4.魔法塔へ行こう! (5)
本日は2話同時投稿したいところですが、これだけになる可能性大です。
主人公が大はしゃぎしています。
集団生活において、夜中に大声出しちゃダメ。
六人での、(いい意味で)騒がしい夕食も終わり、部屋に帰って、寝る準備をして。
......眠れないなう。
私は今、用意されていた、ちょっと大きい部屋着の上からローブを羽織り、ベッドでごろごろしている。
お昼間に寝すぎた......。
大半は睡眠というよりかは失神だけど。
睡魔さん睡魔さん、なんでこういう時に限って来てくれないんですか?
「って、言ってても、しょうがない、か......」
と、私は仕方なくベッドから離れた。
こういう時、意味もなくベッドでごろごろしていたら、余計眠れなくなってしまう。
なので、私は窓に面した机に向かい、椅子に腰かけた。
卓上ランプを教えられたようにいじって、明かりをつける。
柔らかな暖色系の光が、机の上を照らす。
私は袖を軽くまくって、手首をぼんやりと見つめた。
左腕には、例の水色の腕輪。
右腕には、いつ付けたかわからない、複雑な模様が彫られた銀色の腕輪がはまっている。
左のが取れないのは知ってる。
だけど、なんで右のも外れないんだろ......?
あ、そうだ、困ったときには。
「ナイえも~ん!」
「我を珍妙な名で呼ぶな」
机のそばに、ナイトが現れる。
この登場の仕方、だいぶ慣れたよ、うん。
「いや、こういう時のお約束でしょ?」
「我は知らぬ」
まあ、前置きはこれくらいにしといて。
「ねえ、これ、どこから出てきたんだろ?」
と、私は右腕のそれを見せた。
「ああ、それはあの塔長が別れ際に主につけたものだ。
なにかあったら、これを見せて黙らせろ、と」
「へええ」
そりゃあ知らないわけだ。
兄様も、教えてくれれば良かったのに。
「あと、主が魔力制御をできるようになるまで暴走しないように、という保険の意味もあるらしいぞ」
「これに、そんな機能が?!」
私はびっくりして、まじまじとそれを見つめた。
「ああ、我も詳しくは知らぬ。
それで、眠れないのか?」
「うん......」
私は素直に頷いた。
「なら、塔長に薬草茶を貰いに行けば良いだろう?」
「今の時間見た?」
思わず突っ込みつつ、私は窓の外を指さす。
外は真っ暗、しかし、空には......。
「え、わぁ!」
私は思わず窓を開けて身を乗り出した。
「星! こんなに見えるの?!」
今までちゃんと見ていなかったからわからなかったが、夜空には、プラネタリウムでしか見たことがないような、満天の星空が広がっていた。
すごい、アニメ映画みたい!
「ああ、この国の夜景は、今も変わらぬな」
「へえ、そうなんだ。
私、外で見てみたい!
行ってくる!」
こんなの、外でじっくり見ないと損だ。
ああ、カメラが欲しい。
「はあ......。
危険な行動はするな」
「はあい!」
私は、ナイトにペンダントに戻ってもらい、階段を駆け下り、照明が暗めに落とされた寮のホールから外へと駆け出した。
外は、安全の為か設置された街灯がぽつぽつと点いていて、あまり暗くないのも幸いした。
むしろ、外の方が明るいような。
玄関付近にあったベンチを選んで腰掛け、空を見上げる。
こうしていると、夏の歌だけど、星空がモチーフとなった、あのアニメソングが思い起こされる。
私は小さな声で口ずさみつつ、飽きずに空を眺める。
ふと、途中で気配を感じて視線を横にやると、一匹の黒猫が、香箱を組んでいた。
ゆらゆらと、長いしっぽが揺れている。
......、自由猫かな?
その猫は、私が歌いきっても、そこにいた。
「ねえ、君はどこから来たの?」
問うと、黒猫は真っ直ぐ私を見た。
猫特有の、大きな金色の目が、私を見つめる。
「君、ここの子?」
「にゃおん」
小さな声で、返事された。
YES、の意味だろうか。
いや、まさかねー。
「まあ、魔女と言えば、黒猫か」
他にも、白いフクロウとかもいるけど。
「そういえば、黒猫と言えば......」
ほら、女の子が、宅配便する......。
「ジジ、ジジって猫いたな」
「にゃー」
不満げに鳴かれた。
「ごめんよ、君にも名前あるよね、私が言いたかったのは、そういう猫がいたって話」
私は弁明する。
てか、私の言ってること、分かってるよね、絶対。
「君も、帰るお家、あるんでしょう?
早く帰らないと、心配されるんじゃあない?」
と、声をかけてみる。
「にゃあ」
それを聞いた黒猫は、ぴょん、とベンチから飛び降りた。
そして、「着いてこい」というように鳴き、寮へ先導し始めた。
「ふぇ、ま、待ってよ」
ちらちらと私を見る視線の圧に負けた私は慌てて着いて行き、一緒に寮へ入る。
黒猫は、階段までやってくるとまた振り向いて、「にゃあ」と言った。
「一人で帰れんのか」、と言われた気がする。
「分かるよ、私の部屋は、角部屋......、あれ?」
すうっ、と背筋が冷えた。
「何階の角部屋だったっけ?」
そう、私はあろうことか、自室のある階がどこだったか、すっかり忘れてしまっていた。
わあ、今日一番のピンチ再来。
流石に、自室に戻れないのは困る。
私が青ざめて固まっていると、後ろから気配がした。
振り向くと、頭をすっぽりとフードで覆った人物が立っていた。
「そこ、どうして......」
――噂の一つに、こんなのがある。
月一で、すすり泣くローブのお化けが出る。
ローブお化けは、こうも言うらしい。
「どうして、どうして......」と。
「ぎゃああー! 出た、お化けぇ!」
私は慌てて黒猫を抱え上げ、階段を駆け上がる。
で、出ちゃった! お化け出ちゃった!
「ちょっと待って......」
「誰が待つもんですか!」
半泣きで駆け上がる。
黒猫は幸いにも大人しく私の腕に収まってくれていて、うっかり落としてしまう、という心配はなさそうだった。
あるフロアに差し掛かったとき、「にゃっ」と鳴かれ、私はそこで階段から離れ、奥へと向かう。
そこには、私の部屋が、あった。
もつれるように鍵を開けて入り、閉める。
そのまま、私はべちゃり、と潰れてしまった。
黒猫を抱えたまま。
「び、びっくりした......」
「にゃーん」
「ご、ごめんっ!」
私は一緒に潰してしまった黒猫を慌てて開放する。
黒猫はとことこと机の方に歩いていき、ぴょん、と飛び乗った。
そして、前足を揃えて座り、私をじっと見る。
「窓から外に出たいの?」
ゆっくりと横に首を振られた。
じゃあなんでそこ行ったのよ。
「あ、そうだ、忘れてた」
私はその姿を見て、やろうとして忘れていたあることを思い出し、ローブのポケットに手を突っ込んだ。
今まで言及し忘れていたが、このポケット、仕組みはわからないが、ちょっとした四次元ポケットだった。
いっぱい入るし、手を突っ込めば何が入っているか教えてくれるし、念じれば出てくる。
嬉しい機能がいっぱいだね。
私が取り出したのは、結局使わなかった手帳とペン。
これを、日記の代わりにしようと思ったのだ。
そう、私の、異世界探訪記。
私の、旅の記録。
手帳に今日のことを日本語で書いていくと、黒猫は興味深そうに覗き込んできた。
心なしか、目がキラキラしている気がする。
「わかるの?」
思わず問うと、こくり、と頷かれた。
......、気のせいだ、うん。
私はなんとなく小説風にそれを書き上げ、ぱたん、と手帳を閉じた。
黒猫は、じっと閉じられた手帳を見つめている。
私は、なんとなく手を伸ばし、黒猫のあごの下を掻いてやった。
ごろごろとのどを鳴らす声が聞こえてきて、思わず笑みがこぼれる。
なにこれ、めっちゃ可愛いんですけど。
......あ、でも、なんか引っかかるって思ったら。
「えへへ、君、誰かに似てるって思ったら、アルトさんの声にそっくりだ。
なんか、安心する」
私は、思わず本猫に向かってそう言った。
「にゃ?!」
それを聞いた黒猫は、びくっとして固まった。
え、なんか悪いこと言った?
でも、今まで薄暗かったからわからなかったけれど、よく見るとこの子、美猫さんだなぁ。
ところで、私、実は、猫と一緒に寝るの、夢なんだよね。
よし。
帰らないって言った(?)の向こうだし、いざとなればナイトが何とかしてくれるだろう。
ナイト、信じてるよ、うん。
「じゃあ、一緒にねんねしようか~」
黒猫が固まり続けているのをいいことに、抱え上げ、ベッドへと移す。
私も靴を脱ぎ、ベッドに横になった。
「おやすみ」
私は黒猫を抱きかかえて、そのまま不思議なくらいあっさりと、夢の世界へ旅立つことが出来たのだった。
ちなみに、黒猫は、次の日の朝になったときには、窓を開けて出て行ったらしく、いなくなっていた。
あの子の存在は夢かとも思ったが、そうでない証拠に、しっかりと閉めたはずの鍵が掛かっていなかったので、そうではなかったと確信した。
ちょっぴり切ない気分にもなったが、こうして二日目が幕を開けたのだった。
一応あらゆる権利に配慮しています。これでBANされたらどうしよう。
そして、鮮やかに伏線回収もしてくれました。芹奈はおそらく、2次元のホラーにはそこそこ耐性があるけれど、自分の身に起こるとダメなタイプかな。案外、映画やゲーム実況の動画でもダメかもしれません。アルトはたぶん、どれでも平気。芹奈のクラスメイトたちは、どうなんでしょう......嬉々として肝試ししてそうなんですよね......深夜の学校とか......。ちなみに、筆者は耐性がない方です、はい。
それでは、紺海碧でした。次回は、できたら同時投稿、できなかったら次の日になると思います。




