3.情報交換と話し合い (5)
本日も少し長めにつき、1話投稿です。
次回から、新しいサブタイトルに突入します。
多分、この話がトップクラスに長い。
「え、ちょっと待っ......」
本当に置いていくの?! なんか叱られてるっぽかったけど大丈夫なの?! あと変装ってどうすればいいの?!
最後の無茶ぶりに、私は咲良お姉ちゃんの方へ手を伸ばしながら、内心パニックに陥っていた。
『変装』とは、髪と瞳の色のことだろう。
でも、カツラもカラコンもない。
一体どうすればいい?
ちょ、そんなこと丸投げしないでぇ!
すると、ドヤ顔をしたナイトにぽんっと肩をたたかれた。
なにか、考えがあるらしい。
「我は、『宝石の精霊』だからな。宝石とは、身に着けるひとの魅力を引き出すもの」
「はあ」
「つまりは、我に任せろ」
そして、指パッチンした。
あれ、正式名称なんて言うんだろうね。
ぱちん、という音とともにきらきらと光る青色と金色の光が出現し、私に降り注いだ。
「わわっ」
「「「「ああ......」」」」
思わず顔を両腕でかばいつつ、ぎゅっと目を閉じた。
あ、これ、やらかしたやつですね。
私のせいじゃあないから! でもごめんなさい!
そろそろと目を開く。
何がどうなった?
見える範囲では、異変はないような......。
私の様子を見て、ナイトは、満足そうに頷いている。
「あの......、せ、ラピスちゃん......」
「はい何でしょう」
硬直する大人四名の中、アルトさんが、引きつった笑みとともに、口を開いた。
釣られて私の顔も引きつる。
「あの......、髪と瞳の色、ナイトとお揃いになってるよ......」
なんですと?!
私はゆっくりとナイトの方へ向き直り、にっこりと笑みを浮かべた。
今度は、キックで足りるだろうか。
「ナイトさんナイトさん、どういうことですか?」
「変装が必要だったのだろう?」
「せめて色選ばせて?!
それとこれ元に戻るの?」
ナイトの髪色綺麗だと思うけど私にしては派手すぎるし、第一、戻らなかったら困る!
日本では黄色の瞳はあっても青い髪の人はいないよ、たぶん。
本の中ならいるだろうけど、私がしたら、生徒指導室まっしぐらだ。
こんなことで懲罰食らいたくないよ。
「色の変更はできないが、元には戻るぞ?」
「はああ」
私は二種類の意味が混じったため息をこぼした。
まあ、これで良かったのかな。
「とりあえず、ありがとう?」
「何故疑問形なのだ......。
では、我はここで戻るぞ。必要があれば何時でも呼べ」
「あい」
そうして、彼は戻っていった。
本当に私の周り、最後にやらかしてくれるひと、多いなあ......。
私?
普通......、だよね? なんか自信なくなってきたけど。
「ええ、やらかしてくれたわね、ナイト......」
アリアさんが頭を抱えながら言う。
「宝石の精霊が変身魔法を扱えるとは知らなかったけど、良かったんじゃあないかな」
「アルト、貴方研究したいとか思ってるんでしょう。
それに、貴方の『固有魔法』だってそうじゃない」
「姉さん、しー」
アルトさんが慌てている。
なにか言ってはいけないことだったらしい。
私、何にも聞いていませんよ~。
すっとアルトさんから目をそらす。
そもそも、“固有魔法”がなんなのかすら知らないし。
「おっと。
でも、遅かれ早かれ、ラピスちゃんには、伝えた方がいいんじゃない?
どうせ私もマティアスたちも知っているんだし、何より、“家族”になるんですから」
色々突っ込みたいところがあるのですが......。
ひとまず。
「“固有魔法”とは......?」
私は、そう尋ねた。
「“固有魔法”とはね、その人の得意な魔法、ってことよ。
私なら“治癒魔法”、ラピスちゃんならおそらく“精霊魔法”ね」
ちなみに、“固有魔法”はおおよそ二種類に分けられ、私のようなそれを持っていないと扱えないような“才能型”、アリアさんのようなもともと自分が持っていた力をさらに高めてくれる“上乗せ型”、となるらしい。
ちなみに、アルトさんの“固有魔法”は、“才能型”みたい。
そして、“固有魔法”はひとりひとつ。
“固有魔法”は正確に判定する機械があるわけではないらしく、「この子はこれが扱えるから“固有魔法”はこれ」という感じらしい。
ちなみにちなみに、魔力の方は正確に測れる機械があるんだって。
魔力計測器なんて、ファンタジーだよね。
いや、魔法がある時点でファンタジーだ。
「さて」
そう、ニコラウスさんが、話を変える。
「これからのことですが......」
「はい」
私は背筋を伸ばして座り直した。
聞き洩らさないようにしなきゃいけない。
これからの言葉は、重要なことだから。
「そこまで気を張らなくても良いですよ。
メモを取って頂いても構いませんし」
「メモがないです......」
普段ならブレザーの胸ポケットにシャーペンを挿しているのだが、今日は入学式で、式典の際は胸ポケットに筆記具を挿してはいけない決まりだったので、持っていない。
生徒手帳のメモ欄に書き込むこともできただろうが、残念ながらそれを渡されるのは入学式の後のHRである。
つまり、書くものも紙もない。
詰んだ。
「じゃあ、これ、良かったら使って、新品だから」
それを聞いたアルトさんは、そう言ってローブのポケットからペンとインク壺、シンプルなデザインの手帳を渡してきた。
このペン、よく見ると、万年筆......。
「このペンはこのインク壺と繋がっていて、インクの補充をしなくても良くなっているから」
「いやいや、こんな高価そうなの、貰えないですよ!」
しかもこのペン先、金では......。
こういうのって、すごく高価だって書道の先生から聞いたことある......。
私の背筋に、すっと冷たいものが伝った。
「手帳は間違って買った、おれは使わないものだし、そのペンは、おれの開発しようとしているものの試作品なんだ。
使って、どうだったか感想を聴かせてほしい」
ペンは気に入ったらずっと使ってくれて構わないし、といい笑顔で言った。
なるほど、テスターってことか。
なら、甘えてもいいだろう。
「では、ありがたく」
真っ白いページにちょこちょこと自分の名前を書いて試し書きしてみる。
流石金ペン万年筆、書き心地がめちゃくちゃいい。
中等部の書道の授業で使った、自前の万年筆とは全然違う。
なんか、ちょっとおしゃれだし。
うわ、持って帰りたい......。
「それ、一応手動でインク入れられるから、後で教えるね」
私の感動が口から洩れていたらしく、アルトさんが笑いをかみ殺しながら言った。
かああ、と自分でも顔が赤くなったのが分かる。
赤いまま私はこほん、と咳払いして、
「ニコラウスさん、私、準備できました」
と、話を逸らした。
うぅ、恥ずかしい......!
一刻でも早く話を変えたいというのが伝わったのか、ちょっと笑いながらニコラウスさんが話し始める。
「お前が笑うなんて珍し......」とぼそっと言っていたひともいたが。
「まず、貴女には、魔力があるということなので、万が一暴走することがないよう、制御する術を身に着けてもらいます」
「魔力の暴走?」
「ええ、もしそのような事態になれば、貴女のみならず、周りにいた者も死の危険がありますから」
うえ、怖いなぁ、それ。
でも、勝手にやっちゃっていいのかな、必要なことだとしても。
「ええ、問題ないでしょう。
制御出来ないことが最も危険なことなので。
本来なら『学園』に所属するのですが......、貴女は事情が事情ですし、王宮で訓練しましょう」
「『学園』?」
「魔法が学べる学校が複数あるので、それらを纏めてこう言うのですよ」
リアルホグ〇ーツ魔法学校。
ちょっと興味あるかも。
「......ユリウス様には、こちらから話をつけます。事情を知っている貴方に協力をお願いしてもいいですか? アルト」
最後はアルトさんを見ながら、ニコラウスさんが言った。
私はアルトさんの様子を伺う。
「畏まりました。
私から見ても、適任だと思います」
即答だった。
えっと、お礼言った方がいいよね?
口を開きかけると、それにかぶせるようにニコラウスさんが続けた。
「そして、貴女には、お芝居をしてもらいます」
「え?」
つまり、私が科学界、そして『砦』の人間ということを隠すため、“平民だったが両親が事故で死に、その際、魔法の才能が開花したため、遠縁であるシュバルト家、並びに王家の預かりになった少女”という役割を演じろ、ということらしい。
どこの小説の話だよ、しかも、なんか珍獣扱いのような......。
まじか、無理あるでしょ、これ。
「まあ、ひとはもともと多かれ少なかれ魔力は持っているし、死にかけたことで杖が持てるくらい魔力が高まるっていうのもありえない話じゃあないよ」
おれもそんな経験あるし、とさらりと恐ろしいことを言うアルトさん。
そう、これ、魔力持ちにもいえることらしいのだ。
つまり、もともと持つ魔力を高めるには、死ぬ気で頑張るか、(そうそう遭うものではないが)生き死にが関わるような事件に巻き込まれるか、ということだ。
ひぇ、こっわ。
私の頬が引きつる。
だって、そこまでシリアスな一面を、持ってるとは思わないじゃん......。
「あと、巻き込まれるのはある程度仕方ないですが、お兄さんやお姉さんのように揉め事だけは起こさないでください」
「私そんなことしてないわよ!」
「おれじゃあなくて、相手に言ってください......」
元気よく突っかかるアリアさんに、そっぽを向いて鼻の頭を掻くアルトさん。
もしかして、シュバルト家って、問題児の集まりだったりするの?
「ラピス、そんなことないわよ。
それに、お姉ちゃんと言ってね、私たち、“きょうだい”なんだから」
アリアさん、いや、姉様がにこりと笑って言う。
『お姉ちゃん』はちょっと恥ずかしいし、ファンタジー物で見るようなお貴族様っぽい言い方の方がいいよね......。
「姉様?」
「そうよ!
ああ、かわいいわぁ、弟も可愛いとは思ったけど、やっぱり妹もかわいいわぁ」
姉様、どんだけ妹欲しかったんだ。
そこ、引いてないで、すりすり攻撃から助けて!
本当にこれが貴族の姿なのだろうか。
だが、私もそれについて考える暇はないのだ。
なんとかしてここから脱出しなければ、私のHPが危ない。
「に、兄様ぁ~」
姉様にもみくちゃにされつつ、私はアルトさん、もとい、兄様を呼んだ。
ア......、違う、姉様にも好評だし、いいよね。
一瞬、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした兄様だったが、すぐに我に返って救助してくれた。
「姉さん、ラピスが、困ってるよ」
うう、なんか、デジャヴ......。
私は、もみくちゃになった身体を引きずって、姉さまとの距離を取り直す。
「アリア、落ち着いてください。
今から私とアルト、ラピスさんの三人で魔法塔へラピスさんの所属許可の取ってきますから。
兄さん、後はよろしくお願いしますね」
さあ、行きましょう、とアルトさんと私はニコラウスさんに追い立てられるようにして魔法塔へと向かったのだった。
......『魔法塔』ってそんなノリで行けるところなの?
だれか、説明してーー!
頑張る主へのプレゼントが、主にとっては割とありがた迷惑だったという。芹奈、それは受け入れるしかない、がんばれ。
そして、アリアの独特な愛情表現に引く芹奈に、あの場の良心が配慮した結果、次話からは舞台がちょっぴり移動します。
......アリア、もしかしたら次の君の出番は次章になるかもしれない、そうなったらごめん。でも、ちゃんと活躍してもらいたいと思ってるから! ......次章以降に。
それでは、紺海碧でした。次の更新は9日のはず!




