6.はじめまして
2話連続投稿二つ目です。
今の更新頻度を維持するのは三月中が限界なのですが、それまでにこの第一部を終わらせられるかのチキンレースになっています。
流石に、今月が過ぎた後に向けての、他作品も含めた執筆もやらないとな、と思っているので。
いい加減更新しないといけない作品もあるし......。
新しい朝が来た。
こほん、リースリアに来て、初めての朝です。
私は、昨日、キャシー先輩が気を利かせて魔法で洗ってくれたシャツ、ベスト、そしてスカートを身に着け、彼女と打ち合わせ通り合流した。
あ、ちなみにブレザーとリボンはクローゼットに保管しているよ。
ほんとはねー、制服みたいなのあったんだけど、大きかったんだな、サイズが。
どうせ私はチビですよぅ......。
まあ、基本、制服を着用するかは個人の自由なので、これでも問題ないだろう。
ローブ着ちゃえば服隠れてしまうしね。
時刻は、午前七時。
これから、朝食を食べて、八時半の班ごとの朝礼に合わせて魔法塔へ移動するのだ。
あ、言い忘れてたけど、魔法塔ってラボとか研究所みたいな感じで、班ごとに部屋が割り当てられてるんだって。
内装としては、大まかに四つに分かれていて、会議や朝礼、個人のデスクがある“ミーティングルーム”、機密に当たる内容や少し離れたところにある訓練場まで行くようなものではない実験を行う“実験室”、行った実験を分析したりできる“解析室”、そして着替えを行う“更衣室”、といった感じだ。
デスクなんかはかなりそれぞれ個性が発揮されているらしい。
あー、ひとによっては雪崩れてるってことですね。
私は学校の職員室を思い起こしつつ、キャシー先輩と一緒に食堂へと向かう。
扉の前で、フィン先輩と、妙に疲れた様子の兄様と合流した。
「よ、お疲れのようだね、ひょっとして......」
「残念ですが、先輩の期待してるようなことは起こりませんでしたよ」
と、じゃれ合う先輩たちの隣で、私は兄様に話しかけた。
「兄様、どうかされたんですか?」
「ううん、大丈夫だよ」
兄様は、いつもと変わらない笑顔を浮かべた。
......本当にそうかな?
そうこうして、私たちは、ベーコンエッグにパン、スープという、いかにも洋風な朝食を取っていると、同じく朝食の乗ったトレーを持った二人組が近づいてきた。
私は、手にパンを持ったまま、じっと近づいてくる二人を観察した。
二人とも女の人のようで、一人は長い赤髪をツインテールにして黄緑の瞳をしており、もう一人は私と似た青色の髪を後ろで三つ編みにして灰色の瞳をした人だ。着ているローブの色は、キャシー先輩と一緒。
この人たちも、もしかして......。
「お、スーにルチル、おはよー」
気づいたキャシー先輩は、ひらひらと手を振った。
すると、スーと呼ばれたツインテール先輩は、空いている場所にトレーを置き、容赦なく拳骨を落とした。
「~~~!」
声にならない悲鳴をあげ、うずくまるキャシー先輩。
「『先輩』を付けろ、と何度言えば分かる、キャシー?」
あ、やっぱ先輩で間違いなかったですかー。
私が固まっていると、兄様が声を掛けてきた。
「ラピス、今キャシー先輩に拳骨を落としたのが、スー先輩、もう一人の先輩がルチル先輩だよ。
先輩、この娘はおれの妹の、ラピス、です」
「あ、アルトとキャシーが面倒を見ることになった娘ですね?」
「はい」
反応したのは、ルチル先輩だった。
「初めまして、ルチルです。
あの二人はああなると放っておくのが一番なので、気にせず食べてちゃってください」
「あ、はい......」
私はルチル先輩に向かって頷いた。
「る、ルチルぅ......」
涙目で助けを求めるキャシー先輩。
一方、スー先輩は、私をじっと見つめた。
私、なんかおかしいことした?
「えっとー」
「なあ、君ってもしかして、昨日の夜、派手な悲鳴あげてた娘?
『お化けだー!』って」
「ふぇ?」
私は目を丸くした。
「な、なんでそれを......」
「だって、あのとき私、廊下にいたからね」
うわあ、恥ずかしい……!
思わず机に突っ伏した。
そんな私に更に追撃を仕掛けるスー先輩。
「ねえ、その『お化け』って、どんな感じだった?」
このひと、ひょっとして、怪談好きか!
そんな私たちに割って入ったのは、ルチル先輩だった。
「やめなさい、スー。困らせちゃってるでしょう。
“お兄様”にお仕置きされても知らないわよ」
ルチル先輩は、兄様を見やりつつ、そう言った。
心なしかひんやりとしたオーラを纏った兄様を見たスー先輩は、ひくっと顔を引きつらせ、
「あ、ははは、うん、時間ないし、さっさとご飯食べようかな......」
と食事に手を伸ばした。
私も、朝食へと戻る。
個性的な人いっぱいで、楽しいそうな職場だな、と思いながら。
「苦っ」
「それ、ライ麦パンだからね......」
* * *
せっかくなので、とその場にいた全員で研究室へと向かう。
まあ、「案内係するよ~」とは言われたんだけど、私、ずっと揉みくちゃになってた。
私のこと、一体、いくつだと思ってるんだろうね?
ちなみに、ユリウス班があるのは、四階の一番奥だ。
ずっと歩いて移動したけど、この王宮の敷地、すごく広い。
うちの学校も、かなり広いと思ってたけど、流石、国の中心。
あ、でも、リースリア王国って、この世界では小国に分類されるらしい。周りの国々は王政や共和国とかだけど、どこも大きな国なので、余計小さく感じるらしいのだ。付け足すと、このリースリア王国は小さいが故に、がっちがちの王政という訳ではなく、そこに直接民主主義が入り込んだような政治形態らしい。
この詳しい話は、まあ、また今度。
「おはよーございまーす!」
先頭を歩いていたキャシー先輩が、元気の良い挨拶と共に、研究室の扉を開けた。
「「おはよー!」」
「おう、おはよう」
「おはようございます」
真っ先に挨拶したのは、昨夜に会った、モニカ&リリス先輩コンビ。
もう二人は、男性の凸凹コンビだった。
背の低い方は、キャシー先輩たちと同じ色のローブを纏い、短いピンクの髪にオレンジ色の瞳をした、いかにも頭脳派な人。
もう一人は、ユリウスさんとキャシー先輩たちの間の色合いをしたローブを着て、深紅の色をした髪を後ろで結び、黄色い瞳をした、ガタイの良い人。この人は右目を眼帯で覆っていて、その体格も相まって、永遠の子供の国に住むあの海賊を思わせた。
この人、文系そうな魔術師もしくは魔法使いより、魔法騎士とかが似合うんじゃない? 果たしてこの国に、魔法騎士という職業があるかは知らないけど。
「お、ひょっとして、お前が新入りの、アルトの妹か?」
フッ〇船長がピンク先輩と近づいてきて、私の前にしゃがみ込んだ。
......これでも私より目線上なんだよ? どれだけ体格に恵まれてるのよ。
くそう、周りも(兄様を除いて)日本の平均身長超えてるし、何食べたらそうなるのよ。
......食べ物じゃあないか。
「は、はい、そうです」
私はこくりと頷いた。
「そうか、俺は、ヴィオ、という。
こっちは、ラルド。俺の同期で、相棒だ。
よろしくな」
「初めまして、ラルド、です。
よろしくお願いしますね」
「はっ、はい! こちらこそ......」
私は求められるがままに、握手を交わす。
すると、背後でドアが開いた。
入ってきたのは、ユリウスさんだ。
「お、もう顔合わせが済んだのか」
私はその口調に、ぽかん、としてしまった。
ニコラウスさんみたいなキャラだと思ってた。
え、もしかして、こっちが地?
「いや、おれもよくわかんないんだよね......」
「マティアスさんとニコラウスさんが程よく混ざった感じなんですかね?」
そう、私たちがこそこそ言い合っていると、ユリウスさんが話しかけてきた。
「そこ、こそこそと話しない。
アルト、お前は彼女に余計なことを吹き込むな。
ラピスは、私のことは『班長』でいいが、せめて人前では、あいつらのこと、『様』付けにしてやってくれ」
「「すみませんでしたぁ!」」
私たちは同時に謝罪の言葉を口にする。
それを見たユリウス班のチームメイトたちは、吹き出した。
そして、それはすぐに私や兄様にも宣伝し、しばらく笑い合っていたのだった。
......私、ここの人たちに出会えてよかった。
良い方向に自分が変われるきっかけを、ここでなら得られる。
そう、思ったのだった。
* * *
「――では、今朝の連絡事項はこれまで。
各自、自分の仕事に取りかかってくれ」
「「「「「はい!」」」」」
兄様と私を除いた先輩たちは、それぞれユリウス班長のデスクの前から、三々五々自分のデスクに向かったり、外に向かったり、自分の仕事へと向かう。
「私たちは、どうします?」
くいくいっと兄様のローブを引っ張って、私は訊いた。
「ん、練習場に行こうか。
魔力制御を覚えないと」
そう言って、移動しようとした、その時だ。
しゃらんしゃらん、と葉っぱがこすれるような音がした。
見ると、どうやらユリウス班長の机に置かれた、昨日も見た連絡装置的なあれが発生源のようだ。
......もうあれ、電話じゃん。
ユリウス班長がそれに触れ、何やら会話しながら、立ち去ろうとした私たちを視線で引き留めた。
様子を見ていると、少ししてぐっと顔をしかめた。
......イヤな予感がする。
不安でたまらない気持ちこみ上げてきて、私はユリウス班長をじっと見つめた。
やがて顔を上げ、こちらを見る。
「緊急で話したいことがあるそうだ。
ラピス、悪いが予定を変更して、今すぐ昨日の約束の場所へ向かってくれ」
「は、はい」
私はこくりと頷いた。
「できるだけなら一人の方が良いとのことだったが......、アルトも行くと伝えよう」
そう、私の手元を見つつ言われ、なんとなく私は手を見た。
私は、がっしりと、兄様の手を、掴んでいた。
「ひやあぁ、ごめんなさいっ!」
私は慌てて手を放す。
完全に、無意識だった。
「いや、いいんだけど......」
「ひゅー、お熱いですなぁ!」
「こら、からかうのはやめなさい」
後ろで先輩方の声が聞こえてきて、私は顔を両手で覆ってその場にしゃがみ込んだ。
「そんなんじゃあないですって!」
もうやめて、私のHPは0よ!
班によって違いますが、基本的にやりたい研究をやっていたり、国や他の人の依頼を受けて何かを作ったりする魔法使い・魔術師が集まるのがこの国の魔法塔です。基本的に国の支援を受けているので、国からの依頼はちゃんとこなす。ちなみに、他の国にも魔法塔のような場所はありますが、国からの依頼でも拒否しやすい分、比べたときに自由度は高いんじゃないかな、と。
それでは、紺海碧でした。次は、13日の投稿になります!




