を助けようとして、巻き込まれたのだ。
私が、やらなきゃ。
そう決断した私は、ぱっと立ち上がり、彼に向かって頭を下げた。
「私は、あの子たちと約束をしたんです。一緒にご飯を食べるって。
それに、私が巻き込んだのに、私が先に帰ることはできない、一緒に帰りたい。
お願いします、私に、協力してください!」
そう、これは、私の、自己満足だ。
あの子たちが今日、なんで話しかけてくれた本当の理由は、知らない。
もしかしたら、彼女の頼みなのかも。もしくは、本当の理由なんてなくて、ただ私のことを知りたいって思ってくれてるだけなのかも。
それでも、私は、話しかけてくれて、すごく、嬉しかったのだ。
だから、私も助ける。
これが、私の決断、本心だ。
すると、ふふっと彼が笑みをこぼした。
「頭をあげなさい......、勿論、協力しよう。
我が主の望みのままに」
「あ、ありがとう......!」
私はぱあっと笑みを浮かべてお礼を言った。
そのとき、がらがらと世界が崩れ始めた。
比喩ではなく、本当に。
「え......?」
「目覚めの時だ」
「早すぎるよ!」
まだまだ訊き......、聞きたいことがあるのに!
「仕方がない、その時は周りの者に聞くか、我を呼べ」
「いや、呼ぼうにも、貴方の名前、聞いてない!」
白い靄がかかり始め、もう、彼の姿をはっきりと視認することができない。
「名前はまだない」
「どこぞの文豪の猫か!」
「貴女が我にふさわしい名付けをするのだ」
「はい?」
とうとう視界が柔らかな白い光に包まれた。
「期待しておるぞ、我が主」
そう、はっきりと聴こえたのを最後に、私の意識は、ゆっくりと、でも確実に、夢の中から覚醒へと向かう。
こうして、私の異世界探訪記が、幕を開けたのだった。
世界観の説明をどうしようか悩んだ結果、彼に出張してもらうことにした、というどうでもいい裏話。
ちなみに、筆者の他作品を読んでくださった方なら、見覚えがある単語があったと思います。
最初の時に説明をつけ忘れたので、ここで述べますが、筆者の作品は、基本的に同じ世界観の元成り立っています。特に、現在更新が止まっている『絶望少女』とは、主人公たちの住む場所が違うだけで、時間軸も一緒です。もしかしたら、遠くない未来で、ひょっこり現れるかもしれないですね。
そして、筆者の初投稿短編『またね』の主人公が、この作品の主人公・芹奈です。このシリーズは、あの作品の、ちょっと未来の話なのです。
ちなみに、この作品の構想があったからこそ、あの短編が生まれました。前日譚とも言えるので、一緒に読んでくださると、さらに楽しめるかもしれません。
それでは、紺海碧でした。次回は、日付変わって3日にお会いしましょう!