4.魔法塔へ行こう! (3)
今回も説明回。
前にちょっと出た知識の補足編。
一応本日は1話のみ投稿の予定ですが、筆者側の都合により、2話同時投稿になるかもしれません。
私たちが執務室に戻ると、ほっとした表情の二人が出迎えてくれた。
心配してくれていたらしい。
「ラピスさん、うまくいったのですね」
「良かった、ラピス。
なにか変なことはされてない?」
「されてないです、大丈夫です......」
心配そうに駆け寄った兄様に、そう私は答えた。
......うん、なんか試験受けてる気分だったけど、変なことはされていないので、間違いではない。
「ここに所属していいって言って下さったんだよね?
ところで、どこの班所属って言われたの?」
着替えたローブを見つつ、兄様がそう言う。
そういえば、班がどうって言ってたけど、あれのことかな......?
「貴方と同じ班に決まっているでしょう、アルト。
目を離さないようにして頂戴ね?」
アルトさんの問いに私より早く答えたのは、ラリマーさんだ。
それにしても、私の扱いって、ちっちゃい子みたいじゃない?
内心そう不貞腐れていたが、後日、その言葉通りにしなかったせいで痛い目に会うとは、この時、夢にも思っていなかった。
油断大敵。
これ大事。
ラリマーさんは私たちにあの雑然とした机の近くにあるソファーに腰かけるように言って、自分は執務机へと向かった。
そして、金属板とガラス板を組み合わせた道具を指で弾きつつ、「ユリウス班に繋いで」と言った。
電話、かな?
「うん、あれは固定式の連絡装置。魔導具の一種だよ。
『言の葉』っていう、『言の葉の樹』って呼ばれている樹から採れる、特別な葉っぱが中に組み込まれてるんだ。」
「どんな風に特別なんですか?」
「葉にメッセージを書いて、宛先と送り主を書いて届くように念ずれば、自分で飛んで行って、メッセージを送ってくれるんだ。
ちなみに、これは携帯式。こっちは魔術具だけどね」
と、丸くて厚めのプレートを胸元から出して見せてくれた。
メッセージを送ってくれる葉っぱかあ。
便利......なのかな?
「魔導具と魔術具って、どう違うんですか?」
大きさかな?
「ううん、詳しく言うとややこしくなるから......」
ざっくり言うと、
・起動の際に魔力を流すのが魔術具
・起動の際に魔力を流さずスイッチなどを押すのが魔道具
らしい。
仕組みとかどうなっているのか聞こうかと思ったが、おそらく電話やパソコンの中身を聞くのと同じだと思ったのでやめた。
「それ、高いんですか......?」
「まあ、安くはないね」
まあ、スマホも結構なお値段したりするもんな。
「すぐに来るって言ってたわ。
ところでニコ、ユリウスにはどこまで話すつもり?」
いつの間にか通話を終えたラリマーさんがニコラウスさんに訊いた。
「全てを」
「それ、私も聞いて良いのよね?」
「勿論です」
すごいいろんな人に私の素性が知られてく......。
いや、今のところ、協力してもらうために必要な人ばっかりか......。
私からはバレるような行為しないようにしないと。
さて、これから来るというユリウスさんとは、どのような人なのだろうか。
そう考えていると、ノックの音がした。
「失礼します」
入ってきたのは、マティアスさんやニコラウスさんと面影のよく似た、四十代くらいで、マティアスさんのように後ろで結んだ水色の髪、金の瞳をした男の人だった。
親戚......?
「ユリウス先生は、マティアス様とニコラウス様の叔父に当たるひとだよ。
王位継承権自体は放棄されているけれど」
なんと。
目が金だからひょっとしてとは思ったんだけど。
「お呼びに従い、参上しました」
「そんな堅苦しい挨拶は止めろと散々言ったでしょう。
さあ、悪巧みの時間よ、私の隣に座って頂戴」
と、言いながらラリマーさんは、ニコラウスさん、兄様、私が座っている、向かいのソファーに移動した。
それにしても、悪巧みとは人聞きが悪い。
「はいはい、しかし、そう言う訳にもいかないのですよ、先輩」
と、がらっと口調を変えて、言葉に従うユリウスさん。
雰囲気としては、マティアスさんよりかニコラウスさん寄りだな、この人。
それにしても、『先輩』呼びなんだ。
「ええ、ここにいる我が子たちは大抵は後輩ですけどね。
ところでラピスさんは『学園』について知っているかしら?」
「......あんまり?」
リアルホグ〇ーツ魔法学校ってことくらい。
「だめじゃあない、ニコ。
基礎知識はちゃんと教えないと、ごまかせないでしょう」
とばっちりで叱られるニコさん。
あう、ごめんなさい、わざとじゃあないです、だからそんなに睨まないで。
そして、ラリマーさんは、度々話題に上がっていた『学園』について詳しく解説してくれた。
まとめると、こうなる。
まず、この世界は、大体、七歳で“学び入り”、十五歳で“独り立ち”、十八歳で成人と、節目の年を迎える。
これもこの世界共通だが、七歳~十三歳は義務教育の年齢であり、それぞれ学校へと通う。日本でいえば、小学校と中学校を混ぜたような場所だ。
十四歳~十八歳は、それぞれ日本でいえば大学や専門学校のようなところへ通ったり、もしくは大人たちと共に働いたりする、らしい。
ちなみに、十五歳でほぼ大人として認められ、十八歳になれば完全に大人の仲間入りである。
そして、魔力持ちは強制で十四歳~十五歳の二年間、『魔法学校』と呼ばれる場所で魔力の基礎的な扱いを身に着け、その中で魔術師を目指す者が十六歳~十八歳の三年間『魔術学院』で技を磨き、さらに研究したい者は『魔術院』へ行く。
ちなみに、魔法学校を卒業しただけなら、魔法使い、と呼ばれる。
「その......、魔術師と魔法使いの違いって、なんですか?」
私は挙手をして尋ねた。
地味に聞いてない。
「それは、杖を見れば分かりますよ」
と言ったのは、これまた私へのレクチャーが始まってしまった為、地味に状況説明もないまま放置されたユリウスさんだった。
「私の杖、メインの青以外に、いくつか縦線が入っているのがわかりますか?」
そう言って腕まくりし、私にわかりやすいように見せてくれる。
「はい」
「これは、自分の属性以外の魔法が十分使えるようになった、“加護”がついた証なのです。
貴女は、この腕輪の色がいくつあるか、知っていますか?」
「えっとー」
魔法は全部で六属性。
黄=光。
黒=闇。
赤=火。
青=水。
白=風。
緑=土。
なんだって。分かりやすい組み合わせで良かった。
「はい。
そのうち、闇属性以外の者は自分の色以外の四色、闇属性ならば五色のラインを集めれば魔術師、満たないなら魔法使いとなります」
「どうして、闇属性は別なんですか?」
「闇は、まあ、隣にレアな闇属性魔術師がいるので、そちらに後ほどインタビューすればいいかと」
その言葉に、思わず私は兄様の方を振り返った。
「そんな凄いひとだったんですか?!」
「まあ、珍しいのは否定できないけど......」
気まずいのか、鼻の頭を掻きつつ、兄様は視線を背けた。
あまり得意な話題ではないらしい。
「貴方は、貴方の属性を好きではないのは、知っていますよ。
そのせいで色んな事件に巻き込まれたことも。
しかし、貴方も向き合うべきでしょう、守るべき“妹”さんも出来たのだから」
「はい......」
兄様は俯いてラリマーさんの話に相づちを打つ。
私は、その横顔を見て、何が過去にあったのか絶対に訊かないでおこう、と決めたのだった。
私は、この問題に立ち入るべきではない。
「さて、では、こちらのお嬢さんを、私にご紹介頂いても?」
黙り込んでしまった私たちに、暗い雰囲気を変えるように、ユリウスさんが尋ねた。
「ええ」
それにニコラウスさんが素早く反応し、私の現状とそれに伴うラリマーさんたちへのお願いを的確に説明してくれた。
すごい、流石、国を支える人だ、私にはできないな。
ううん、こういう風な大人になりたい、とは思った。
「それなら、訓練いたしましょうか?」
「......、いいえ、遠慮しときます」
にこやかに勧誘されたものの、何か嫌な予感がして、すぐに首を振った。
「そうですか、残念です。
貴女なら、即戦力になると思ったのですが」
......私、将来、この国に取り込まれそうな気がする......。
そんなニコラウスさんとのやり取りをスルーして、ユリウスさんが話しかけてきた。
「なるほど、そのような事情でしたか......。
大変でしたね、ラピスさん。
困ったことがあれば、相談してくださいね。
私の班員になるのですから」
「はいっ、ありがとうございます」
私は、ユリウスさんにぺこり、とお辞儀をした。
「では、一旦塔内や訓練場に案内......」
「「ぐうぅぅ」」
お願いしてもいいですか、とニコラウスさんが言おうとしたそのとき、お腹の虫の声がした。
私と、アルトさんの音である。
そうだ、お昼ご飯食べてない。
二人で顔を赤くして、目を見合わせ、俯いた。
「あらあら、じゃあ、ここに二人分の昼食を持って来ましょうか。
その後で、ユリウス、アルト、ラピスの案内をして頂戴」
「かしこまりました」
「「はい......」」
お昼ご飯は、野菜たっぷりスープとふかふか小麦パン、オムレツでした。
すごく美味しかったです。
本編で言及されていませんが、現時点で一応お昼過ぎです。昼食抜き組のお腹は限界だった模様。
人前でお腹鳴ると恥ずかしいですよね。筆者も、何度か経験が......。
それでは、紺海碧でした。これを予約投稿したのちに、同時投稿をするか決めます。二つ同時に投稿されていたら、そういうことです、はい。